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ダラス響『エヴゲーニー・オネーギン』2022/4 - レビュー

 こんばんは、茅野です。

書き損じレビュー執筆マラソン、ラスボスに登場して頂きましょう。その作品とは、我らが……!

 

 先日、ダラス交響楽団さんが、我が最愛のオペラエヴゲーニー・オネーギン』のストリーミングを行っていました!

↑ 最高だった……。

 

 ダラス響では、今年の 4 月 1, 3, 5 日に『オネーギン』を上演していたようなので、そのうちのいずれかのレコーディングと推測されます。

↑ アイコンのルイージ氏のお写真がとても良いですね……。

 

 というわけで、今回はこのダラス響エヴゲーニー・オネーギン』のレビューを簡単に記してゆきたいと思います!

 

 それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

 

 

キャスト

エヴゲーニー・オネーギン:エティエンヌ・デュピュイ
タチヤーナ・ラーリナ:ニコール・カー
ヴラジーミル・レンスキー:パーヴォル・ブレスリク
オリガ・ラーリナ:メロディ・ウィルソン
グレーミン公爵:ブリンドレイ・シェラット
ラーリナ夫人:アレクシス・ガリンド
フィリピエヴナ:クラウディア・チャパ
トリケ:キース・ジェームソン
ザレツキー:アレン・マイケル・ジョーンズ
大尉:ウィル・ヒューズ

指揮:ファビオ・ルイージ
演奏:ダラス交響楽団

 

プログラムノート

 まずはプログラムノートについて。ダラス響では、2020年に策定したプログラムに従い、今シーズンでもロシア音楽を上演しています。そのことに関してです。

 The Dallas Symphony Orchestra has Russian composers programmed throughout the 2021/22 season, which was planned in 2020. We believe that these works should continue to be performed; the pieces come from all times in history, from the Czarist age to the authoritarian regime of Stalin. Many of these composers, who are integral to the classical music canon, wrote works in reaction to the oppression and violence of their time living in or being forced to leave the Soviet Union or Russia. These works are reflections of universal human emotions that touch us all. To remove these compositions from the programming is to silence their voices based on tragic events in the contemporary world. Musicians use their art to respond to or transcend politics and reminds us that art has the power to eliminate boundaries and connect us to each other.

 ダラス交響楽団では、2020年に策定されたプログラムに従い、2021/22シーズンに於いてもロシア人作曲家の作品を上演致します。
私達は、帝政時代やスターリン権威主義の時代など、全ての時代から集められたこれらの作品を、継続して上演すべきだと信じています。
クラシック音楽に欠かすことのできない彼ら作曲家の作品は、それぞれが生きたソヴィエト連邦やロシアの圧政や暴力の中で、或いはそこから亡命する中で、それらに反発して書かれています。
これらの作品は、私達の誰もが触れる普遍的な人間の感情を反映したものです。これらの作品をプログラムから外すことは、現代世界の悲劇に基づく彼らの声を封殺することに他なりません。
楽家たちは、その技術を用いて、政治に応え、或いは越え、音楽が国境を消し、私達を結びつける力があることを思い起こさせてくれます。

 素晴らしいノートだと思います。是非とも頑張って頂きたい。

 

 ところで、『オネーギン』のストーリーに関してなのですが……。

 Based on the poetry of Pushkin, the story is about two friends who fall into a jealous argument at a dance over the young and beautiful Tatyana, ultimately challenging each other to a duel. 

 ストーリーはプーシキンの詩に基づいており、二人の友人が若く美しいタチヤーナとのダンスを巡って嫉妬に満ちた口論となり、最終的に決闘を行うことになる。

そ、それはちょっと語弊がありませんか? そう書くのなら、せめてオリガの方では……。

『オネーギン』って、ストーリー自体はシンプルなはずなのですが、説明するのが少々難しい側面があるのですよね……。

 

 さて、本編に入って参りましょう。

 

第一幕

第一場

 何って、「指揮:ファビオ・ルイージ」ですよ!! これは勝ち確定。待っておりました!!

3 年前の来日公演では、松本まで追いかけましたとも!!

↑ 最高でした……、生で拝見した『オネーギン』の中では一番良い。

 

 今回はルイージ氏、指揮棒なし。演奏会形式だと、オケの方々がよく見えるのも有り難いです! ルイージ氏の振る『オネーギン』のオケを観て良いとか……全人類が待ち望んでいたものだ……。

 

 ハープ、pp も指示通りで美しいのですが、それでいて歯切れがめちゃくちゃいいです。しっかりはっきり。

 

 最初の二重唱、ターニャとオリガが仲良さそうでとてもよいです。新国立劇場ェ……

四重唱となった後も、ターニャの声が一番響く印象を受けました。

 

 一方でラーリナ夫人なのですが、「うろ覚え……なのかな……?」という場面が多々。音が結構ズレがち(走りがち)で、ちょっと自信なげに早口で消えゆくのが、うろ覚えなのではないかという疑念を生むのですが、気のせいでしょうか。

たとえば、ターニャとの対話の箇所( ≪ А что? И впрямь, мой друг, Бледна ты очень. ≫, ≪ Все это вымысел. Прошли года, И я увидела, что в жизни нет героев. Покойна я. ≫) のところとか……。

 

 合唱に関しても、少々荒削りな部分を覚えます。ホールの響き、録音の問題もあるのでしょうが、個々のズレやばらつきが少々気になる。松本の『オネーギン』の合唱は素晴らしかっただけに、脳内で比べて変に目立つと申しますか。しかし今回はバイニュ付き! やったー!!

それにしても、合唱マスクして歌うんですか……コロナ禍……エグいですね……。

 一方で、最初のソロの農夫はめちゃくちゃいいですね……。

 

 オリガは中~低音を行き来するときに少し声量が下がる印象がありますが、アリオーゾの最後など、低音をしっかり響かせるところは綺麗に響きます。

 

 フィリピエヴナ、ターニャに顎クイするのイケメンすぎます。後にオネーギンさんもやることになるので、恋のライバルかもしれない(?)。

 

 ラーリナ夫人が農民たちを下がらせるとき、完全に客席に背中を向けて歌うんですね……、我々は録音だからいいですけれど……。

 

 ターニャの ≪ Ах, как они страдают, Как они страдают. ≫ の伸びがいいですね~。流石のヒロイン。

 

 男性陣の登場。いや、声は良い……んだけど! 一点いいですか!

なんだその格好!?

↑ 圧倒的萌え袖」レンスキー

↑ 靴履き忘れて靴下で出てきたのかと思った……(靴のデザインの問題)。

 ターニャはカーキのボタニカル柄のワンピースでとてもそれらしいのに……何故それを着ようと思った……!?

 

 四重唱。≪Кругла, красна лицом она... Как эта глупая луна, ≫ の溜めが美しいオネーギンさんですが、改めて観ると酷い歌詞だ!

 

 レンスキー役のパーヴォル・ブレスリク氏は、ロイヤル・オペラ・ハウスやバイエルン国立でも歌っている、所謂「嵌まり役」。明るすぎない声質がよく合います。今回も良い感じに好調です。

 

 前述のように、ラーリナ夫人に少々難ありな今回。一幕一場最後、フィリピエヴナと掛け合いになると、やはり差が目立ってしまいますね。フィリピエヴナはとてもよいです。

ただ、ポケットに両手を突っ込んだり、なんか一々イケメン(二回目)。普段はズボン役が多いのかな? 一体どういう解釈なんだ……。

 

 これは面倒臭いオタクなんですけど、そもそもオネーギンさんが ≪ Но, Боже мой, какая скука С больным сидеть и день, и ночь, Не отходя ни шагу прочь! ≫ を歌うこと自体が解釈違いなんですが(原作ではオネーギンは叔父を看取っておらず、馬車のなかでその場面を妄想するのみ)、ここそんなに力強く歌われたらもう萎縮するしかなくないですか? 怖いって……。

 

第二場

 やっぱ2場序曲なんですよ!!! 松本の記事でも書いているんですけど、なんですかあの加速。存命の指揮者のなかでいちばん官能的に『オネーギン』第一幕第二場序曲を奏でることができるのはファビオ・ルイージ氏です(断言)。はやく CD 出してくれ。ヘビロテする。

 

 演奏会形式ながら、ある程度演出も存在する本公演。本をビリビリに裂きまくるターニャさん、最早本の虫とは思われないまであります。しかもこのビリビリ音が結構大きいという。この演出、本好きに怒られるのではあるまいか。

バレエ(クランコ)版では手紙をビリビリに裂いておりますし、「『オネーギン』といえば紙を裂くやつ」とか思われているんでしょうか。謎の偏見すぎる。

 

 さて、みんな大好き手紙の場。

冒頭のキレッキレな動きのルイージ氏は一見の価値あり。踊っておりますね……素敵。お元気そうで何よりで御座います。

 

 タチヤーナのニコール・カー氏も、よくターニャを演じる「嵌まり役」。低音にも強い、スレンダーな体型からは想像できない程の力強いソプラノです。

≪ Вот он! ≫ は下げる派。 ≪ Вообрази: я здесь одна! Никто меня не понимает! ≫ の伸びが非常に気持ちいいですね。

 

 ルイージ氏の第一幕第二場の魅力は、なんといっても官能的な緩急。

 ≪ Зачем, зачем вы посетили нас? ≫ の前の降下するピチカートや、オーボエの減速が非常に良いです。しかし、このピチカート、pp すぎて、イヤホンでないと聴き取れない。

 

 どうでもいいんですが、「手紙の場」の後の ≪ Ах, ночь минула, ≫ は目覚ましにしていて(歌詞が丁度いいので)、毎朝聴いているのですが、ルイージ氏のやつ目覚ましにしたいです、ほんとに。ちなみに今用いているのはレヴァイン指揮のもの。

 

 牧童のオーボエの方が物凄く苦しそうに吹くので、「速いのかな、なんだろう、何故だろう」と思って観ていたのですが、敢えて画面を見ずに音だけ聴いたらそれはそれは綺麗だったので、視覚から得る情報量って……みたいな気持ちになりました。

 

 枕の下から赤いリボン付きのお手紙出すの愛らしいですね……。

フィリピエヴナとの対話でのターニャは特に、 а, я の発音が特徴的であるように感じます。ちょっとアラビア語の kh サウンドみたいなものが入るような印象。

 

第三場

 木苺摘みの歌の間、男声合唱で回覧板のようにターニャの手紙を回しています。凄く悪趣味だ……、何故『オネーギン』の演出はいつもそうやって以下略。

まあ、「木苺摘みの歌」の時に「男声合唱」に何か演技をさせる、という発想自体はとても良いと思うのですが……。歌詞とかから考えても……。

それに、その紙の音が結構うるさいのがまた……。

 

 ターニャの独白は少しテンポ早め。珍しく、ホルンが最高です。

ここでのルイージ氏の指揮も素敵(?)で、「ターニャの心境をダンスで表現してます」って言われても信じますね。

 

 さて、オネーギンのアリアです。オネーギン役のエティエンヌ・デュピュイ氏は、先日の MET ライブビューイングのフランス語版『ドン・カルロ』でロドリーゴを演じていて、早々の再会に。

↑ 実は『ドン・カルロ』も凄く好きなのです。

 ロドリーゴバリトンながらに「英雄」ですから、凄く似合うと感じたのですが、厭世的なオネーギンには少し軽くて明るい声質なような気も。なんというか……発音の問題で、ちょっと幼い? 印象に。いや、この時のオネーギンさんって 22 歳くらいなので、幼くても設定上は問題はないのですが……。

 

 調べたのですが、デュピュイ氏、今後もオネーギン役の予定が沢山あります。素晴らしい! 日本にもいらして! 具体的には、以下のような公演予定です。

バイエルン国立歌劇場 2023 年 1 月 14, 17, 20 日。

ウィーン国立歌劇場  2023 年 3 月 14, 18, 22, 24 日。

楽しみですね~。何かしら録音など出て欲しいものです。

 

 こちらも調べたのですが、なんと今回のオネーギンさんとタチヤーナは、中の人がリアル夫婦だそうで……。いや、夫婦でやる役ではないのでは!? いや……他の作品を想起するに……『オネーギン』はまだマシな方……か……?

 

 尚、アリアは最後下げる派でした。デュピュイ氏は、どちらかというと低音よりも高音が綺麗に出る方だと思うので、上げる方にも是非挑戦して頂きたいですね。

 

 アリア後、かなり減速。やはり緩急が素敵なルイージ指揮。

 

第二幕

第一場

 録画に問題発生か、二幕の最初は何故か切れてしまっていて、途中から。無料ストリーミングで観させて頂いている身なので強くは申し上げませんが、頑張って欲しい~!

 

 最初の合唱中はバレエが参加。演奏会形式としたら豪華です。ここまでやるなら普通に舞台でやればいいのではとか思いつつ。

 

 主要人物たちは皆ドレスにお着替え。黒を基調としています。

オネーギンとレンスキーは色違いのお揃いなんですけど(仲良しか?)、先程の靴下疑惑と打って変わって、ネイビー×黒のシンプルな組み合わせが大変お洒落です。

↑ この落ち着いた二色だけでこんなにキマるとは。参考にしよう(?)。オネーギンのイメージカラーが青というのにも共感します。

 

 合唱の文字パネル、謎に凝っています。

↑ 最初どこで切れているのかわからなくて、「最後の i on ってなんや」とかおもいましたが、普通に ≪ A Wonderful Reception! ≫ ですね。

 

 私はワルツ中のオネーギンの怒りに満ちた独白→オリガへの ≪ Прошу вас! ≫ にどれだけ変化を付けられるかというところに深く関心があるんですけれども、デュピュイ氏、よいですね~。怒りに任せたまま誘うのは単に怖いですからね。

 一方で、レンスキーにメンヘラムーヴをされたときのオリガのうんざりフェイス、生々しくて最高です。

 

 トリケのクプレ。

トリケがちゃんとトリケしているのはとても良いことです! たまに「あなたもうレンスキーを演ったら……」という方いらっしゃいますからね。

録音だからわかりませんが、もしかしたら声量足りてないのかも知れないとは思いましたが……。

あと、少しホルンがちょっと怪しいところがありつつ。

二回目の ≪ Brillez, brillez ≫ は上げてきました。声質にめちゃくちゃ合っていて最高です。いいなこのトリケ……。

 

 何が最高って、コティヨンじゃないですか。テンポの魔術師ファビオ・ルイージがまたやってくれましたよ。

一幕二場序曲などとは真逆に、ガッチリ精確に刻んできます。踊りやすそうだ!

速い弦のパッセージは、急いて崩れがちなことが多いのですが、ルイージ氏の指揮ではリズムが精確なので、綺麗に響くのが大層気持ち良い! ここだけでも音源出して欲しいんですけどダメですか。

余計な演出やダンスもなくて、音楽だけを堪能できる素晴らしい機会でした。最高。

 

 そこから、オネーギンとレンスキーの対話ではガッツリ減速。面白い~。

ただ、歌うのはかなり大変そうです……。

≪ Ты не прав! Ты не прав! ≫ のところのコンバスよくないですか?(細かすぎて伝わらない選手権)。イヤホン推奨。

≪ Нас окружают. ≫ で叫ぶオネーギンさんも良い。感情入ってて素敵です。

そして、手袋ではなくてハードカバーの本を投げた~~! すんごい音!! 怖!!! 舞台傷ついてません? 大丈夫?

 

≪ В вашем доме! ≫ の м がしっかり м なレンスキー。ここ大体 н か м かわからない感じなので、珍しいです。その後の ≪ Посмотрим, кто кого проучит! ≫ なんかもそうで、語末の発音が丁寧なレンスキー。

みんな大好きフィナーレ ≪ В вашем доме ≫ は、とってもゆっくりで、官能的です。この最初のレンスキーの入りが嫌いな人なんて存在するのか。

ターニャが重唱に参加すると、どんどんアッチェレランド&クレシェンド。

≪ коварна и зла! ≫ !!

 

 今回は全体的にオネーギンさんよりレンスキーの方が強い印象。それじゃマズいんですが……。ロドリーゴの時は良かったんだけどなあ。

 最後にオリガも本を投げつけるんですけど、レンスキーの10倍くらい力強くて思わず笑いが……。このオリガにメンヘラ彼氏なんか要らないのでは。

 

 最後の ≪ Прощай навек! ≫ が、「おおい、いつまで伸ばすんだい?」と不安になるくらいの出血大サービス。凄すぎて拍手早いこととかもうどうでもよくなりましたね。圧倒的な力の前で、観客は無力だ。

 

 演出についてなんですが、合唱まで紙を投げ合っております。イギリス議会か?

トランペットが最後まで大活躍な第二幕第一場でした。

 

第二場

 第一場から続けて第二場へ。

木管がいずれも素晴らしい、改めて、演奏の様子がよく見えるのは演奏会形式のよさですね。『オネーギン』第二幕第二場は、クラリネットオーボエもフルートもファゴットもみんな大切なのです。

チャイコフスキー木管の使い方がほんとうに上手いですけれど、わたくしは彼の全作品の中でここが一番木管が美しいと確信しておりますよ。

 

 レンスキーのアリア。

声が暗めでレンスキーらしいです。本当に嵌まり役だと思います。これからもレンスキー沢山歌って欲しい。素敵です。

持っているのが緑色の小さい本というのも良いですね。これはバレエ(クランコ)版の影響ですが、個人的にレンスキーのイメージカラーは緑だし、小さい本というところが詩集っぽい。

先程の ≪ Прощай навек! ≫ では溜めに溜めておりましたが、アリアの方はあっさり目。

 

 ちなみに、演出で用いられている本で大写しになるのが、こちらの本(調べました)。

…………何故?

 

≪ Начнем, пожалуй! ≫ のあとの減速が最高すぎます。エロい。『オネーギン』第二幕第二場は、木管だけではなく弦もエロいのだ!

二重唱は、これもいつも思うんですけど、バリトンの声域的にとても出しやすい音域なのか、めちゃくちゃ生き生きし出すオネーギンさん多いですよね。≪ Готовим гибель хладнокровно. Ах!  ≫ のところめちゃくちゃ良かったですよ。

 

 いつも思うんですけど、ザレツキーの手拍子三回の力強さよ。あれもまた技術なんでしょうね。

ファゴットのソロが一番良いところでコケてしまいましたね。惜しい。

 

 決闘後、レンスキーの左胸から赤い布を引く演出は洒落ておりました。

 

第三幕

第一場

 ポロネーズ。やっぱりリズム感と歯切れがいいですね。ルイージ氏の『オネーギン』が好きだ(わかりきった主張)。

しっかし、新国のものといい、そのチャーツキーの時に演出過剰になる傾向はなんなんですかね。オネーギンの独白は大変良いです。

 

 明るい曲調のエコセーズで照明が暗くなるのは、カーセン演出っぽいですね。というか、ここではバレエやらないんだ……。第二幕とは打って変わって、金管が大活躍する華やかな第三幕。魅せ場が色々あって楽しいオペラですよね『オネーギン』……。

 

 うーん、やはり合唱にはもう少し頑張って頂きたいところ。しかし、赤い手袋は素敵。

 

 ターニャは再びお着替え。紫のドレス、大変素敵です。

第三幕はやっぱり人妻感を全面的に押し出した格好がよいですよね。色も、このように紫や、茶、くすんだ緑など、落ち着いた色が望ましいです。まあ、実はこの時のターニャはまだ 21 歳くらいなんですけれどもね……。

 タチヤーナの ≪ О, Боже! ≫ の辺りはもう少し表情が欲しいところ。毅然としたターニャも素敵なのですが、独白の所はもう少し色があってもよいかと。

 

 グレーミンのアリア。

グレーミンはもうちょっと重み、重厚感があってもいいのではないかと思いますね。別に国王とかラスボスとか、そういう役どころでもないんですが、ただでさえタイトルロールがバリトンなんだし、差別化が欲しいところです。

繰り返しの二回目などで弱くしたりなどの工夫がありました。トリケのクプレもですが、『オネーギン』で挿入される主要人物以外の独唱は、シンプルで繰り返しがあるので、このように差異を付けられると美味しいですね。

 どうでもいいですが、後ろ姿だとグレーミンとオネーギンの見分けが付かない……。

 

 オネーギンさんが手にキスしようとしたところをスッと手をいて退けるタチヤーナ様、強いです(※実際は夫婦らしい)。これは惚れてしまう。

オネーギンさんの ≪ О нет! ≫ の手前の弦の官能さおかしくないですか?? なにそれ……ファビオ・ルイージヤバいって……。

 

 オネーギンの聴かせどころは少ないのに、アリオーゾは聴かせるというよりも、演技寄り。それもあって、 ≪ Вкушу волшебный яд желаний, ≫ 辺りの音程が少々迷走。

それでもやっぱり、最後の ≪ везде оп предо мною! ≫ の伸びは美しいですね。

最後はエコセーズ派でした。最後のエコセーズでは、わけわからない加速をして崩れる指揮者も多いんですけど、やっぱりルイージ氏は、きっちり刻んできました。そこで平静を保って丁寧に最後まで進める演奏は素晴らしい。

 

第二場

 第二場も続けて演奏されます。ろくな休憩もなしに。お疲れ様です、本当に強い。

 

 カー氏のタチヤーナは、第三幕であまり動揺を表面に出さないタイプ。冷静で凜としております。オネーギンが触れた手をサッと振り払い、呆れたように笑うの殺意が高い! これもこれで……。

≪ Не потому ль, что мои позор ≫ が囁いているようで、また美しいです。その前の двор ではあんまり舌巻きすぎない方。

≪ Вам соблазнительную честь? ≫ の滑舌の良さ。

 

 オネーギンさんのターン。

いつも思うんですけれど、ここ音数の少なさに反して文字数詰めすぎですよね。歌手に怒られますよチャイコフスキー先生! しかし、だからこそオネーギンが必死に捲し立てている感じが見えて、効果的でもあるのです。

今回、特に最後の ≪ Излить мольбы, признанья, пени, Все, все, что выразить бы мог! ≫ は改めて、歌詞詰め込みすぎだろうと感じました。丁寧に歌ってくれるのがそう思わせるんだと思います。

 

 最後の攻防は、今回はタチヤーナの勝ちかなという気が致しますね。オネーギンさんも悪くはないのですが、少々迫力不足。ここはなりふり構わず全力を出して欲しいところです。

尤も、オケの目の前でやっているので、どうしても音域が被って声が掻き消されてしまう側面はあると思うのですが。

 

 最後、つまり ≪ Я удаляюсь! ≫ の辺りからめちゃくちゃ減速します。テンポの魔術師ファビオ・ルイージ(二回目)。たまらん。

レンスキーのみならず、タチヤーナの ≪ Прощай навек! ≫ も素晴らしい。ここが決まればもう全てが決まったも同然(?)。優勝です。

オネーギンの ≪ Позор! ≫ もマジで情けなくて良いですね(※褒めています)。わたくしが聴いてきた中でもトップレベルだ(※とても褒めています)。

最後の下降するパッセージも崩れず、最後まで丁寧です。やった!! ファビオ・ルイージ指揮、どう考えても優勝です!!

 

 ところで、最後のクレジットロールの音楽を第一幕第二場序曲にしようと定めたのはどなたですか? ダラスでもどこへでも駆け付けて、今すぐに握手がしたいです。よくわかっていらっしゃる。そこです、それです。天才。同志よ。

それにしても、美しい劇場だ。ほんとうに伺いたい。

 

 今回はやはり、何よりも、指揮が最高でした。特に、何度も申し上げておりますように、緩急ある官能的な箇所(第一幕第二場序曲など)もある一方で、拍がしっかりしていてパッセージが全く崩れない側面(ワルツ、エコセーズなど)もあり、そのバランスが絶妙なのです。

中でも、第一幕二場序曲は世界一だと思います。ほんとうに可及的速やかに CD を出して欲しいですね。

 歌手陣も、特に主役級の三人は演じ慣れている役ということもあり、よかったです。合唱などは、もう少し頑張りが欲しいところでしたが……。

 演出は過剰な側面も多々感じましたが、演奏会形式とは思えない充実具合で楽しめました。

 

 総じて楽しい公演で、特にルイージ氏の指揮は何にも代え難いので、すぐにでも再演しましょう! 宜しくお願い致します。今回はストリーミングを観られて仕合わせでした。Счастье так близко!

 

最後に

 通読ありがとうございました。『オネーギン』のレビューなのでいつも通りと言えばいつも通りなのですが、11000字ほど。いつも長々とお付き合いをありがとうございます。

 

 日本では今のところ、今後の『オネーギン』の上演予定がなく、文字通り飢えております。今回はルイージ氏の『オネーギン』を浴びることができて、本当によかったです。四六時中浴びていたいので CD 出してくれ……(何回目?)。どこに掛け合えばいいんですかね? 直談判したい。

 

 可及的速やかに日本での上演も決まると良いなと願いつつ……、長くなりましたので、今回はここでお開きとしたいと思います。また別の記事でお目に掛かれれば幸いです。