世界観警察

架空の世界を護るために

パリ・オペラ座バレエ『オネーギン』2020/3/5

 こんばんは、茅野です。
パリ・オペラ座『オネーギン』、いよいよ開幕でございます。今回はコロナウイルス騒ぎもあり、「やはりオネーギンを日本で上演すると何某かのトラブルが必ず起こる」というような上演史に裏付けができそうな具合ですが(※49年公演大失敗)(※松本オネーギン表題役降板・照明トラブル)(※新国オネーギン千秋楽中止)、無事に上演できて何よりです、ほんとうに。
 
 今回は、本家シュトゥットガルトバレエ団以外のバレエ団の初めての『オネーギン』来日公演ということもあり、注目が集まっています。緩くなったなあ……クランコ財団……わたしがオネーギンを好き始めた頃は……(懐古厨並)。
この調子でオネーギンの上演回数が増えることを期待しています!
 
 

開演前に

 本日は友人と一緒におりました。幕間で沢山の人に会って意見交換が出来てハッピーです。明日以降いらっしゃる方も是非ご挨拶させてください。千秋楽以外の席は確保済みです。
今回も色々声を掛けたのですが、明日は独りでいるとおもうので……。寧ろ、この間の松本や新国で毎回誰かしらと一緒という方が奇跡だったのだ。すごい。
 
 席はU25引き換えで3階L席。新国U25(※S席に引き換えてくれる)に慣れてしまったので、うーむ……とおもいましたが、意外と死角はなく観易かったです。後ろ、横が空いていたこともあって、可動域が広く取れたこともあります。
オネーギン、実は下手側で観るのは初めて。上手はあるのですが……新鮮な気持ちで観ることができました。
 
 それでは長くなりますが(そもそも前置き自体が長くてすみません)、感想つらつら書き連ねさせて頂きますので御付き合い宜しくお願い致します。
 

キャスト

エヴゲーニー・オネーギン:マチュー・ガニオ
タチヤーナ・ラーリナ:アマンディーヌ・アルビッソン
ヴラジーミル・レンスキー:ジェルマン・ルーヴェ
オリガ・ラーリナ:レオノール・ボラック
グレーミン公爵:オドリック・ベザール
ラーリナ夫人:ベアトリス・マルテル
フィリピエヴナ︰ニノン・ロー
指揮:ジェームズ・タグル
 
 71回目の上演らしいです。丁度70回見はぐったということですか。なるほど。
 

第1幕

第1場

 開幕早々、オリガが可愛いです。可憐です。ちゃんとオリガは第二幕の自身の衣装、ターニャには第二幕のターニャの衣装をあてがっているのが細かいですよね。
 
 どうでもいい情報ですが、ターニャの本がめっちゃ朱色でした。いつもこんなに赤かったっけ。もうちょっと臙脂っぽかったような……。『クラリッサ』でしょうか、『新エロイーズ』でしょうか。わかりませんけども。
 
 舞踏会での紳士の演技をするラーリナ夫人のノリノリっぷりと言ったらない。奥様、あなたまだまだ現役ですわよ……。今回、全体的に老人役のキャラクターダンサーがノリノリでした。
 
 群舞ポルカ。マジで上手いです。舐めてました。これがパリ・オペラ座! フォーメーションも噛み合っていますし、何よりも視線が揃ってます。ゆったりとした音の取り方も揃えてます。シンプルにクオリティが高い。
強いて言えば、最初上手側にいる濃い黄色い衣装で手前にいる方(お名前がわからない)が一瞬よろけていたのが危なっかしかったことくらいでしょうか。
 
 いや、ちょっとここでオケの話していいですか? ちょっと今回、やってしまいましたね。最初の「二月」の時点でトランペットがひっくり返り、ミュートの音は濁り、ミス多発。そして何よりも音量自体が頗る小さい。打楽器やハープの音が浮きまくっております。緩急や強弱のメリハリもなく(あるところはありますが、なんというか、雑すぎる)、一体どうしてしまったのかという。弦の響きも薄っぺらく、人数がそもそも少なかったりするのでしょうか。何カ所か、オケピを覗いてしまって舞台を見損ねました。
 一昨年もタグル氏・東京シティフィルでしたよね……? こんなはずでは……。コロナの影響もあるのでしょうか……。今後千秋楽までの成長があると……嬉しい……。
 しかし、ファゴットが救いです。ファゴットのソロだけが綺麗です。バレエ版オネーギン、曲目の解説を書いておきながら、ファゴットがソロを取るところが非常に多いということに改めて気付かされました。蜘蛛の糸です。有り難う御座います。
 
 レンスキーの登場。いや、これには驚かされました。レンスキーは初登場の際、軽快に駆けてくるケースが多いのですが、ルーヴェ氏のレンスキーは後ろ手を組んでゆったり歩いてきます。下手の窓に映る影は緊張感を高めます。その優美な姿は、そう、つまり、オネーギンのようではないか……。いや、シルエットの時点ではほんとうに間違えてオネーギンが先に出てきたのかとおもいましたよ。
 洗練された身のこなしはどう間違っても「田舎のへぼ詩人」ではなく「ペテルブルク帰り」……いや……「パリの貴族学校出身」? しかし、少し尊大な感じもあって……やっぱりこの人、オネーギンなのでは?!(?)
 フォロワーさんに教えて頂いたのですが、ルーヴェ氏は「オネーギンを踊りたい」と仰っているそうで、普段だったらこんなことあんまり言わないのですが、彼なら素晴らしいオネーギンダンサーになれるでしょう。というか、見たい。待ってます。
 
 次いでオネーギンの登場。ガニオ氏のオネーギンは二回目です。

↑ 一昨年のシュトゥットガルト来日時の感想記事。

 
 タチヤーナの鏡を覗き込み、タチヤーナは驚いて逃げ去ります。ターニャ、気配にだけ驚いて禄に映り込んだオネーギンと目を合わせなかったような。
 ここでの演技はかなり独特。ターニャを追いかけるオネーギンは、手を広げて「おいおい、どうした?」とでも言うようなジェスチャーをします。前回観たときはここまで露骨ではなかったような。
 そしてターニャとオネーギンは腕を絡ませて下手へと消えてゆくのですが、このとき二人の歩みは踏み出す足が逆になっています。観ていて気が付いたのですが、今回はこの二人の歩みはずっとそうです。動きとして美しいし、“同じ足を踏み出さない”というのは、なんとも暗示的。
 
 レンスキーのVa。
え、上手すぎませんか??? シンプルにバレエが上手い(ゴミのような感想)。これは当方にしては非常に珍しい感想ですが、シンプルに美しいのでレンスキーに見えないとか最早どうでもよくなりました。最初の方なんか着地音がしなかったし、ピルエットも軸がぶれずに四回転、アラベスクではぴたっと止まる。どうも有り難う御座います。
オリガよ、こんなレンスキーが居て浮気したくなるだろうか。
 
 レンスキーとオリガのPDD。
 デヴェロッペ→アラベスクの溜めよ。ここで写真を撮って下さいと言わんばかり(※写真撮影は禁止です)。これぞパリ・オペラ座。最早オケと合っていないとかそういう次元ではない。それでいいんです。綺麗なポージング有り難う御座います。っていうか、脚が長いな……。
 オリガが回転しながらアティテュードを後ろ→前にするとき、レンスキーが近づきすぎていて窮屈そうだな……と感じましたが、これは身長差の問題なんでしょうかね。明後日要確認ですね。
 後は、終盤で舞台を大きく使う際にレンスキーが端に座っている女性達を蹴り飛ばしそうでちょっとだけヒヤヒヤしました。文化会館の舞台、狭いですからね。明らかに危険を感じて避けている方もいて、あ、やっぱり? とおもいつつ(主に上手奥)。
 
 続いてオネーギンとタチヤーナの場になります。
オネーギンさん、ターニャの本を見た時のリアクションめちゃくちゃ薄くないですか?? 未読本だったのかもしれない。
 
 オネーギンのVa。
これは一昨年から思っていたのですが、何というか、気合い入りすぎなのでは? というのが当方の感想です。予備動作がしっかりしている点がオネーギン特有のアンニュイ感を損なっているのでは。バレエとしては美しいのですが、キッチリ・しっかり踊ってます! という気合いが入った感じは第一幕のオネーギンらしくはないかもしれません。
 シェネの際、ポールドブラは普通だとアラスゴンからアンナヴァンを通ってあの右手を額に乗せる官能的なポーズになるのですが、アンナヴァンが無く、アラスゴンからそのままあのポーズになっていましたね。ガニオ氏、腕が非常に長いので、アラスゴンでシェネをするとそれが更に際立ちます。
 又、ガニオ氏のオネーギンが非常にジェントルマンに見える理由の一つとして、ターニャに構いすぎなのではないか、ということに気が付きました。このオネーギン、気配りが出来すぎるんです。折り目正しく、優しく手を差し伸べる様は、絶対に彼女に対して無関心とは思えません。
 最後、ターニャがオネーギンに手を伸ばしますが彼は不意に左手首の内側を見て、彼女に気付かず去ってしまいます。そこで、ガニオ氏のオネーギンはなんと、胴の前にズラした左手首を胸に当てて祈るような仕草をしたのが実に印象的でした。一昨年はやっていなかった気がする。レンスキーがオネーギンらしいなら、このオネーギンはターニャらしいぞ。
 
 コール・ド。何よりも後ろのベンチのレンスキーとオリガが可愛すぎる。ここだけの話ですが、大抵のR席に座るとこのベンチは死角となります(検証済み)。この仲睦まじい二人の様子を目に焼き付けたい方はL席を確保しましょう。レンスキーがオリガに囁き、オリガは照れたり囁き返したり。可愛いかよ。可愛いです。ただ、その仕草が余りに優雅すぎてレンスキーとオリガ感はあまりないかもしれません。けれど可愛いは正義。
 凄いどうでもいいんですけど、農奴の男性の衣装ってあんな色鮮やかでしたっけ。特に緑。発色が良い。
 最後全員が手を繋ぐところで、下手前で少しきょろきょろするレンスキーに「オリガお嬢様なら向こうよ」みたいな手振りをしたコール・ドの女性が居て最高でしたね。普通だと、レンスキーが舞台後方を通って下手側に行くと、一番中央寄りに居る女性が自然とレンスキーを下手端に立つよう誘導するのみなのですが、明らかに上手前に居るオリガを意識したような演技が入ったのが非常に細かい。そしてそれを指摘するわたしも相変わらず細かい。すみません。
 グランジュテ横断は相変わらず壮観です。
 
 バレエ版オネーギン名物、幕間の演技パート。
 レンスキーが手を後ろで組んで悠然と歩いてきて、おまえはオネーギンか、と(二回目)。次来日する時はオネーギン役をやるということでいいですね、はい決定。
 オネーギンと会釈した後のタチヤーナのパドヴレが非常に細かくて可憐です。甲が伸びていて綺麗だ。
 最後レンスキーとオリガが別れる際、オリガの方から少し背伸びしてキスをするのが堪らなく可愛いですね。最後余韻に浸りつつ去って行くレンスキーもいいです。
 

第2場

 凄くどうでもいいこと言いますが、蝋燭長すぎません?()。 こんなにいつも長かったっけ……。今更ですが、ベッドにいる状態で蝋燭付けっぱなしって危なくないですか。まあ火を付ける演技をわざわざ入れるの面倒ですよね、わかる。
 
 手紙を書くシーン、こんなに短かったっけ……とおもいつつ、正直席が離れていたのであまり見えず。明後日目を凝らします。
 
 鏡のPDD。
アルビッソン氏は大変脚のラインが美しいですね! 長身なこともあってダイナミック。リフトで脚を合わせる振りは氏にぴったりなのではないでしょうか。
 しかし一方で、比較的背中が弱いのかな? とも思いました。いや、十二分に綺麗なのですが、鏡のPDDでは背中を大きく反らす振りが多く、もう少ししなやかさがあってもよいかもしれない、と個人的には感じました。又、これはガニオ氏のサポートの問題も大いにあるとおもいますが、背中を反らせて滑るところはかなりヒヤッとしました。二人の繋いだ手が緊張していて……。
 ツーショットを見て確信に変わりましたが、ガニオ氏とアルビッソン氏はあまり身長差がなく、ポワントで立つとアルビッソン氏がガニオ氏を抜きます。それもあってか、三階席で生オケなのにも関わらずリフトの直前はガニオ氏のアウフタクトがはっきりと聞こえましたね。いや、オケの音が非常に小さいというのもあるのですが……ほんとうに劇場内で聴いているのか? とばかりの音量……。
 
 オケの話に付随して、ハープとティンパニ音大きすぎませんか? と思いましたが、これはこの二つが大きいのではなく、他の音量が小さすぎるのだとおもいます。ええ。いや、今回、メロディライン・内声部・低音のボリュームがそれぞれバラバラだったせいで、普段聞こえないようなパートが聞こえてきて、正直これはこれで面白かったかもしれません。バレエ版オネーギンはスコア譜が公開されていないので、楽譜と照らし合わせることが出来ないのが悔しすぎますが……。
 
 一回目の大リフトの際、ターニャが上手奥で右手→左手の順で第四ポジションで回転する(と言ってもリフトなので実際回転するのは支えるオネーギンの方)振りがあるのですが、二回目(左手を挙げる方)が消し飛びましたね。お疲れだったんでしょうか。
 
 鏡のPDDでは、基本的に青い幻想的な照明に照らされているのですが、今回ピンスポットライトが間に合っておらず、何度かオネーギンに照明当たってないことがありました。三階席だとスポットライトの存在はかなり重要で、見辛いこともしばしば。
しかし、その青い照明ですが、今回はあまり青さを感じなかったですね。一昨年はもっとガッツリ青かった記憶があるのですが……。ただ薄暗いだけのような印象でした。
 
☆幕間
 ヴァイオリンとファゴットマズルカと5拍子のワルツをガチ練習していました。お疲れ様です。わたしは感想をメモするのに必死でした。
 
 

第2幕

第1場

 いや、ド最初の音から酷かったですよ!? 絵に描いたような「ズコー_(:3 」∠)_」を経験しました。出の音も音程も揃わずで、大丈夫かな……と……。
 
 今更ですが、第二幕第一場の背景には肖像画らしきものが4つ掛かっているのですが、上手寄り中央のものは肖像画ではなくイコンですね。
何故今更こんなことに気が付いたのか……とおもったら、わたしはユルゲン・ローゼ氏の書いた舞台スケッチの画像を所持していますが、何故か第二幕第一場のもののみが抜けていたからでした。というか、よく考えたらお目に掛かったことがないかもしれません。こんなところで気が付くとは……。
 
 グランド・ワルツ、群舞とキャラクター・ダンス。
再現部でレンスキーとオリガのペア、ターニャと老年男性のペアだけになる場があるのですが、そこでのレンスキーがオリガを取り逃すような振りがかなり大胆で、ここまでダイナミックにここを踊る人は少ないので新鮮みがありました。
 キャラクター・ダンスに関しては、シュトゥットガルトの方が高水準ではないかと感じました。優雅すぎたり、老人の設定のはずなのに動きが激しかったりしすぎている気がします。
 
 感傷的なワルツに切り替わるとオネーギンの登場。
儀礼的にターニャと踊りますが、”面倒くさそうに”ではなく”割とガッツリ”踊っており、そういうところが気配りが出来るジェントルマン過ぎてオネーギンではないんだよな~~とおもってしまう要因なのだと再確認。しかし最後は唐突に、「ほら、さっさとママのとこにでも行けよ」とも言いたげに感じでターニャの背中を押します。その突然の豹変が結構怖い。
 
 名物恋文破り。
ジェントルマンなオネーギンの豹変っぷりは矢張り説得力に欠ける印象です。ターニャの演技は逆に王道を攻めていて、破られた手紙をはらはらと落とすタイミングのみがかなり遅かった気がします。
 しかし、やっぱりパリ・オペラ座、全体的に演技面に少々難ありか、と感じます。恋文を拾いに来る女性も、急に出てきて「演技しました! 終わりました! はい!」とばかりに退散。このすぐ後のターニャのVaでターニャにラーリナ夫人の所在を指し示す上手奥の男性も、つつつっとターニャに歩み寄り、演技が終わると何事もなかったように戻って終わる様子が何となく不自然です。パ・ド・カトルでオネーギンとオリガを睨め付ける老女も、シュトゥットガルトなどに比べてコミカルさに欠けます。うーん……パリ・オペラ座、演劇的な作品と相性がよくないのではなかろうか。いや、最初からそんな気はしていましたが、わたしはオネーギンなる作品をを盲愛しているので観ざるを得なかったのだ。尤も、流石に主語が大きすぎる気もするので、明日のキャストの演技も観つつ考えたいとおもいます。
 
 下手前でカードゲームに耽るオネーギン。いやいや、ターニャを見すぎなのでは!? 最早凝視。いや、確かにターニャは可愛いし、Va. は観たいです、その気持ちはわかります(観客並)。しかし、あなたはそこでガン見してはいけないのです。ターニャのVa には、明らかにオネーギンの視線を感じて動揺するような振りもありますが、そこだけです、見て良いのは。宜しくお願いします。
 その視線の先、ターニャですが、これまたVa. が美しい。このカプリチオーソは特に前半部、手足が長いと非常に映えます。ゆったりとした振りはオペラ座の気風にもよく合いますね。
 
 どうでもいい感想シリーズ。グレーミンの軍服のボタンってこんなにキラキラでしたっけ。照明も相俟って光り輝いておりました。眩しい。
 
 パ・ド・カトル。
端の席だったので見所のフォーメーションの妙はよくわからず。無念なり。
しかし、今回興味深かったのは、オネーギンとレンスキーの動きです。オネーギンとターニャが顔を合わせてしまい、ターニャに逃げられる場面がありますが、その直後、オネーギンがオリガの元に戻る前に枠の外にいるレンスキーに一度ちょっかいを掛けていました。この演技は初めて目視しました。いいですね! めっちゃ煽ってますね! 煽りすぎなくらい!
 
 ちょっと気になったのが5拍子のワルツの前。こんな振りだっけ? と一瞬混乱しましたが、皆様ステップを踏む空間的な間隔が非常に狭いのだということに気が付きました。何でだろう。文化会館が狭いからですかね、少なくとも中央のレンスキーとオリガはもっと大胆にやっても良い気が致します。
 
 さて5拍子のワルツですが、一番気になったのは上手前でオネーギンとオリガが踊る際、レンスキーをこれでもかという程に煽り散らすのですが、このときもオネーギンはレンスキーの胸を押していました。露骨に煽りすぎでは(二回目)。それでも王子様的な笑顔なのがアンバランスで怖い(二回目)。
 
 白手袋投げ。胸元から取り出すのにちょっと手惑いましたね。セーフの範疇です。
 うーん、オリガもレンスキーももう少ししっかり演技を入れても良いかもな、とおもいます。オリガはもうずっと可愛いのですが(それしか言っていない)、ここではもっと小悪魔的な表情を見せてもいいとおもいます。レンスキーは、もっと怒っても良いのよ。
その後、第二場のパ・ド・トロワの振りが一瞬入りますが、何となく違和感があったので考えてみたところ、三人の距離感の問題だなと気が付きました。なんか、離れすぎていやしないか。ここはもっと密着してもよいところだとおもうのですが……。
 
 そして、相変わらずガニオ氏のオネーギンは手袋を拾うと小さく頷くのであった。
 

第2場

 いやまず申し上げたいのが、音楽で御座いますよ。ヴァイオリンもチェロもちょっと見過ごせません。頑張って下さいお願いします。折角の聴かせどころです宜しくお願いします。
 
 少し辛口に突っ込ませて頂いたところで、レンスキーのVa. について。
ここがこの公演のMVPということで宜しいか。上手すぎてレンスキー役似合ってないとか最早どうでもいいな(二回目)。いや、似合っていないというか……ある意味では褒め言葉なのですが……(※レンスキーは”田舎のへぼ詩人”という設定です)、ゲッティンゲンはきっと大層に都会的だったのだ。きっとそうに違いあるまい。
上手奥から下手前へ徐々に進んでいく場の適度な乱暴さは自暴自棄になり掛けている様を的確に表現出来ているし、天を仰いで反るところに至ってはもうほんとうに頭が床につきそうなレベルの柔軟性。よいです。
持ち点が100点で好きなところに割り振って良いと言われたら、レンスキーに80点くらい贈呈したい。
 
 オネーギンが左手でラーリナ姉妹を制する振りがありますが、ここが噛み合わないのは辛い。尤も、オネーギンからは死角になるのでこれ難しいんでしょうね、地味に、って観る度に思っています。
 
 オネーギンの二連続ピルエット。相変わらずガニオ氏は腿は叩かないというか、空振りです。今回はビンタも空振り。一昨年は「バチーン!」ってどえらい音をさせていて逆に心配だったのでこれくらいでよいです。大丈夫です。エトワールの頬に手形がついたら大変だ。
 
 凄くどうでもいいものの個人的に気に入った話をします。決闘の際、レンスキーが取り落とした銃が一瞬空に浮いて、それから落ちていったのがとっても印象的でした。あそこだけなんだかスローモーションのようであった。非常に画になる……。
散々演技がと言っておきながら、決闘の場、非常によかったですね。一番演技力が試されるこのシーンがキチッと決まっていたので、全体的に引き締まって見えました。
 
 いや、それにしてもホルンが………………。
 

第3幕

第1場

 序曲、ポロネーズ金管が大活躍の曲では、つまり、そういうことで御座います。トランペットよ、本当に、………………。
 一方で躍りですが、クペを組み合わせて進行方向を変える振りがあるのですが、男女問わずそこの脚捌きの艶めかしさと言ったらない。凝視です。流石パリ・オペラ座群舞、当たり前にレベルが高い。
 
 グレーミン公爵様。いや、実に若々しい! 老熟した将校、というより、士官学校を出たばかりの少尉、といった感じでしょうか。PDDも、グレーミンのサポートは手厚いのですが、なんかターニャの尻に敷かれていそうなかんじがします。
 一点気になったところといえば、グレーミンとのPDDでは、二人が腕を絡ませる振りが多用されるのですが、アルビッソン氏の腕が大層長いこともあって、グレーミンがもっと屈まないと綺麗に絡まないのでは、とおもって観ていました。
 
 しかし、オネーギンよ、その左足は何なんですか。下手前の椅子にしがみつき、左足を後方へ流しているのですが、余りにも脚を開きすぎで逆に気になりました。綺麗でいいとおもいますが、度というものがありまして……。
それから、逆にここではターニャを見ていなさすぎるのでは!! 逆! 逆です!! 見るのはこちら、見ていけないのはVa.!! もっと舐め回すように目に焼き付けて欲しいです。
移動もしますが、あまり上手の方には行かず、下手~中央付近をうろうろしている印象。もう少し舞台を大きく使ってもいいのに、とおもいつつ、ここでのオネーギンの動きが激しいと全くPDDを見る余裕がなくなるので配慮かもしれません。わかりませんが。本公演では、気遣いが出来るオネーギンなのでね……。
 
 幕間演技パート。
実際の決闘はあんなによかったのに、今回はどうしましたか!
オネーギンは最早撃たなかったし、レンスキーが倒れるのが早すぎてオネーギン自身がちょっと困惑気味。いや、ある意味ではそういう演技もいいかもしれません。「そういうつもりじゃなかったのに」感があって……。明らかにタイミング間違えちゃった感が出ていたのが勿体ない、隠し果せそうだったのに(?)。
 

第2場

 最終場です。
若々しきグレーミンですが、鏡を覗いて欲しかった。いや、第一幕のことも照らし合わせると、ターニャの方が早く鏡の前から離れすぎなのかもしれません。いずれにせよ、「鏡を覗いたら相手が映り込んで驚いた」という感じがあまりしないのが勿体ない。
 
 手紙のPDD。
 先に申し上げておきます。折角のフランチェスカ・ダ・リミニを…………。色々言いたいのですが、一番気になったのはチェロですかね……。ユニゾンで主題を弾くところがありますが、めちゃくちゃ音程がズレており、わたしはまだいいですが、弦楽器をやる人からしたら鳥肌ものだったのではなかろうか……。同行してくれた友人の意見では、ここでのフルートやピッコロの自信なさげな音量の低さの方が気になったようです。ともあれ、まだ4公演あるので、改めまして宜しくお願い申し上げます。
 
 ターニャ、ほんとうに脚が綺麗です。……ですので、気持ちは理解するのですが(?)、嫌がるターニャに絡みつくオネーギンは艶めかしすぎて、どちらかというと「マノン」のムッシュー化が懸念されます。
 
 一番盛り上がる寝そべった状態からの跳躍が、もう少しダイナミックだと映えます。折角の長身なのだし……。ちなみにこの大技の直前にキスを入れる派と入れない派に別れますが、この二人は入れない派。とか言って、明後日には入れているかもわかりませんが。
 長身といえば、「鏡」と「手紙」には意図的に同じ振りが多く鏤められているのですが、ターニャを空中で一回転させて脇を支える振りでは、ターニャが長身だと伸ばした脚がぶれて大変なんだろうな……と勝手に苦労に思いを馳せています。
 
 最後、二度目の恋文破りがありますが、オネーギン諦めるのはやすぎませんか? もっと粘り強くいってもよい気がします。しかし、こちらは特に手紙を破る音がよいですね! 三階まで響き渡る破壊的な音でした。
 
 そして相変わらずガニオ氏のオネーギンは全力疾走です、最早走りのフォームが本気のそれで美しいまである。
 
 ターニャの最後の感情表現は控えめです。というか、演技に関しては全体的に控えめでしたね。
 しかし、この最後というときに、音楽で御座いますよ。最後盛り立てようとしたのは理解するのですが、音量と緩急がしっちゃかめっちゃかで、完全に気を取られました。色々書きましたが、応援しておりますので、頑張って下さい、はい。
 

最後に

 いや、久々にバレエ版のオネーギンを観ました。昨年はオペラ版を生で7回も観ることが出来たので、バレエの方は体感的にとても久しく感じましたね。そのこともあり、ちゃんとレビューが書けるか結構不安だったのですが、余裕で1万字を越えております。杞憂とは正にこのこと。結局オネーギンを観たらガッツリ書くのがオネーギンオタク6年目を迎えた当方なのです。世界最速1万字越えレビューを保証します。長々とお付き合い頂いて有り難う御座いました。

 勿論パンフレットは購入済みですが、どうせまた長くなりますから()、パンフレットについてはまた別で記事を書こうと思っております。

 明日はユーゴ・マルシャン&ドロテ・ジルベールペア! フランス本土での公演レビューは目を皿にして読み通しましたが、実際にお目に掛かるのは初めてです。期待してます。

 それでは、明日のオネーギン公演成功を祈って!