こんばんは、茅野です。
近頃は DTM(デスクトップミュージック)に再燃しております。文字を書くのも楽しいですが、音符を書くのも楽しいものですね~。クラシックとゲーム音楽が主ですが、色んな曲を耳コピ・アレンジして遊んでいます。近々投稿できるようにしておきますね。
さて、いつも旬を逃しきった後に漸く興味が湧くようなわたくしには珍しく、タイムリーに現在公開中の映画について一筆やろうと思います。
というわけで今回は、映画『ほんとうのピノッキオ』のレビューになります。
『ピノッキオ』については、ディズニー映画のイメージが朧気にある程度の知識しかなかったわたくしですが、友人に「観に行こうよ」と誘われ、原作その他履修しておきました。『ピノッキオ』って、19世紀に書かれていたんですね……。勝手に、てっきり20世紀中頃くらいかと勘違いしていました。イタリア統一に関心があるので、込められた寓意性・皮肉などが大変興味深く、楽しめました。
映画については完全なるノーリサーチで行ったのですが、実に完成度が高い作品だなと感じました。なるほど、本国で評価されるだけあります。
物語は誰もが知っているとは思いますが、一応ネタバレ注意。それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!
キャスト
ピノッキオ:フェデリコ・エラピ
ジェペット:ロベルト・ベニーニ
妖精(青年期):マリーヌ・ヴェクト
キツネ:マッシモ・チェッケリーニ
ネコ:ロッコ・パパレオ
監督:マッテオ・ガローネ
美術:ディミトリー・カプアーニ
総評
原作との差異
まずは原作との差異について。やはり、原作を履修するのとしないとでは解像度が大きく変わるため、一読を推奨します。
↑ 大岡先生訳は読みやすく、解説が丁寧で最強です。
大枠は原作通りですが、原作で数ヶ月単位で掛かるイベント(刑務所に拘留される、ロバになるのに数ヶ月掛かる、など)はバッサリとカットされており、物語のテンポがよりよくなるようにされています。
また、気になったのが、食事のシーンでしょうか。原作では、美味しそうなイタリア料理の数々、或いは貧しく食欲が減衰するような食べ物が数多く登場し、当時の食生活を知るヒントにもなる他、文学的にも鮮やかな色彩を添えていますが、映画では食事のシーンは稀です。無いわけではありませんが、この点に関しては原作の方が一枚上手でしょう。
「貧困」という、この物語にも大きく影を落としている問題を語るのに、食事の描写は最適です。もう少し掘り下げがあってもよかったのかな、と感じました。
美術
この映画の最も素晴らしい所は、何と言っても美術でしょう。「正に童話」とも言うべき、メルヘンティックで、しかしほの暗い影があるタッチは、物語の世界への没入感を高めてくれます。
↑ 廃墟と化した洋館、カタツムリ、ピノッキオ、妖精。完璧な布陣です。
↑ 芝居小屋の人形たちとピノッキオ。
登場人物の大半が人ならざるものですが、現代、寧ろ CG で描写した方が早いだろうに、全て特殊メイクで実写化しているそうな。当然、ピノッキオも特殊メイクなのだそうですが、木目の表現がえげつないです。
↑ まさか完全実写とは思えない人形ピノッキオと、めちゃくちゃに可愛い妖精。
ピノッキオの特殊メイクは、4時間掛かるんだとか……。大変すぎる。最後、人間になったときに俳優(子役)さんの素顔が見られますが、全ッ然顔が違って驚きました。影も形もない……。
人形ピノッキオは、「不気味の谷」について考えさせられ、一見不気味にも見えますが、目が表情豊かで、人形なのに睫毛が長く、(ピノッキオなので当然と言えば当然ですが)鼻が高く、造形としては美しいです。なるほど、ジェペットさんが「最も美しい人形」と豪語するのにも納得です。
動物たちは、ミュージカル『キャッツ』を想起するような造形になっています。
↑ ヒゲの生えたキツネと、目の大きなネコ。言われなくてもわかるわ! というくらい、特徴を捉えています。お見事。
ちなみにわたくしを誘ってくれた友人の一推しはマグロなのですが、まさかの人面魚でめちゃくちゃ笑いました。ちなみに、監督の一推しもマグロなのだそうです。謎のマグロ人気。
『ムーミン』のジャコウネズミさんも然りですが、子供向け作品に出て来る、年配のペシミズムとニヒリズムを悪魔合体させたような思想を持つ「哲学者」枠、西洋だと一般的なのでしょうか。
ピノッキオは、人と別れる際、大抵 «Ciao!(またね!)» と交わし合います。しかし、作中で再会することは稀です。一方、マグロとは最初に «Addio!(さようなら!)» と、永遠に再会することが見込めない際に使われる挨拶を交わすのです。しかしながら、マグロとは直ぐに再会を果たします。なんだかそれが面白くて、イタリア語は全然わからないくせに、「いいなあ」と思って聞いていました。
ロバとなったピノッキオが海に投げ出され、魚についばまれて元の人形の姿に戻るシーンは非常に幻想的で、作中でも最も美しい場の一つなので、お見逃しなきように!
尚、妖精(特に幼少期の姿)がめ~ちゃくちゃ可愛いです。美少女すぎます。彼女を観るためだけに映画館に行っても良い。
↑ 青の巻き毛にくすんだ色合いのドレス。メルヘン可愛い。優勝です。
寓意性
大岡先生訳の原作の解説にもあるように、『ピノッキオの冒険』はキリスト教の寓意を孕んでいます。確かに、人形ピノッキオとキリストを重ねて読むことは不可能では無く、作者もそのように読めるよう書いている節も見受けられます。
映画版では、特にこの寓意性が前面に押し出されているように思えます。最も顕著なのはラストシーン。原作では眠っている間に人間になるピノッキオですが、映画では家畜小屋で「変身」します。これはキリストが家畜小屋で生まれた、という伝説が元になっていると考えて差し支えないでしょう。
このような視点で、聖書を思い浮かべ、比較しながら観てみるのも面白いかもしれません。
映画『ほんとうのピノッキオ』は、原作にほぼ忠実なストーリーライン、演技力の高い俳優陣と美しい美術、優れた特殊メイクと、完成度が高い一作であると感じます。原作は誰もが知る童話ですが、よく指摘されているように、ディズニー映画の影響が著しく、原作に忠実なものは観る機会があまりなかったものでもあります。これを機に「ほんとう」の物語に触れてみるのも乙かもしれません。
最後に
通読お疲れ様で御座いました。今回は短く、3000字ほどです。
レビュー書くのを忘れていますが、わたくしは『幸福なラザロ』や『ぼくは怖くない』など、イタリアの貧しい寒村を舞台にした物語が結構好きなのですが、『ピノッキオ』もその系譜だと漸く気付きました。誘われるがままに観てよかったです!
しかし、統一前のトスカーナ大公国について何も知らないことに気が付いたので、少しリサーチ走ってみたいですね。特に法と行政に関心があるので、重点的に調べてみたいと思います。良い切っ掛けに出逢えました。
それではお開きとしたいと思います。また別記事でお目にかかれれば幸いです。