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ヨアヒム・ラフ『弦楽四重奏第1番』の話 - 音楽雑記

 こんにちは、茅野です。

弊学は漸く夏休みに突入しました。コロナのせいで大幅にズレたんですよね。もう八月も終わりますよ……秋学期の開始次期は変わらないのに……。

 先月中頃から、読書もせず記事も書かずでした。第一に、ちょっとしたトラブルがあり、そこから派生した議論に明け暮れていたことがあります。リアル24時間体制で議論をやっていました。体力だけはあるらしい。第二に、人生で初めてのお引っ越しを経験しました。新居に移って1ヶ月弱経ったので、落ち着いてきましたが、まだ自室に棚がなくて床に教科書とか置いてます……。第三に、つい先日が学期末だったのでレポートに追われていました。記事書いてる場合じゃねえ! という感じの一ヶ月でした。でもそろそろ新しい記事書いていきたいとおもいます。夏休みだし。

 

 今回は、音楽の話です。一週間ほど前に、唐突に「カッコいい弦楽四重奏曲探そ~」と思い立ち、適当にリサーチ掛けていたんですが、大変カッコいい曲に出逢ったのでご紹介したいとおもいます。解説出来るほど音楽学に堪能ではないので、雑記扱いで、のんびりお目通し頂ければと思います。それでは、お付き合い宜しくお願い致します。

 

 

作曲家ヨアヒム・ラフ

 まず最初に述べておきたいことがあります。作曲者は、ラフマニノフではありません。ヨアヒム・ラフです(迫真)。

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「ラフ」とか「ラフマ」って略したりするし、「ラフ2」などの略称が定着しているので取り敢えずこれだけは先に言っておかねば……。

 ヨアヒム・ラフはスイスの作曲家で、1822年生まれ。19世紀中頃のロマン派の作曲家です。あまり知られていない方かもしれません。特にリストと近い関係にあった人物で、他にも初期にはベルリオーズシューマンメンデルスゾーンと、後期にはワーグナーチャイコフスキーなどなど、時期的にも「黄金期」と呼べるような時代に活動していた為、埋もれてしまっている感は否めません。存命中は人気・地位共にあったようで、晩年はホッホ音楽院長を務めています。

 本人はピアニストだったのですが、弦楽四重奏曲を8曲、交響曲を11曲と、室内楽や大規模編成のオーケストラ曲も多数残しています。如何にもロマン主義らしい官能的な旋律が特徴です。

 

弦楽四重奏曲 第1番

 適当にサーチしていたら引っかかったので、そこそこメジャーどころなのかと思えば、全然そんなことはなかったらしい……。偶然の力、凄い。

 録音は一種類しかなく(あるだけ有り難い)、ミラノ四重奏団のものがあります。

外出自粛が謳われていますので、 Amazon でポチってしまいましょう。mp3版は同じくラフの弦楽四重奏第7番がついて1500円。演奏、音質共に申し分ありません。お得すぎる。(そして何故か異様に高額なCD版)。

 

古典的な構成

 構成はシンプルな四楽章構成で、発想記号(標語)は、

第一楽章「Massig schnell, ruhig, breit(適度に速く、静かに、幅広く)」、

第二楽章「Sehr lustig, moglichst rasch(非常に楽しく、出来るだけ急いで)」、

第三楽章「Massig langsam, getragen(適度にゆったり、重々しく)」、

第四楽章「Rasch(急いで)」です。

ここからもわかるように、基本的にとにかく速いんですよね、この曲。楽譜を追いかけるのが大変なレベル。聴いているだけで演奏者の筋肉痛が心配になってくる。だからこそ、唯一テンポの遅い第三楽章が映えるとも言えます。

 調性は D-moll (ニ短調)で、第三楽章以外では関係調 D-dur (ニ長調)に転調します。弦楽四重奏ですので、特に曇った響きのする「フラット系」の短調、そして特に華やかな D-dur への変化は圧巻です。「フラット系」短調で猛スピードで進むので、とても緊張感のある仕上がりになっています。ドキドキします。ほんと。

 

 他にも、各楽章は基本的に古典的な三部形式になっており、特段目新しい、革命的な要素というものはありません。ラフにとって初めての弦楽四重奏曲ですが、「荒削り」というようなことはなく、初めてだからこそ「王道」的な作品です。だからこそ埋もれたのだと言われれば、まあ、そうなのかも……と言わざるを得ませんが()、たまには王道もいいじゃないですか、ね。

 

ロマン主義的な旋律

 初見の印象は、前述のように、「とにかく速い」になるかもしれません()。しかし、甘美な旋律にもご注目あれ。

 主題はとてもシンプルで、付点八分+十六分・(付点)二分という典型的なリズムでオクターヴ上げていくというもの。

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↑第一楽章冒頭 1st Vn パート譜

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↑スコア譜。1st Vn パート譜と並べると特にわかりやすいですが、とにかく速いのである。

 オクターヴ(八度)、最後は九度という急激な上昇の旋律が、非常に速い 2nd Vn と Va のパッセージ、そしてかなりの低音から始まる Vc の上に乗るので、たいへん緊張感がある幕開けです。初っぱなからドキドキさせてくれます。

 

 勿論、如何にもロマン主義! といった、官能的な旋律も盛りだくさん。

第一楽章のシンプル is ベストなハーモニーをご覧あれ。

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↑第一楽章 C。弦楽四重奏とは、つまり全くこれでよいのだ。

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↑第二楽章 展開部。特にスピーディな第二楽章に突如立ち現れる甘美な旋律。

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↑第三楽章 冒頭。とにかく官能的。付点八分+十六分・二分のリズムはそのままに、ここまで表情を変えることが出来るのか! と驚かされます。テヌートで奏でられる内声がまた良い。再現部で内声が別の旋律を奏でるのもまた乙!

 

 楽譜だと寧ろ分かりづらい気もしますが、THE・ロマン主義! とばかりの短いカデンツァや……。

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↑ 第三楽章 L。

 第四楽章の第二主題はカノンになっています。

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↑第四楽章 J。

 旋律に関して言えば、実際にお聴き頂くほうがはやいかもしれません。楽譜を見ながら聴くと理解が深まるので、是非ともどうぞ!

 

上昇のパッセージ

 今節と次節は楽譜を見ないとわからないような点についてです。

このラフ弦楽四重奏1番の最大の特徴は、「高揚感」、終始緊張感を孕んだ曲想だと言えます。それは、この曲の場合、特にテンポ、そして調性に拠っていると言えるのですが、もう一つからくりがあります。人間とは単純なもので、音程が徐々に上がっていけば心も高揚します。それを意図してか、楽譜を見ると、テンポの速い場面ではほぼ常にいずれかの楽器が上昇のパッセージ、アルペジオを奏でていることがわかります。主旋律が下降している時も然りです。言うなれば、スコア譜が「X」字を描いている状態です。譜面が綺麗。

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↑一番わかりやすいのが第四楽章 B。 勿論、ここ以外もどんどん上がっていきます。

 

お洒落なからくり

 一カ所、とってもお洒落なからくりをしている部分があるのでご紹介します。それは第四楽章のYで見られます。曲中、特に盛り上がる場所でもあります。

 赤丸で囲った音に前打音があるか、ポルタメントしているように聞こえるのですが、スコアをよく見てみると……。

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直前の Va の音だったのだ!!

なんてお洒落な……。実際に聴くと、物凄く聞き取りづらいですが、確かに Va の音なのです。からくりが余りにもお洒落過ぎる……。しかも、この Va の音型はお馴染みの主題であり、直前に  Vn1 が奏でていた音型でもあります。こういうポイントを見つけると、否が応でも盛り上がってしまいますね!

 ちなみに、ここでも前述したように、 Vc が半音ずつ上昇していっています。テンションも上がります。

 

個人的すきポイント

 好きなポイントはいっぱいあるのですが(というか全曲を通して好きだ)、特に推したいこの一点。凄いどうでもいいんですけど、曲中で一番かわいい(?)のはここ。

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↑第四楽章 A, Wなど。何度か出て来きます。

 1st, 2nd Vn とVa, Vc の掛け合いがあるんですけど、リズムも相俟ってなんか妙に可愛い。特にVa, Vc の方は結構な低音にも関わらず、否、だからこそ……? なんか凄く可愛い。るんるんしてる(?)。いや、ほんとに! 聴けばわかるんで!! こういう掛け合い、弾くのも楽しいんだろうなぁ……。

 

最後に

 お付き合いありがとうございました。学術的な解説ができればそれが一番宜しいのですが、できないので取り敢えず熱情に任せてプレゼンしてみました。本当に知っている人が少ないので寂しい思いをしています。是非、是非とも……。

書いていて楽しかったです。気が付けば3600字。楽譜沢山貼ってしまったので、読み込み遅かったらすみません。

 それでは、そろそろお開きとします。ヨアヒム・ラフ地位復権を願って!