こんばんは、茅野です。
読みたいものも書きたいものも大量で時間が足りませんね。しかし欲求は自然と減退することはないので、一つずつ地道に片してゆくしかありません。
さて、今回は洋ゲーのレビューです。癒やしのウォーキング・シミュレータ、『Sunlight』を取り上げます。
原則ネタバレ無しで進め、最後の「4. ネタバレ」のみ物語のラストの話を致します。
それでは早速ですが、お付き合いの程宜しくお願いします。
概要
『Sunlight』は Steam(PC)でのみプレイ可能のゲーム。今後様々なプラットフォームで出してくれれば良いなと思いますね。現在はローカライズもなく、操作・音声ともに英語のみとなっています。
一人称視点の探索ゲームで、所謂『Dear Esther』ライク作品です。ゲーム性はほとんどなく、マップを探索し、物語を聞いて、それでお終いです。好みがハッキリ分かれる『Dear Esther』ライクですが、昨今では市民権を得てきました。わたくしはこの手の類いのゲームは大好きなので、有り難い限りです。
一周に必要なプレイ時間は30分程度と短く、それもあってお値段は4ドル。
開発元はノルウェーの Krillbite Studio さん。アーティスティック且つメッセージ性の強いウォーキング・シミュレータを制作しています。前作『Mosaic』も楽しく遊びました!
↑ レビュー記事。さあ、規範から脱出だ。
『Mosaic』を遊んで以降、Krillbite Studio さんの Twitter をフォローしていて、そこから作品情報を入手しました。
素敵なトレーラーですが、……このナレーターの特徴的な声、聞き覚えがありませんか? 第一声、«Welcome.» の時点でピンときました。この声は……。
『DARK SOULS』の「教誨師 カリムのオズワルド」役でお馴染み、デイヴィッド・ガント氏! ですよね!
↑ ラスト6秒の笑い声が大好きすぎて、着メロとか目覚ましにしたい。一生聞いていられる。
特にオズワルド推しというわけでもないのですが(笑い声に関しては断トツで好きですが!)、何となくご縁を感じて即決で購入してしまいました。
ちなみに、ガント氏は英国の俳優さんで、ゲーム作品にも度々起用されているのですが、まさか Krillbite Studio さんの新作で来るとは……。
↑ 『DARK SOULS』もそこそこ記事を書いております。ご関心あれば。
総評
実に Krillbite Studio さんらしい作品だなと感じました。短くサクッと遊べて、「明日から、気負いすぎずに、自分らしく生きよう」と思わせてくれる良作です。
1. グラフィック
印象派の画家たちの作品からインスピレーションを受けたというグラフィック。確かに写実寄りではなく、暖かく穏やかな印象を受けるものになっています。
画像からは伝わりづらいかもしれませんが、プレイしてると、個人的には絵画というよりも、「飛び出す絵本」の世界に迷い込んだような、そんな感じが致しました。
但し、「花」の表現に関しては少々難あり。特に花束になった後はもうちょっとなんとかできたはず。
↑ 木漏れ日差す美しい森と、右手前の乱れた花束()。
そして、字幕の有無を選ぶことができますが(英語音声・英語字幕のみ)、フォントがめちゃくちゃ可愛いので、是非とも字幕は On でお楽しみ下さい!
2. 音楽
音楽はずっと固定で、なんとチャイコフスキーの『ヘルヴィムへの賛歌』。
これが実に神秘的で、このゲームとの相性は抜群です。
Krillbite Studio さん公式が、YouTube に全曲及びレコーディングの様子を投稿して下さっているので、是非ともご覧下さい!
↑ この曲が入っている CD は元から持っていましたが、こちらの方がよいかも。非常にハイクオリティです。
歌唱はノルウェーの合唱団、Kammerkoret Aurum Choir さんによるものです。
ちなみに歌詞はこのようになっています。
Иже Херувимы тайно образующе и Животворящей Троице Трисвятую песнь припевающе, всякое ныне житейское отложим попечение. Яко да Царя всех подымем, ангельскими невидимо дориносима чинми. Аллилуиа, аллилуиа, аллилуиа.
丁度真ん中辺りの、«всякое ныне житейское отложим попечение.» で、「今、この世のあらゆる心配事を捨て去らん」となるため、このゲームの主題にもピッタリ合うと言えそうです。
いやしかし、1878年のチャイコフスキーの楽曲とは!! わたくしはチャイコフスキーの『エヴゲーニー・オネーギン』というオペラを人生を賭けて推しているのですが、こちらの作品の完成は1878年1月と言われています。
↑ 弊ブログで一番記事数が多い作品でもあります。
一方、『ヘルヴィムへの賛歌』は『Литургия святого Иоанна Златоуста』という聖歌集に入っており、同年4月に作曲されました。つまり、この『ヘルヴィムへの賛歌』は、『オネーギン』のたった3ヶ月後に作曲された作品なんです! なんてこった! 運命を感じました。
3. 主題
森を探索し、花を集めながらストーリーを聞いていく、という正に『Dear Esther』ライクな『Sunlight』。元祖『Dear Esther』は、シナリオライター兼ディレクターのダン・ピンチベック氏が詩人顔負けの文豪であるため、非常に文学的で深みのある作品となっていましたが、『Sunlight』の方は、もっと肩の力を抜いて楽しめるようになっています。
普段は考察書きをしているものですから、変に穿って考えてしまいましたが、特に難しく考える必要はなさそうです。物語は単純で、語られる内容も基本的に「感覚」だとか「痛み」「匂い」といった主観的な事柄が多いです。
特徴的なのはこの物語を語る音声で、木一本一本と声優さん一人一人が対応しています。特定の木に近づけば、その「木の声」をメインに聞くことができるので、お好みの声優さんの木に寄りましょう。性別・年齢・訛りなど、それぞれ異なるので、英語のリスニングとしても面白いかもしれません。多様性の森。
主題に掲げるは「共生」であると感じました。前作『Mosaic』の主題が「規範からの脱出」「自分らしく生きること」だったのに対し、今作『Sunlight』では「わたしは孤独ではない」「あなたも孤独ではない」と何度も語りかけられることになります。
それは、人体の中の細胞であったり、木が密生して生まれる「森」であったり。一本一本離れた場所に咲く花を集め、「花束」を作る、というゲーム進行にもその要素があります。ゲームを終了しても、あなたもわたしも一人ではありません。
Krillbite Studio さんのゲームは、「生きろ!!」というメッセージ性が強く、プレイ後は胸の奥がじんわりと暖まるような、そんなゲームが多いのが魅力的です。疲れている人にこそやって欲しい。
4. ネタバレ
最後に、物語の結末について一言だけ述べたいと思います。ネタバレ注意。
群生しつつも木漏れ日が差し、穏やかな雰囲気があった美しい森を抜けると、そこは伐採された切り株だらけの、荒廃した森が現れます。これまで木が人に喩えられてきたこともあり、ズシンと胸が重くなります。自然環境という側面から見ても好ましくなく、だからこそ響くラストシーンです。
但し救いが全くないわけではありません。切り株は墓標のようで、過去のプレイヤーたちが作った花束が捧げられています。また、花束には、メッセージカードの如く、過去のプレイヤーたちが贈った言葉が添えられています。ちなみに、わたくしが確認した限りでは、最も多かったメッセージは «I love you.»。Simple is the best.
我々プレイヤーも、好きな切り株を選んで、花束とメッセージを添えることができます。尚、日本語やロシア語だと文字化けするので、英語(少なくともアルファベットを用いる言語)で記入してください。わたくしはこちらの切り株に、以下のようなメッセージを寄せました。
Twitter のプロフィール欄にも載せている、大好きな言葉です。
To be a tender of the soil.
土のように優しくなりさえすればいい。
このゲームにもぴたりと当て嵌まるとおもったのですが、如何でしょうか。もしわたくしの花束とメッセージを見つけたら、教えて下さいね。
↑ 引用元です。素晴らしい小説なので、是非とも手にとって頂きたく。
最後に
通読ありがとうございました! 今回は短めに、4000字強。
ゲームの発売から丁度一年ほど経つようで、Krillbite Studio さんが宣伝しているのがたまたま目に入ったのが切っ掛けで手に取った『Sunlight』。しかし、ガント氏がナレーター役で起用されていることや、BGM が『ヘルヴィムへの賛歌』であるなど、個人的に「刺さる」ポイントが多く、楽しめました。疲れた現代の都会人に広くお勧めしたいです。
わたくしは個人的に PC でゲームをするのが好きではないので、Steam 限定か~……と少し躊躇いがありましたが、遊んで良かったです。ゲームをする為の PC を使っていないので、ぶっちゃけ結構動きがカクカクで目が疲れたのですが、それはわたくしの PC の問題なので捨て置きます。PS 系は勿論、Nintendo Switch などの携帯ゲーム機、スマホなんかでも出せそうなので、是非様々なプラットフォームで展開して欲しいですね。是非ローカライズも。久々に外国語でゲーム遊んだ気がします。
今後とも Krillbite Studio さんには、疲れ切った学畜・社畜を救うゲームをリリースしていって欲しいですね!
それでは今回はこれにてお開きと致します。また別記事でお目に掛かれれば幸いです。