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映画『古の王子と3つの花』 - レビュー

 こんばんは、茅野です。

暫くレビューラッシュが続きそうです。おかしい……オフシーズンに入ったはずなのに……。真夏の暑さを、劇場に入り浸ることで解決していきましょう。

 

 今回は映画です。先日は『古の王子と3つの花』にお邪魔しました。フランス製のアニメ映画ですね。

↑ 待ってた~!

 

 前回も(アフリカ系)フランス映画だったので、連続です。

↑ 実際に起こった事件と裁判を扱った『サントメール』。まだ上演しておりますので是非とも。

 

 今回はこちらの映画の雑感を簡単に記して参ります。それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

↑ 原題直訳は『あるファラオと、ある野生児と、ある王女』。

 

 

キャスト

タヌエカマニ、美しき野生児、揚げ菓子の王子:オスカル・ルサージュ
サルサ、バラの王女:クレール・ドゥ・ラリュドゥカン
ストーリーテラー:アイサ・マイガ
監督:ミッシェル・オスロ

 

雑感

 我らが(?)ミッシェル・オスロ監督の最新作で御座います。

フランス語学習者なら、彼の大ヒット映画『キリクと魔女』は5億回観せられるわけであり、わたしも5億回観て育ってきました。……割と冗談抜きに5回くらいは観ていると思う。

キリクと魔女

キリクと魔女

  • アワ・セネ・サール
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↑ フランス語学習者は文字通り必聴。そうでなくても歴史に残る名アニメ映画です。

 

 個人的には『キリク』の音楽を手掛けているママニ・ケイタさんがツボにハマってしまい、CD を買うまでになりました。『Moulatako』マジで狂おしいほど好き。

↑ こんごばななやー、こんごばななやー、こんごばななやっびでぃっるまなー、すってもねぼー(※空耳)(※恐らくバンバラ語)(※全く意味は不明です)。

 

 前作『ディリリとパリの時間旅行』も拝見しましたし、勿論今回も、ということで楽しみにしておりました。

↑ 19世紀オタク大歓喜映画。

 

 今作は、3人の王子を巡る短編のトリプルビル。ストーリーテラーが聴衆の意見を汲み取る形で3つの話を紡ぐという、所謂枠物語ですね。

その辺り、なんだか落語っぽいですよね。

 

 第一話は『ファラオ』。古代スーダンとエジプト、クシュ王国の物語です。

 公式サイト曰く、この第一話は2022年夏にルーヴル美術館で開かれた「二つの土地のファラオ:ナパタ王家の叙事詩」展のために制作されたのだとか。

 事実、調べてみると、ナパタ王朝にはナサルサという王妃が実在したことがわかります。但し、彼女の配偶者はセヌカマヌイスケン王というらしく、タヌエカマニに関してはよくわからず。創作なんでしょうか。どこまでが史実なのか、古代エジプト有識者のご意見を伺いたいところ。

 

 絵柄は完全にエジプトの壁画風で、概ね平面・横向きで描かれます。

↑ これを見て、現代の映画のショットとは思うまい。

 この平面具合も、アニメならではの手法ですよね。このように、「この媒体だからこそ描けるもの」というように、媒体と技術・ストーリーテリングが噛み合っていると気持ちが良いです。

 

 王子タヌエカマニは、行く先々で神を味方につけながら、エジプト遠征へ向かいます。有名なエジプト神話の神々なので、名前くらいは馴染みがあります。神々のキメ台詞(?)は « Qui vivra, verra! »。

 セクメト神などが印象深いですが、エジプトの神といえば……。

↑ アテン神!! 『アクナーテン』観たくなる!!

 

 ヒロイン・ナサルサの母は、オスロ作品に典型的な意地悪おばさんです。悪役とまでは言わないまでもウザすぎるね……という塩梅の。彼の作品によくあるキャラクター造形なので、一周回って安心感があります(?)。

 

 タヌエカマニは、武力に依らず、援助や演説などによって次々とエジプトを無血開城させていきます。強い。よき王だ。

 最後は、愛するナサルサと結ばれてハッピーエンド。

 

 

 第二話は『美しき野生児』。中世オーヴェルニュの物語です。

なんだか聞き覚えのあるタイトルですが……。

↑ 映画の原題は男性形の『Le Beau Sauvage』なのでちょっと違いますが。

 

 人物が切り絵のように黒く抜かれているのが特徴です。

物語の前半はちいちゃな男の子が主人公で、理不尽な目に遭うことが多いため、どことなく『LIMBO』を想起します。

↑ お帽子がピーター・パン風な幼い王子。

↑ インディーズゲーマーで知らぬ者はいない名作横スクロールアクション。胸糞が悪いことでとても有名です。

 そしてこの幼い王子、恐ろしく歌が上手い。声えげつない綺麗です。

また、お城の描写もとても美しいです。

 

 囚人を解放したことから、圧政的な王である父の怒りを買った幼い王子は、死刑を言い渡されますが、ディズニー映画の『白雪姫』が如く、死刑執行人に慈悲を掛けられて、森に逃れることになります。

 森の中で「美しき野生児」に成長した彼は、父に仕える代官や徴税人の身ぐるみを剥ぎ、貧しい農民に分け与えるなどの鼠小僧的義賊ムーヴをし、民衆の支持を得ます。

 

 最終的に、死刑台を燃やし、反乱を起こして父の城を攻めますが、「人殺しはしない、今ならまだやり直せる」と諭します。

勿論恋も成就し、ハッピーエンド。

 

 

 第三話は『バラの王女と揚げ菓子の王子』。18世紀のトルコのお話です。

その直前の『美しき野生児』が白黒だったこともあり、カラフルさが印象に残ります。一番 3D モデルっぽさがあり、その辺りは好き嫌いが分かれるかもしれませんね。

↑ バラの王女可愛い。

 

 「揚げ菓子」は、原語では「ベニエ(Beignet)」ですね。

ふと「ベニエっていつからあるお菓子で、どのような階層の人々に食べられてきたんだろう」と気になり、近代フランスのレシピブックを開いてみたら、カレームグーフェエスコフィエ等の著名パティシエは皆ベニエのレシピを載せていますね。

↑ 近代(大体19世紀)が好きなので、当時のお料理を考証・再現する企画をたまにやっています。先程挙げたパティシエ達は過去の記事に登場する方々です。

折角なので、時間があるときにチャレンジしてみたいですね!

 

 今回の王子のご出身はモロッコ。モロッコの映画もこの間観たばかりで……。

↑ 静謐で美しく、モロッコの日常が描かれ、且つタブーにも斬り込むという、良質な映画でした。

 

 政情の不安定化から、城・国を追い出され、隣国に逃れてきた王子は、無一文で彷徨います。そこで、揚げ菓子(ベニエ)職人に弟子入りし、斬新な新作や持ち前の顔の良さなどでメキメキ評判を伸ばし、とうとう王室御用達になるように。

届け先の姫と相思相愛になるも、姫の方は寧ろ、身分を偽った「揚げ菓子屋」というところに惹かれており……!? という面白い展開です。

 高い出自に胡座をかかず、「自分の人生を自分で切り開く!」という強い意志を持った王子と王女の物語です。

 

 一番の見所は、三人の女官の歩き方。マジで最高です。彼女たちが歩く度に映画館が笑いに包まれていた。

↑ この画像の時点で既に面白い。三人の女官の躍り歩き(?)、必見です。

 

 

 三つの物語とも、「抑圧的な親(王 / 女王)との対峙」「主人公の王子は絶対に殺生はしない」「お姫様と結ばれてハッピーエンド」という点で共通しており、枠物語としてもある程度の繋がりを感じます。

 どの作品も、「アニメだからこその描き方」が徹底されており、実写では面白さが半減されるだろうというところからも、アニメ映画監督としての拘りを感じました。

 テーマが道徳的・倫理的で、ハッピーエンドであることから、子どもにも観せやすく、また、『キリク』などと並んでフランス語も聞き取りやすく、フランス語学習にもよいでしょう。また『キリク』観たくなってきたなあ。

 いつものミシェル・オスロ監督作品だなあというところで、謎の安心感を覚えつつ、今作も満足致しました!

 

最後に

 通読ありがとうございました。4000字弱。

 

 王子と王女と言えば、王政研究に関心があるので、わたしがずっと追い掛けているのも皇太子殿下とお姫様なのですが、どうしてこちらはハッピーエンドにならないのでしょうか。おかしい。設定上はちゃんと(?)童話みたいなのに。

↑ 「完璧」と呼ばれた皇子様と、愛くるしいお姫様の恋という、童話顔負けの現実を掘り返すシリーズ。現最新話の第七回では、歯車が狂ってバッドエンド確定に……。

ハッピーエンドを見せて下さい!!!!!

 

 連載の続きも書きたくて堪らないのですが、暫く観劇ラッシュです。

明日はオペラに参りますし、観たい映画が幾つかあるので、映画館通いも続ける予定です。八月冒頭にはバレエにも参ります。レビューが……溜まってしまう……!! まずい……。

なんとか消化したいところです。

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです!