世界観警察

架空の世界を護るために

声に出して読みたい聖典 - 『DARK SOULS』考察雑記

 おはようございます、茅野です。

最近は弊ブログの知名度が何だか妙に上がっているようで、喜ばしいことながら困惑することも多々あったり。

 

 さて、今回は久々に『DARK SOULS』から。いや、書きかけの記事が3本くらいあるのですが、己のリサーチの量と質に納得がいっていないので(※凝り性)、もう少し寝かせておきます。そのうち上がります。

 

他のダクソ記事はこちらから。↓

 

 当記事は、特に書く予定がなかった単発記事なのですが、何故急遽このような記事を書くことにしたのかという雑記を前半部に、後半部では「奇跡」について、「旧王家神話体系」記事シリーズの第三弾として論考します。

 それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します。

 

 

イタリアのダクソ考察勢との出逢い

 雑記です。興味ない方は次節まで読み飛ばしてください。

弊ブログ「世界観警察」は、ご存じの方もいらっしゃるでしょうが、主にインディーズゲームや知名度の低い舞台芸術作品を取り上げる、マイナージャンルに関する考察や解説記事を基とするブログです。

 ところが、先日興が乗ったので、今をときめく覇権ソーシャルゲームウマ娘』の考察記事を書いてみたところ、鬼神の如くバズりまして……。

テイエムオペラオー君担当トレーナーです! 宜しくお願いします!!!

 

 ここまで記事をバズらせたのは流石に初めてなので、覇権コンテンツの拡散力におののきつつ、概ね高い評価を得られたようで大変嬉しく思っています。皆様、ありがとうございます。……そして、そのバズり具合も流石に落ち着いてきた頃、第二の波がやってきた!

 

 5月のある日、ブログのアクセス解析を行っていると、前述の『ウマ娘』の記事を投稿して以来、こちらの記事が人気記事1位は不動の首位を維持していたのですが、その日は『DARK SOULS』の記事が首位を奪っておりました。「はて、どうしたものか」と更に解析を続けてみると、DARK SOULS』記事へのアクセスの大半がイタリアから行われたものであることが判明

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 『ウマ娘』記事が相当にバズったので、日本からのアクセスが大変に多く、あまりインパクトないかもしれませんが、イタリア語での記事がひとつもない弊ブログに、イタリアからの来場者が急にこれほどまでにも。解析によれば、パーセンテージにして約15%、最大で一時間に540人超が閲覧していたという数字が出ました。勿論『ウマ娘』ほどではありませんが、プチバズと言っても良いレベルだと思います。ちなみに、その日に限って言えば、日本からのアクセスよりもイタリアからのアクセスの方が多いという有様でした。

 

 「イタリアで一体何が……!?」と更に解析を続けると、イタリアの某有名YouTuber・S氏が、生放送でわたしの記事を紹介したのだということが掴めました。彼のコミュニティにある生放送のログを辿ってみると、わたしの記事へのコメントがイタリア語で92件も付いていて、流石に驚きましたね。概観した限りでは、当然と申しましょうか、大半の人が日本語を読めないので、「なんて書いてあるんだ?」「日本語を勉強しなければ……」といったようなコメントが多く付いていました。

 その状況を見るに見かね、蛮勇にも「その記事を書いたジャップだけれども、質問あるなら答えるよ」とコメントを残したところ、その有名YouTuberの脚本担当をされているMirko氏から返答が!

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 Mirko氏は日本語も勉強されておられるようで、イタリア語版での誤訳を鑑み、日本語テキストでの正確な意味を調べていたところ、わたしの記事を見つけ、生放送での紹介に至ったとのことです。

 

 そうして、Mirko氏とのやりとりが始まったわけなのですが……、いや、これが実に楽しくてですね! 非常に厳格派で、わたしが自説を提示した際に少しでも根拠が薄いと的確に突いてきますし、逆にこちらがそれを指摘すると、しっかりと補強をしてくれます。正に理想的な「議論」が展開しており、わたしはイタリアに安息の地を見出しました。

 議論と共に、信憑性が高いと考えられる仮説についての情報共有や、誤訳の検証、わたくしの方から日本語の語義を解説したりなどもしています。ここ数日は一日に3, 4時間ほど対話することもあり、めでたく寝不足です(時差もありますし)。

 

 しかし、別記事にて詳しい経緯は述べましたが、わたくしがダクソ考察勢として現役で活動していたのは5年も前の話であり、謂わば老兵。定期的に執筆の依頼がくるので記事執筆を行いますが、とても現役勢とは呼べないような状況にありますので、「最近の日本の動向」などを問われると弱ってしまいますね。そんなものはわたしが知りたい。

 実は、海外勢との交流はこれが初めてではなく、英語圏の考察勢ら(イギリス勢)とも議論していたことはあります。ちなみにアリアンデルの議論とかしてました。が、「海外でバズる」のは流石に初めてで、とても驚いたので、一筆やらせて頂きました。イタリアから興味深い情報を得られれば、共有したいなと考えています。

 

奇跡のメカニズム

 さて、ここからは考察。わたくしは比較神話学を愛好していることもあって、信仰に振るのが好きです。もっと言うと、ギンバサビルドが好きです。大好きです。皆様、信仰技量に振ってますか? そんなわけで、今回も「奇跡」のお話をば。

 議題は、「奇跡のメカニズムについて」です。

 

祈りの詠唱

 『DARK SOULS』世界では、主に魔法が三種類存在します。魔術、呪術、奇跡です(闇術というのもあった)。

魔法は、「詠唱」により効果を発揮します。

魔法の詠唱時間を短くする

                      (古老の指輪『DARK SOULS III』)

 戦技「追加詠唱」などにあるように、特に魔術では「詠唱」という語が好んで用いられていますが、お馴染みの古老の指輪のテキストにあるように、全ての魔法は詠唱によって為されるということがわかります。

 

 魔術では「詠唱」という語が用いられると述べましたが、奇跡ではどうでしょうか。以下のテキストをご覧下さい。

鈴草の聖鈴は遠く北方の習わしであり
通常の聖鈴よりも短い祈りが特徴となる

                      (聖木の鈴草『DARK SOULS III』)

 このように、奇跡では「詠唱」の他、「祈り」という語が用いられています

「詠唱」とは、「詩歌を節をつけて歌うこと」(デジタル大辞泉)です。そして、「祈り」とは「神仏に請い願うこと」(同上)。「祈り」には「黙祷」も含まれますが、「詠唱」という要素を含むとなれば、ここでは「口祷」でしょう。つまり、「神々に対し、願いを歌う(述べる)こと」が、奇跡発動の条件と言うことができそうです。これを日本語で一言で表すと、「祈祷(=神仏の加護を願い言葉によって除災増福を祈ること)」になります。

 

 その「祈祷」の内容こそが、各奇跡の物語です。

奇跡とは、神々の物語を学び
その恩恵を祈り受ける業であり
その威力は術者の信仰に依存する

                        (中回復『DARK SOULS III』)

暗い月の奇跡は、即ち復讐の物語である

だが騎士団総長ヨルシカはその意味を知らず
ただ兄の面影に、彼の物語を語るだろう

                     (暗月の光の剣『DARK SOULS III』)

 つまり、「暗月の光の剣」であれば、「暗月の光の剣」という業を編み出したグウィンドリン様の物語を「詠唱」することにより、発動する、というわけです。その為、わたくしの考えでは、「神々の物語(奇跡)」とは、韻文の叙事詩なのだろうと推測しています。わたくしはこの「神々の物語」が大ッッ変気になるのですが、残念ながら修道女の知り合いがいないので奇跡を学ぶことができません。ドリン様が「復讐」を成し遂げた物語、気になりすぎませんか……啓蒙が足りない。

 

 さて、奇跡のメカニズムは判明しました。考察に於いて、丁寧に語義を追うことの重要性は言わずもがなです。普段なんとなく使っている「詠唱」という語が、ただの発話ではなく、詩歌を歌うことであることを知る人は少ないのではないかと思います。

 ここで止めてもいいのですが、もう少しだけ続けましょう。

 

神との対話

 「祈祷(口頭での祈り)」は、各宗教で非常に大事にされています。カトリックの総本山・バチカンでは、教皇が以下のように述べています。

 「祈りは神との対話である。すべての被造物は神と対話している」と述べた教皇は、人間の中でその対話は、祈りの言葉や、歌、詩となっていく、と話された。

「歌、詩となる」というのは、正に前述のこととも合致します。

 

 又、日本語でもこれは然りです。「祈り」の語は、「い + のり」に分解することができます。語源としては、「い」については様々なヴァリアントが存在しますが(「生」や「意」、接頭辞である、など)、「のり」に関しては「宣り」でほぼ一致しています。漢字からも察せられる通り、「宣り」とは「宣言する」ということ。つまり、今でこそ黙祷の意も含むこの語も、元々は「神に宣言をする」という意味であったということがわかるのです。

 

 それは『DARK SOULS』世界でも同じ、ということなのでしょう。口頭にて、神々と対話をする。神々に願いを届ける、宣言をする。このことが、神々の実在が確定している『DARK SOULS』世界に於いても、特に重要なのでしょうね。

 

戦場に在る詩歌

 RPGではお馴染みになっている、「パーティにいる聖職者」。しかし、よく考えてみると、不思議ではありませんか? 戦士や騎士が肉薄する戦場に於いて、聖職者ってどう考えても足手纏いになると思われませんか? ―――しかし、聖職者は現実に於いても、戦場に在るのです。

 

 勿論、近現代に於いても「従軍聖職者」という形で、戦地に赴く聖職者がいます。ちなみに、国際人道法に於いてもきちんと保護された存在です。彼らは、兵士の臨終などに立ち会い、祈祷を捧げる役割を持ちます。これは特定の宗教に限られたものではなく、「従軍司祭」「従軍僧」……と言った形で、各宗教宗派に存在します。

 

 しかし、更に時代を遡ってみると、どうでしょう。「回復役としてではなく、攻撃役としての聖職者」の存在が見えてきます。勿論、これは、「僧兵」のような、薙刀などで戦うことを職とした人々のことではありません。今から説明させて頂くのは、我々が想像するように、「祈りを捧げることによって戦う聖職者」です。

 

 アラブに於いて、イスラーム以前の時代のことを「ジャーヒリーヤ(無明)時代」と言います。この時代の詩は多く「アラブ古詩」と呼ばれるのですが、この時代の詩人たちは、「戦う詩人」でした。彼らは高給で雇われ、或いは自らの意志で、戦場に赴き、詩を詠みました。この詩歌は、現実に力を持つと考えられていました

相手を貶める誹謗詩であれば、相手の戦う力・生きる力を削ぎ、致命的な呪いになります(事実、誹謗中傷を喰らえば我々でも胸が痛み、最悪の場合は鬱病になったりしますから、これは強ち間違いでもないでしょう)。

逆に、味方を鼓舞する詩を詠めば、所謂攻撃力アップとか、リジェネのような力があると実際に信じられていました。プラシーボ効果もあるでしょうし、美しく勇ましい言葉で自分を励ましてくれる力強い存在、というのは、心理学的に見ても事実重要であったのだと考えられます。

 

 アラブだけではありません。「アルゴナウタイ」という語を世界史か何かで習った記憶はあるでしょうか。これは、ギリシア神話に於いて、アルゴー船という船に乗り、航海をした英雄達の総称です。

「アルゴナウタイ」の中には、吟遊詩人オルフェウスがいます。彼は、冥界へ下り亡き妻を取り戻そうとする冥界下り譚で非常に有名ですが、その詩人としての才能も名高いものです。オルフェウスは、その竪琴の響きと歌う詩歌の美しさから、人々のみならず、神々や草花までも従えたと言います。一方、剣を手にしたという記述は全く見られず、彼の美しい手にあるのは常に竪琴なのです。

 彼は、アルゴナウタイの一員として、船員を鼓舞し、美しい詩歌を捧げました。これは、事実魔術的な力を持ったと信じられています

 又、これはヴァリアントが存在するのですが、オルフェウスは太陽神アポロンの息子という説もあり、神々との繋がりが強い存在でもあります。このこともあってか、彼はアポロン信仰の司祭であった、とする説も有力となっています。ギリシア神話オルフェウスは、正に、「戦地にあって、詩歌を詠唱し、戦う聖職者」なのです。

 

 このように、現実世界に於いても、「戦地にあって詩歌を詠唱する聖職者」の存在は神話世界や歴史上にも認められています。『DARK SOULS』世界は、魔法が蔓延り神や異形の実在するファンタジックな世界ですが、「奇跡」の発現に関しては、歴史考証・比較宗教学の側面から見ても、現実的であると評価することができるのです

 

最後に

 通読お疲れ様で御座いました。5500字超です。書くつもりがなかった単発記事とは言っても相変わらず長文になってしまう悪癖。お付き合いありがとうございます。

 やはり奇跡はいいですね。これだから奇跡は好きだ。魔術に比べて使用率が低い奇跡ですが、皆様是非奇跡使ってあげてください。わたくしは切実に神々の物語が読みたい。

 長くなりましたので、これにて締めさせて頂きたいと思います。また別記事でお目にかかれれば幸いです。

参考文献