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ジョブ・グウェント『序曲』の音源を作成する - 音楽雑記

 こんばんは、茅野です。

突然ですが、今日(投稿日の9月8日)は何の日でしょう! 出題しておいてなんですが、わたくしが想定している答えを出せる方はいらっしゃらないとおもうので早々にネタバレ致しますと、筆者が趣味で研究している推しロシア帝国の皇太子、ニコライ・アレクサンドロヴィチ殿下のお誕生日(ユリウス暦でした! 非常にどうでもいいですね! しかしながら、今回はその関連の記事になります。あっ、折角なので覚えていって下さい!(?)

↑ 殿下の紹介推し語り記事。

 

 先日、シモン・セバーグ・モンテフィオーリ氏の大著、『ロマノフ朝史』の邦訳版が発売されました。買いましたよ。高かった……(上下巻で15000円)。

まあ、実のところを申し上げますと、前述のニコライ殿下(愛称ニクサ様)の研究にドハマリすぎて、原語版を3年も前に入手していて既読だったのですが、母語で殿下の記述が読めるなんて~! と何も考えずに買いました、ええ。オタクというのは、推しのことになると金銭感覚が消滅する生き物です。『ロマノフ朝史』、12歳の殿下が兄弟げんかで枕投げたエピソードが載ってるんですよ~。愛しいの極みですね……。それだけで買う価値があるというものです。

 さて、日本語での『ロマノフ朝史』の記述を堪能していたら、「わたしも何かしたい!」という欲求に突き動かされたので、この記事を執筆している次第です。今回は、音楽の記事になります。お誕生日になんですが、殿下は若くして薨御してしまいます。その際、その死を題材とした芸術作品が幾つか世に出ています。今回はその一つである、ジョブ・トーマス・マルディン・グウェントによる『序曲』をご紹介します。それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します。

 

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↑ 楽譜の表紙。『序曲 彼の長男、ニコライ・アレクサンドロヴィチの死を受け、皇帝アレクサンドル2世陛下に捧ぐ』。

 

 

『序曲』

作曲の経緯

 先に、簡単な概要をお伝えしておこうと思います。作曲の経緯は、前述の通り、ロシアの皇太子ニコライ殿下が薨御したことに由来します。殿下は人望厚く、大変に将来を嘱望された人物だったのですが、結核髄膜炎という死病に冒され、1865年にフランスのニースで急死してしまいます。

 それを受け、このことを題材とした芸術作品が幾つか生まれます。文学の世界ではピョートル・ヴャーゼムスキーやフョードル・チュッチェフなどの著名な詩人が彼を題材とした作品を残しています。一方、音楽作品も現在確認されているだけで二作品あり、そのうちの一つが、この『序曲』です。もう一つの曲も、近々ご紹介できたらと考えています。

↑ 速攻で音源作りました。こちらからどうぞ。

 

構成

  作曲・発表年は勿論1865年。オルガン一台の為の器楽曲で、調は F-moll、二分音符の和音が多く、葬送曲らしい趣きがあります。といいつつ、展開部は明るい長調も顔を覗かせます。発想記号は Grave(重々しく、荘重に)。演奏すると約5分強の短い曲です。

 1865年といえば、ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』が初演された年。一方、『序曲』は、同時期に書かれたとは思えぬほど、なかなか古典的な作りをしています。演奏楽器がオルガンなのも相俟って、バロック時代に書かれました、と言われても信じてしまいそうです(それは言い過ぎか……)。

 

作曲家ジョブ・グウェント

 どんな音楽通でもご存じないと思います。わたしも知りません

…………、解説したい気持ちは山々なのですが、ほんとうに何も情報が出てきません。無名の作曲家です。曲も、この曲が残っているのが奇跡というべきという程で、それ以外には全くわかりません。

 唯一判明していることは、イギリス人だということ、それだけです。何故ロシア皇帝に曲を捧げているのか、これすら謎です。もしかして: 同担。ロシア語の文献でも、この曲についてしか載っていません。詳しいことをご存じの方がもしいらっしゃいましたら、教えて頂けますと幸いです。

 

楽譜

 そんな謎に満ちたジョブ・グウェントですが、綺麗な楽譜が残っています。こんなに見易い手書きの楽譜、初めて見ました! これを印刷してそのまま弾けますね。pdf化しておいたので、ご自宅に鍵盤楽器がある方は是非チャレンジしてみてください。難易度もさほど高くありません。

 

音源

 前述の通り、無名な作曲家の曲ということもあり、勿論音源などあろうはずもありません。しかし、楽譜を見ただけでは何だかピンとこない……。というわけで、不肖わたくし、音源を作って参りました!

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 前回の記事でも軽くお話していますが、実はわたくし、元DTMer。楽譜作成・作曲ソフトの最高峰、『finale』が手元にあるので、楽譜を打ち込み『Garritan』の音源(Steinway Piano)でエクスポート。『finale』は優秀なソフトですが、13ページ分の楽譜を打ち込むのは骨折りでした……疲れました……。

 音源は幾ら『Garritan』と言えど、どうしても機械らしさは残ってしまうので、やはり実際に弾いてみて頂きたいのですが……。ともあれ! この5分強の為に数時間ぶっ続けで作業したので、お楽しみ頂ければ幸いです!

 正直なところ、「何故この名曲がこんなに埋もれてしまっているんだ!?」と騒ぎ立てるような曲ではないと思います。でも、悪くはないですよね。わたしは嫌いじゃないです。打ち込んでいて、主題・内声・伴奏のカノンの重ね方が面白いなと思っていました。お気に召して頂けたら、数時間の作業が報われます。

 

↑ 『finale』、もしご興味ありましたら。あると大変便利です。「最終形」「最終楽章」の名が似合う、楽譜作成・作曲ソフトの最高傑作。付属品やバージョンによって、値段に大分差があるので(約10000~75000円)、予算と相談しつつご検討下さい。

 

最後に

 通読お疲れ様でした! 2500字。

今回は、隠れた名曲探訪というより、「こんな曲もあるんだ~」くらいの気持ちで聴いて頂ければ幸いです。

それではお開きとしたいと思います。殿下の178回目のお誕生日を祝して。

 

参考文献