こんにちは、茅野です。
卒論を書いたり出したり色々していました。もうそんな時期なんですね。なんとかなりました。題材はゴッチゴチの厭世デカダンなフランス戯曲です。わたしは「自殺教唆戯曲」と呼んでいました。精神を病んでいる人にあれを勧めると自殺教唆罪で捕まるらしい(要出典)。
さて、今回はラストスパート「罪罰マラソン」ということで、今のところ最終回予定。ソ連時代の映画版『罪と罰』のレビューになります。
今までのマラソン記事はこちらから↓
とにかく全部長い……。ドラマ版は7時間弱、舞台版は3時間半、そしてこちら映画版も3時間半強。それでいて、「この時間によく纏めたな……」なんて思わせてくるんだからとんでもない。
↑夜中に観ると表紙が怖いシリーズ。
↑買えます。わたしは録画してあるのでいつでも観られますが、舞台版も是非とも円盤化して欲しい。ちなみに署名活動には参加した(行動に移せるアピール)。
それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します。
キャスト
ロジオン・ラスコーリニコフ: ゲオルギー・タラトルキン
ソフィア・マルメラードワ: タチヤーナ・ベードワ
アヴドーチヤ・ラスコーリニコワ: ヴィクトリア・フョードロワ
監督: レフ・クリジャーノフ
音楽: ミハイル・ジフ
総評
こちら、白黒映画なのです。三時間半です。結構たいへんですよ! 正直なところ、何度か寝落ちして観直した。
いや、決して退屈というわけではないのですが……、音楽もほぼなく、白黒で、長くて、内容も暗いじゃないですか。集中力続かせるのは結構大変。下手に原作を知っている&他の映像化作品を観ているので、ある程度纏めて観ないと混同しかねませんし……。映画版『罪と罰』をご鑑賞の際には、前日の晩によく睡眠を取っておくことをオススメします。
又、古いので、たまに音がプツついたりします。製造元曰く、わたしの購入したもの限定というわけではなく、元からこういうものなのだそう。でも気になるほどでは全くないです。
こちらは前述のように音楽もほぼなく、ドラマ版と違って独白も少なめ(ドラマ版はラスコーリニコフ君の心の声がダダ漏れです)。また、特徴として、ドラマ版ではあまり描かれない夢や幻覚を映画版では結構丹念に描いていて、冒頭などの警官に追われるラスコーリニコフ君が回廊を走って行く描写なんかは映画ならではでとてもよいなと感じました。母プリへーリヤの手紙も、螺旋階段を二人で上りながらの対話形式になっているなど、見せ方が上手い。螺旋階段や回廊は、白黒だとなんだかそれだけでエッシャー風で、ラスコーリニコフ君の心理状態なんかと組み合わさって芸術的です。
ドラマ版の半分程度の時間に纏まっているにも関わらず、省略されたエピソードはそんなにないような気がします。省略は後半部に集中していていて、スヴィドリガイロフのお話は大分カットされています。一番衝撃的だったのは、一番有名なシーン(?)である聖書朗読のシーンがカットされていたことですね。大胆だなあ……! とおもいました。
あとはそうですね、カテリーナさん&マルメラードフ家の子供たちの強烈なメイク(発狂後)がなかったことでしょうか。ドラマ版も舞台版も半端なかったので、ある意味楽しみにしていたのですが……()。
又、エピローグが一切描写されないというのも特徴。ラスコーリニコフ君が自首したところでブチッと切れます。
こういう表現が適切かどうか存じませんが、なるほど、ドラマ版より「芸術的」だなと感じました。一方で、これは古いので致し方ない側面も十二分にあるのですが、やっぱりちょっと眠くなる人には眠くなるかも。普段からよく映画を見慣れている方には推せる作品だとおもいます!
ラスコーリニコフ
↑眉と鼻で綺麗な「Y」字。
ドラマ版(コシェヴォイ氏)よりも眉がキリリとしていて、意志が強そうな印象のラスコーリニコフ君。背が高く、特にアリョーナ・イワーノヴナなんか彼の胸くらいまでしかないのではないか(何センチ差なんだ……)。夢で走ったり川に飛び込んだりと、特にある意味活動的です()。
ラスコーリニコフ君は作中でこれでもかという程よく失神しますが、映画版ではめちゃめちゃ白目剥くのでちょっと見所と化しているとおもいます。白黒なので……白目映える……(???)。
尺の都合か、マルメラードフ家の葬儀などでは焦点が全く当たらないため、どこか「ずっと出ずっぱり!」というような印象は薄れている気がします。ドラマ版がおかしいと言われればそれまで。
特に舞台版では、呼び鈴の音がトラウマ描写として描かれていましたが、映画版では寧ろ時計の音ですね。振り子時計の中に手を突っ込んで止めたりしています。
前述のように、あまり独白の描写がないので、表情や仕草から思考を読み解くことになります。原作既読なら特に問題無いでしょう。自首の直前、林で腕を組んで佇んでいる場なんかとてもよいですね。
個人的にはこのソ連版を観るのが一番最後になってしまったのですが、他の作品がこれを参考にしたんだろうなあと思わせる部分もしばしばです。
ちなみに、ゲオルギー・タラトルキン氏はこの『罪と罰』などで名を挙げ、ビッグネームになっております。他に帝政ロシアものだと、なんとあの『ソフィア・ペロフスカヤ』でイグナツィ・フリニェヴィエツキを演じております! マジでか! 三度見した。
↑世界最初の自爆テロリスト。
もしかして: 殺人犯の役がお似合いになる。
他にも、プーシキン原作の『小さな悲劇』でチャーツキー役(『エジプトの夜』より)など……。
本国製露文ドラマはいいぞ……。
今後も色々チェックしていきたいですね!
ソーニャ
↑かわいい(語彙ゼロ)。
前髪を作らないシンプルな三つ編み、少女のようなよく澄んだ声、素晴らしくソーニャですありがとうございました。緑のドラデダム織りを顎の下で撚り合わせるとほんとうにお人形さんみたいです。
ラスコーリニコフ君同様、ドラマ版と比べるといくらか芯が強そうな印象を受けます。「子供」というより「(自我はしっかりと芽生えている)少女」といったような感じ。だからこそ、彼がソーニャを選んだ理由というのがよくわかるような気がします。子供らしさも残しつつ、どこか頼りがいがあって癒やされるようなソーニャです。
しかしながら、前述のように、聖書朗読のシーンがないし、エピローグのシベリア行きもカットされているせいか、ちょっと影が薄い感は否めない。ヒロイン……なんだけどなあ……。
ドラマ版と違い、確かに時代遅れ感はあるんだけれども十二分に可愛い街娼ver。
↑ふつうに「売れ」てしまうんではないか……とか邪なことを考えた。
並んでも良い感じです。
↑やっぱりこの体格差がいいよね。欠かせない要素だよね。
ポルフィーリー
↑視聴者としては安心感、ラスコーリニコフ君からしたら不信感。
ポルフィーリー役には、名優インノケンティー・スモクトゥノフスキー様です。出演歴がヤバい。
ドラマ版では同じく名優アンドレイ・パニン様でしたが、ポルフィーリー役には安定感ある名優を起用しようという流れが存在するらしい。パニン様同様、特に太っていたり痔っぽい感じ(#とは ……)もしないのですが()、ポルフィーリーさん主役で刑事ドラマとして通用しそうな感じは相変わらず。
しかし、正直なところ、一番眠くなるのはラズミーヒン君同伴でラスコーリニコフ君がポルフィーリーさんのところに訪れるところですね。独自の思想が語られ、原作では大いに盛り上がる箇所の一つですが、映画版だとどうしても座ってただ話しているだけになるので、どうにもパッとしない。正直に書きすぎて怒られそうまである。
他の帝政ロシアもの出演作だと、まず外せないのが伝記映画『チャイコフスキー』の同題役。
↑似てるwwwwww
それから、チェーホフ原作の『ワーニャ伯父さん』の同題役など……。
↑同じ人ってわからん……()。
その他
大体皆さん解釈一致です!
ドゥーニャは際立って美しいですね。公式美女は格が違った。
↑「強い女」感がヤバい。
ルージン(画像左)もすっごいウザいです(褒めてます)。ドラマ版とはまた違ったウザさがある……。
尺が短いこともあり、カテリーナさんは影薄め。夫マルメラードフは、冒頭から酒場のシーンになることもあって、観客を即座に『罪と罰』世界へ誘って下さいますが、台詞も大分短くなっておりますし、その後はすぐ死ぬので、やはり印象薄くなりがち。
スヴィドリガイロフ氏は、もうドラマ版にそっくりで、「やっぱりこういうイメージだよね~~!」と言わざるを得ない。全人類解釈一致なのかもしれない。
ラズミーヒン君は(対となるラスコーリニコフ君が悲惨すぎるといえばそれまでですが)、比較的身だしなみ等しっかりしていた印象。又、いい人なんだけどどこかちょっと抜けていそうな感じが好演でした。
最後に
こんなところでしょうか! 4000字弱。通読ありがとうございました。
一応「罪罰マラソン」は終える予定ですが、いや~、やはり深掘りするのって楽しいですね。「深掘り」というほど掘れてない感じもしますが(オネーギンなどの沼掘削に本気を出しすぎて比較の対象がバグっている顔)。『罪と罰』は文学界の最メジャーと言っても良いくらいですし、取っつきやすし入手が容易だとおもうので、オススメしておきます。是非ともどうぞ。
それでは、お開きとさせて頂きます。ありがとうございました!