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新国立劇場『ジュリオ・チェーザレ』 - レビュー

 こんばんは、茅野です。

公演レビュー執筆を消化してゆかねばなりません。なんとノルマ 7 件。

レビューは、客席に力なく座っていることしかできない人間風情が偉そうなことを書いてもよいものか、という葛藤があり、基本的に書くのがあまり好きではないので、ちょっぴり気が重いです。カッコいい評論が書ける、デキるオタクに進化したいところ。

 

 しかし、書かないと忘れるので、備忘目的で簡単なメモ書き程度のものを残しておこうと思います。

2022/3 シーズン第一弾は、我らが新国立劇場のオペラ『ジュリオ・チェーザレ』です。10月5日の回にお邪魔しておりました。

 

 『チェーザレ』は、一度コロナ禍で流れてしまったということもあり、出演者・観客とも熱意が漲っているような気が致しました。上演できて大変目出度いですね。

 

 それでは、簡単にはなりますが、お付き合いの程よろしくお願い致します。

↑ この一枚だけでもうセットの良さがわかりますね。

 

 

キャスト

ジュリオ・チェーザレ:マリアンネ・ベアーテ・キーランド

クレオパトラ:森谷真理

コルネーリア:加納悦子

セスト:金子美香

トロメーオ:藤木大地

クーリオ:駒田敏章

アキッラ:ヴィタリ・ユシュマノフ

ニレーノ:村松稔之

指揮:リナルド・アレッサンドリーニ

演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

合唱:新国立劇場合唱団

演出:ロラン・ペリー

 

雑感

 前述のように、劇場を包み込む熱気。秋だ、オペラだ、新シーズンだ!

今年こそは、コロナ禍などによる休演が続かないことを望むばかりです。

 

 今回の上演に関してですが、何より、演出が素敵です。流石評価が高いだけのことはあります。

基本的に演出にあまりお金を掛けているようには見えない、シンプルなセットが多い新国立劇場では珍しく、前シーズンの最終演目、『ペレアスとメリザンド』に続いて名演出です。

↑ こちらも一応雑感をば。

 問題は次の『ボリス』ですよ。一応、ロシアオペラをメインに追いかけている当方ですから、ここを成功させて頂かないと困ります。

 

 演出は、博物館の舞台裏という設定になっていて、現代風でありながら、登場人物がデニムやらスーツやらを着ているというような、現代読み替え演出特有の違和感を排した、大変に面白い設定です。さながら、『ナイトミュージアム』とか、『トイ・ストーリー』感。

 確かに、カエサルチェーザレ)やらクレオパトラならば、沢山の展示品が遺っているでしょうからね。あまり古代史や、それをモティーフとした美術作品には明るくないので、登場した品々のモデルの解説が欲しいところ。どなたか書いて頂けないだろうか(他力本願)。

 個人的には、「舞台裏」という空間が大変にすきです。エネルギーに充ち満ちていて、関係者全員が一つの舞台に心を寄せる感覚、程よい緊張感。劇場にも博物館にも舞台裏が存在しているわけですが、普段は観客に見せない場所を見せてくれているような、観客も演者と一体となるような、そのようなメタな読み方もできて、大変に楽しかったです。

 

 不覚にもオペラグラスを忘れた無能なのですが、第一幕で、彫像たちが歌っておりましたよね!? どういう仕掛けなんだ……。意外にも、不気味というより可愛かったです。あれいいな。ちょっと欲しい(?)。

 また、ニレーノの動きがコミカルで良かったですね。エジプトの壁画風。何と申しますか、ネタなのかガチなのかの境目が曖昧で、その曖昧さが逆によいのです。解釈は各自で。

 

 個人的には、バロック・オペラとは然程縁がないので、実は全幕を拝聴するのは初めて。CD だと、こちらは所持していて、たまに聴いていました。

ナタリー・デセイ様によるクレオパトラのアリア集。これだけでボリューム感エグいです。

 

 映像ですと、信頼しているフォロイーの方々が口を揃えて絶賛するのが、こちらのマクヴィカー演出の円盤。良い機会ですし、見較べてみたいところです。

↑ 演出も歌唱も高クオリティとのこと。名盤情報、助かります!

 

 さて、メインの歌唱に関して。

バロック・オペラなので、案の定色々と「お上品」です。それは、先シーズンの『オルフェオとエウリディーチェ』も同様で御座いました。

↑ 一応こちらも簡単な雑感を書いております。現在、無料で配信しているので、是非とも一度ご視聴下さい。

 昨今では、新国立劇場に限らず、大劇場でバロック・オペラを上演することが流行しているようですが、やはり劇場の規模との相性の悪さは隠しきれていないと感じてしまいます。

全体的な音の小ささに加えて、特にこの『ジュリオ・チェーザレ』はとにかく長いので、集中力を必要とします。それこそ、新シーズン開幕、観客の熱意と集中力があってこその公演であったように思います。

 

 特にタイトルロールのジュリオ・チェーザレは、「本当にタイトルロールか?」というくらい主張が弱く、クレオパトラ一強状態に。

 クレオパトラの方は大変良くて、声も響くし、聴かせどころもしっかり聴かせてくれるし、何よりしっかり「演じて」下さるので、「ああ、オペラを観ているな」という実感が湧きました。

 ソプラノ、バリトンと、一般的な声域(?)の役どころは良い仕事をして下さるんですけれど、そこから外れるとやはり声の飛ばなさが気になりますね。

 

 『チェーザレ』は、お話自体は短く纏めることができそうなものなのですが、とにかく繰り返しが多いので、その気になれば半分の短さにだって出来てしまいそうな作品です。

では何故繰り返すといって、聴かせどころだからでしょう。「もう一回繰り返してくれ!」という場と、「これもう一回あるのか……」という場の差が結構激しかった印象を受けました。

 

 今回は、最近新国では割とお見かけするようになった、我らがオネーギン歌いの一人、ヴィタリ・ユシュマノフ氏も出演。

いつも通りオタクがうるさい記事。

 この間の公演からずっと思っていたんですけれども、アキッラは根からの悪役という役どころではないですが、本当に悪役に見えない(聞こえない)。

バリトンでそんなに悪役感ないこと、あります? ある意味希少だと思います。声は良いんですけれども、声質での役での当たり外れが結構激しそうな印象。

わたしは悪意のないオネーギンさん解釈好きなので、またオネーギン歌って欲しいな……(隠しきれていない願望)。

 

 オケに関しては、同劇場の『オルフェオ』よりも威勢がよく、歌手を喰ってしまうこともしばしば。でも、ファンファーレの類いはもっと爆音で鳴らしてくれてもよかった。折角大劇場なのだし。

それにしても、テオルボの威圧感。思わずオケピを覗き込みたくなること請け合いです。二台も使うんですね。それなのに、いつの間にか第二幕でのバンダがオケピに戻っていて、舞台の視線誘導の上手さを感じました。

第二幕バンダ、画になっていて大変よかったです。弦はやっぱり卒がないですね。

 

 劇場に「体力」がなければ成立しなさそうな、長大なバロック・オペラでのシーズン開幕で御座いました。

何よりも演出がよく、歌手陣もクレオパトラを筆頭に概ね満足のいく公演で、幸先の良いスタートであったと言えます。

今年は新国立劇場25周年と、キリの良い年ですし、この後のプログラムにも期待したいところです。

問題は『ボリス』ですよ(二回目)。応援……しております!!

 

最後に

 通読ありがとうございました。3500字ほど。

 

 今回は、何度も申し上げておりますように、上演時間が長いため、休憩時間も長め。

休憩時間は劇場を脱し、小休憩に出向きました。

↑ 我ながら上手いこと言った感。

よく忘れ去られていますが、本作のタイトルは、『エジプトのジュリオ・チェーザレ』……なのでね!

 

 間に息抜きとして別の記事を挟むかも知れませんが、暫く公演レビューラッシュになります。今後ともお付き合いを宜しくお願い致します。

 それでは、今回はここでお開きと致します。また別の記事でお目に掛かれれば幸いです。