こんばんは、茅野です。
前回の記事が妙に伸びているな、と思ったら、所謂「はてブ砲」に遭っていたみたいです。ありがとうございます!
↑ 「編集部お気に入り」に選んで頂けました、光栄です。「きょうの~」に入るのは初めてかも。
しっかし、こんな長ったらしい記事も読まれるもんですね。
この間から、先月初めに敢行したデンマーク遠征の旅日記を連載しています。旅の概要などを纏めた初回はこちらから。↓
↑ 11月初めのコペンハーゲンについての情報なども書いています。
今回は、この旅の、コペンハーゲン初日の夜に行ったオペラの公演評になります。記事の最後には、旅日記の続きも少し書きます。
何のオペラかと言えば、勿論、11月1日ソワレにて、Det Kongelige Teater (デンマーク王立歌劇場、以下 KGL )のオペラ『Eugen Onegin(エヴゲーニー・オネーギン)』にお邪魔してきました!
↑ ポスターがめちゃめちゃお洒落。
劇場に辿り着くまでが既にドラマティックでしたし(後述します)、初めての劇場で、探索したりしていたので、メモを残していなかった上、今回は公演自体も少し特別仕様でしたので、劇場の雰囲気などを重点的に書いていこうと思います。
それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!
↑ シンプルにオシャレで最高のポスター。欲しい。『オネーギン』とは、つまり全くこれでよいのだ。
キャスト
エヴゲーニー・オネーギン:イェンス・ソンダーガード
タチヤーナ・ラーリナ:ソフィー・エルカー・イェンセン
ヴラジーミル・レンスキー:ヤコブ・スコウ・アンデルセン
オリガ・ラーリナ:アストリッド・ノルドスタッド
グレーミン:アルチョム・ワスネツォフ
ラーリナ夫人:ハンネ・フィッシャー
フィリピエヴナ:ヨハネ・ボック
トリケ:イェンス・クリスチャン・トゥヴィルム
ザレツキー:キョンイル・コウ
指揮:マリー・ジャコー
演奏:デンマーク王立管弦楽団
演出:ローラン・ペリー
前回までのあらすじ
普段はこういうコーナーは設けないのですが、今回は事情が事情であるだけに、おさらいしておきます。
詳しくは旅日記シリーズ第1回の記事をご覧ください。
↑ 初日からトラブルの連続!
11月1日昼過ぎ(現地時間)、コペンハーゲンに到着し、荷ほどきをしたり、少し散策をした後、オペラハウスに向かったのですが……。
誰も予想だにしていないことに、急に乗っていたバスが路線とは違う道を通り始め、全く止まらず、車内は混乱。
結局、オペラハウスから離れた位置で強制下車させられ、雨の中、異郷の一度も訪れたことが無いオペラハウスまで走って行くことになったのであった!
結局、走った甲斐あってギリギリ滑り込むことに成功。しかし、1幕の最初の方は息切れ状態で観ることになったとさ。めでたしめでたし(?)。
U30 貸し切りデー
到着までにトラブルに見舞われて大変な思いをしましたが、この日は上演自体も特別仕様なのでした。
この日は、15-30歳だけが入場できる「若者貸切日」! 若者でよかった!!
デンマークレベルの先進国になると、そんなこともできるんですね。我が国でも可及的速やかに導入しましょう(しかしその頃には30歳超えているかもしれない。なんということだ)。
若者専用の席は安い。ということで、コンビニでペットボトルの水を買うと600円取られるコペンハーゲンに於いて、約3000円でS席に座れます。物価を考えると、破格値すぎる。
バスの中で出会った若きカップルも、U30 貸し切りデーだからこそ、初めてオペラハウスに足を運ぼうと思ったのでしょうね。彼らも災難過ぎる。
ちなみに、劇場で無事に再会(?)できました。辿り着けてよかった。楽しんでくれているとオタクとしてもとても嬉しいですね。
席の埋まりは頗るよく、チケットを購入しようとした時には既に、選ぶほど席がない状態でした。今回は、1階の最後列、上手寄りの席にしました。
↑ 自席から撮影。デンマークの若者たち。全体的に髪色が明るい。
やはり「アジア人は若く見られる」という言説は嘘ではないのか、入場時にパスポートもすぐ見せられるように用意していたものの、顔パス状態で、全く年齢確認を求められませんでした(人によっては止められて年齢確認させられていました)。
見るからに30歳以下だということらしい。日本だったら常に実年齢より上に見られるんですけどねえ……、精神年齢3歳児なのに……。
若者貸し切り日で、「オペラ鑑賞は初めて!」という客層だったからこそ、ツーリストも然程浮くこと無く劇場に潜入することができました。なんなら、この日の観客席ではわたくしが一番オペラ観た経験があるかもしれない、の領域。いや、『オネーギン』だけでカウントするなら、間違いなくわたくしが一番観てると思うのですが。
実際、オペラグラスを構えているのも自分くらいでしたね……。
そんなフレッシュな客層に反し(?)、デンマーク王立管弦楽団は世界最古のオーケストラだそうです。
一ヶ月前、Twitter では575周年(!?)をお祝いしていました。何その数字、怖い。
🎉 Congratulations! 🎉 The world's oldest orchestra celebrated its 575th anniversary with a spectacular concert! Enjoy their performances at the Royal Danish Theatre. 🎶 #RoyalOrchestra #Anniversary #Music #orchestra #classicalmusic 🥳 pic.twitter.com/HfgKDI5ofa
— Det Kongelige Teater (@kglteater) 2023年10月4日
↑ めでたい。
それでは、お手並み拝見。
プログラムやクローク
案内では「必ずコートはクロークに預けるように」とあったものの、走り込み状態だったので、仕方なく持ち込み。すみません。一番後ろの席だったのもあって、自席に引っかけていました。
別の劇場でもそうだったので、デンマークは全てそういう仕様なのだと思われますが、クロークは有料のものと無料のものがあります。
有料のものだと、日本と同じように、有人で荷物を預かってくれます。無料のものは、適当にハンガーが掛かっているスペースを使ってね、という形式。他国の劇場だと基本無料なので、「それくらいやってよ!」とも思いますが、興味深い仕様ではありますね。
ちなみに、幕間に「開演前に預け損ねちゃったんだけど……」とクロークに相談に行ったら、「有人・有料のクロークは開演前しか開けないの、ごめんね」とのこと。
有人のクロークを使いたい場合は、早めに劇場に辿り着くようにしましょう。
プログラムは、開場入ってすぐの演説台のような小さなカウンターで販売されています。新国のものよりも一回り小さいくらいの小冊子です。
↑ 今回の主演お二人だと思うのですが、ビジュアルめっちゃよくないですか?
あらすじのみならず、演目に関する指揮者のインタビューなどが収録されています。
全力疾走の余波で脳みそが動いていなかったので、デンマーク語が全く出て来ず、プログラム売りのお兄さんに英語で話しかけたら、「これデンマーク語オンリーだよ! 大丈夫!?」ととても心配してくれました。
"No problem, that's all right.(大丈夫だ、問題ない)" と豪語してしまったので、デンマーク語をなんとかしようと思います(後から辻褄を合わせるスタイル)。
お支払いは勿論クレジットカードなのですが、デンマーククローネと日本円から選択できる仕様になっていて、「え、どっちでもいい……」と優柔不断さを見せたら、「日本から来たの? 日本円で払っちゃいなよー」と言われたので、言うとおりにしました。気さくで良いお兄さんだった。
基本的に、チップ制ではないにも関わらず、店員さん係員さんは神対応ですねコペンハーゲン……(※ロシア比)。
さて、それではそろそろ本題の方を始めます。
雑感
第1幕
第1場
序曲。息切れ状態で聴いていましたが、やはり『オネーギン』序曲には一瞬で帝政ロシアに引き込む力があると確信しました。
しかし、ホルンが初っぱなからひっくり返る。オーボエもかなり怪しい。え、『オネーギン』でホルンとオーボエがコケたらお終いでは……? 頑張れ世界最古のオーケストラ。
劇場は新しく、今世紀に入って建てられたものですが、意外とこぢんまりしており、音響も(サントリーホールなどのように)恐ろしいほど響くようなタイプではありません。全体的に控えめな印象を受けました。
演出は初見のローラン・ペリー演出です。
第1幕1場の舞台セットは巨大な木製回転円卓のようなもので、非常に簡素です。ターンテーブルの上に椅子が四脚載っており、ラーリン家の4人が座っています。
お衣装は、簡素ではありますが、概ねクラシックな感じ。姉妹は色違いのワンピース(ターニャは水色、オリガはピンク)を着ていて、二人ともお下げ髪にしています。
ラーリナ夫人はエプロンをしていて、フィリピエヴナは体型の隠れるワンピースで、こちらも伝統的な感じです。
初っぱなから姉妹が喧嘩しており、ターニャの本を奪ったオリガの頬をターニャが引っぱたく、という衝撃的な幕開け。
この仲が悪さ、新国越えでは……!?
↑ そして二人とも仲違いをしたまま、煽り合うように « Слыхали ль вы ~ » を歌い始めるのである。
« Вообрази: я здесь одна! Никто меня не понимает! (考えてもみて、私はここに独りぼっち! 誰も私のことなんて理解してくれません!)» という台詞を際立たせるため、ターニャがラーリン家の中で孤立している描写をする演出は少なくありません。
そして、それ自体は悪い解釈ではないと思うのですが、やり過ぎると悪趣味な感じがします。
尤も、こちらの方が「年頃の姉妹の喧嘩」で済みそうなので、新国より健全(?)な感じはしますが。新国版はなんというか、イジメっぽくて陰湿な感じが嫌(直球)。
歌手勢は、主役級も自国デンマークの若手を中心的に起用しており、オリガ(ノルウェー人)、グレーミン(ロシア人)、ザレツキー(韓国人)以外は皆デンマーク人のようです。国外出身にせよ、概ね皆北国の民。
オネーギン、タチヤーナ役の二人は、YouTube にめちゃくちゃデンマーク語喋ってる動画がありました(流石歌手、聞き取りやすくて助かる)。
幾らヨーロッパの国であり、且つオペラ大国ドイツと面しているとはいえ、人口が日本の約1/20しかないデンマークで、実質的に二期会のようなことをしているのは凄いですね。確かに、「世界有数のスーパースター!」という顔ぶれではないのですが、充分見応えがあります。
ロシア語に関しては、「まあ、母語ではないだろうな……」というのはわかりますけど、「明らかにここが変!」と思うことはなく、特別違和感は覚えませんでした。
ターニャは、「主役を任されるのはわかるな……」という安心感があります。リリック系で、柔らかく高音が響くタイプ。
『オネーギン』を観ている時は常に「もっと重く! もっと重く!!」と言い続けている重量感重視なわたくしですが、確かにもう少しスピント系の方が理想ではあるものの、充分許容範囲内です。
オリガも柔らかい響きを持つタイプですが、低音が力強く、ターニャとの相性はかなり良いと思いました(演出では仲悪そうだったけど)。
主演組が若手ばかりなこともあり、壮年女性二人組の安定感がピカイチ。何なら、四重唱ではこちらの二人がリードしていたまである。二日後に2回目を観に行った時は、女性低音が安定しているのがとても良いな……と改めて感じました。
歌手に関しては、全体的に、女性の方が良かったと思います。
みんな大好きバイニュ。
うーん、かなり纏まりに欠けている印象ですね……。バイニュはテンポが速いのもあって、一度崩れると立て直すのが難しいのではないかと思いますが、各声部間や、オケと全然合わない。これはもっと練習しておけば改善できるポイントだと思うので、勿体ないですね。
(次の日の朝、KGL から「昨日の公演に関するアンケートにお答えください」というメールが来たので、「合唱とオーケストラがもっと合っていれば、より良かったと思います」、と書きました)。
男性組の登場。
舞台上手袖からターンテーブルの奥へと、「動く歩道」的なものに乗ってやってくるオネーギン氏。ちょっとシュールで面白かった。もしかして、わたしと一緒にコペンハーゲン国際空港から来た?
レンスキーは、力強く重いという感じはないのですが、声質自体が暗めで、これでイタリアオペラのヒーローをやったら「ちょっと暗くない?」と言われると思います。ロシアオペラ向き。
レンスキーって、若々しい血気盛んな17歳でありながら、ロシアオペラ的な暗さ・重さも求められるので、意外と声のバランス難しいんじゃないかといつも思うのですが、これくらいが丁度よいのかも。華々しさはありませんが、役柄には割と合っていると思います。
オネーギンさんも、タイトルロールとしてやっていくにはちょっと荒削りなところがあるように思いますが、声質自体はかなり合っているように感じました。もう数十年歌い続けてくれたらかなり良い感じになっていくんじゃないかと思うのでオネーギン役続けてくださいお願いします。
レンスキーのアリオーゾの後、キスをしていて、若々しい客層からは「おお!」「きゃあ!」等とざわめきが。歌唱後は、拍手喝采で、とても盛り上がっていました。高校の文化祭か?
↑ 丁度そのシーンのお写真が公式に上がっていたので掲載。
演奏中に客席がうるさいのは歓迎されませんが、観客が全員若いこともあり、初々しいリアクションを観察するのはとても興味深かったです。勿論、意図的に騒ぎ立てているわけではなく、驚きや感動で思わず声が出る、という感じだったので、好感が持てましたし。
数百名の若者たちが『オネーギン』に真剣に見入り、素直な反応をしてくれる様を観察する経験は初めてで、個人的には物凄く楽しめました。なんなら、数日後にもう一度観に来る予定だったので、この日は観客の方に注目していたまであります。デンマークの若者に妙にウケが良い『オネーギン』の図。
一方のターニャ×オネーギンさんペア。
こういうことを第一に言うのもあんまりよくないんですが、凄くビジュアルが良いペアなんですよね……。金髪お下げで大きなくりくりとした目が印象的なターニャと、背筋がピンと伸びていて、立ち姿が凜々しいオネーギンさん。
ターニャはとても愛らしく、またオネーギンさんは「こんなのが片田舎に突如現れたらまあ一目惚れもされるわ」、という説得力が凄い。
↑ 照明の関係であまり写りがよくないですが、1幕1場のお写真。
↑ ターニャ役のソフィー・エルカー・イェンセンさん(画像はオフィシャルサイトから)。
↑ オネーギン役のイェンス・ソンダーガードさん(画像は所属会社の宣材写真から)。
以前、フォロイーさんが「オネーギン役は音楽的な見せ場がほぼ無いにも関わらず、ヒロインに一目惚れされるわけだから、やっぱりビジュアルが良いくらいのことはないと説得力無いよね」と仰っていて、「確かにな~」とか思ったものですが(?)、改めて納得した感じがありますね。
第2場
『オネーギン』第1幕第2場あるある・フィリピエヴナが舞台転換係です。
1場のターンテーブルの上に、同じ材質の可動式の壁が登場し、どんどん壁を動かして空間を狭めていきます。
↑ 最終的に、「これがお嬢様の寝室か……?」というくらい狭くなります。
フィリピエヴナは舞台セットを動かしながら歌うので、割と真後ろを向いてしまうことも多いのですが、それでも変わらず声が飛んでくるのが凄まじい。どうなっているんだ。
さて、みんな大好き「手紙の場」です。
相変わらず管は頼りないのが寂しいところ。折角の手紙のモティーフが崩れると悲しいですね。
一方、ターニャ自身はいいですね。3幕よりも1・2幕の方が合っているタイプで、(ターニャにしては)軽やかな声が際立ちます。
緩急が結構しっかりしており、聴かせるところはしっかり聴かせて貰った印象です。
演出はクラシカルですが、舞台セットに机がないので、立ったまま、件の壁を机代わりに書きます。字、歪まない……?
ロシア語圏では丸暗記勢も珍しくないターニャの恋文ですが、今回は勿論字幕がデンマーク語と英語の併記。「ここ、デンマーク語ではそうやって表現するのか~!」とか、「待って、この単語、何だったっけ……、英語と照らし合わせるに……?」と、今回は字幕も結構しっかり見ていました。
主に守護天使のところなど、結構苛烈な表現も出てきますが、観客の若者たちが驚いたり、笑ったりしていて、こちらも面白かったです。まあ、そうなるよね。深夜テンションって怖いね、みんなも気をつけるんだよ。
最後、フィリピエヴナが誰にお手紙を渡すのかわからないところでも、かなり笑いを取れていました。そうか……『オネーギン』って面白いのか……(今更……?)。
第3場
第3場です。
娘たちの合唱は、ターンテーブルの周りをぐるりと囲み、カントリー風のラインダンスのような、簡単なステップを踏みながら歌っていました。そうなると恐らく指揮が見えない場所もあるのか、やはりオケと合わない。うーむ。
オネーギンのアリアです。
ドン引くわけでも、強く拒絶するでも、逆に申し訳なさそうという感じでもなく、「えぇ、この子のこと全然眼中なかったんだけどな、えっと、誰だっけ? ごめんって」みたいな感じが、妙にリアルでしたね……。
言葉の響きが全体的に柔らかく、ロシア語よりも、それこそデンマーク語とか、フランス語が合いそうに思えました。でも、声質的にはオネーギンも合うとは思いますね。
最後は下げる派です。
休憩はちゃんと幕ごとに入れるスタイルですが、この幕切れについて、カップルと思しき若き観客たちが各所で激論を交わしていて、それもまた興味深かったです。
第2幕
第1場
休憩を挟んで第2幕に参ります!
相変わらず管と合唱は不調ですが、意外と歌詞は結構聞き取れる……。
合唱は、女性はラーリナ姉妹に近いパステルカラーのドレスで、男性はカジュアルフォーマルな感じ。
↑ 手前はオネーギンとターニャ。めっちゃガン見である。我々も反対側からガン見である。
後ろの椅子に一列に座って、同時に肩を揺らしたりするのが妙に愛らしく、村の奥様方というより、おませな娘さん方という感じがしました。
今回の演出で一番良かったとも言えるのがコティヨンで、ダンサーさんは一人も起用していないのですが、主役組を含めて、歌手たちがかなりガッツリコティヨンを踊ります。しかも、上手い!
振り付けがとてもしっかりしていて、ダンサーさんの監修がついてるな……と思いました。
特に良かったのがフォーメーションで、これほぼバレエ版の当該部分( Danse Generale )と同じですよ!
オネーギンはオリガと、ターニャはモブ男性(合唱の一人)と組んで踊っているのですが、途中でオネーギンとターニャがばったり顔を合わせてしまい、気まずくなって、二人は少し輪を乱し始める……というような。
ここの部分は、天才振付家ジョン・クランコが、自作のバレエ『オネーギン』の中で最も会心の出来と明言している箇所ですし、そのオマージュをすれば成功は間違いなしです。踊りきった歌手陣も凄い。めっちゃ良かった。
ムッシュー・トリケは、ビジュアルはともかく、歌い方がネタに極振りです。
↑ With 困惑通り越して直立不動で硬直しているターニャさん。
意図的に声を裏返していたりして、逆に難しそう……と思ったり。観客の若者たちには超大ウケでした。拍手めっちゃ長くて盛り上がってました。
« Ты не танцуешь, Ленский? (君は踊らないのか、レンスキー?)» の辺りになっても、合唱もオネーギンもまだステップを踏んでいるんですけど、全体的に2幕の振り付けは完成度が高くて、ここも良かったです。これ他の演出でもやって欲しいな……と思っていました。大体覚えてしまった。一緒に踊ろうレンスキー。
« В вашем доме » の直前でレンスキーが激昂し、所謂台パンをして迫ってきます。ここで明らかに流れが変わり、かなり長めのポーズも取られます。この静寂の緊張感!
客席もここで息を飲む人多数。ムッシュー・トリケの演出もあり、ここまで割とコメディ調だったのもあって、メリハリが更にハッキリしています。
« Пускай безумец я, но вы, Вы бесчестный соблазнитель! » の辺りで、« Åh gud!(※デンマーク語版オーマイガー) » と呟く人も多々。反応が素直で面白い……。
静寂の流れを組み、テンポもかなりゆっくりめ。最後にオリガが卒倒して終わるのですが、結構盛大にいっていて、怪我しませんように……と心配してしまいました。
第2場
管は頼りない今回ですが、チェロ隊はよかったですね。2幕2場序曲はたっぷり聴かせて欲しいポイント。
かなり傾斜を付けたターンテーブルが回り、絶望し呆然としているレンスキーが正面に来ます。ターンテーブル、大活躍。
2場になると照明が暗くなり、決闘を行う二人がロングコートを着ます。銃が明らかにリボルバータイプであることを除けば、かなりクラシカルな演出です。
↑ ザレツキーは、韓国出身のキョンイル・コウさん(音写合っていますか)。現在デンマーク王立歌劇場所属とのこと。
レンスキーは、声がガンガン響くタイプではありませんが、音域的にハマるのか、歌いやすそうではありました。
悪くないですが、« Забудет мир меня » が尻切れトンボ感があったり、最後の « моей весны? » がスラスラ流れ過ぎたのはもうちょっと溜めてもいいかも。オケが途切れる箇所で、声が目立つところなので、特に丁寧にやると更に綺麗に聞こえると思います。
決闘の演出は特にリブレットに違わず。客席にも動揺が走り、休憩中も活発に意見が交わされていました。
第3幕
第1場
ペテルブルクです! 第3幕です!
木製ターンテーブルが漆黒の階段に変わり、黄色い照明がつくようになりました。かなり雰囲気が変わりますね。
↑ 第3幕第1場の図。
ポロネーズですが……、「どうした急に!?」というくらい……、ダンスがダサい!!
いや、ワルツを二拍子で踊っていたのを観たこともあるので……、歌手のダンスに対して元からそんなに高い水準は求めていないのですが、2幕がめちゃくちゃ良かったものですから……、2幕で力尽きた?
客席も失笑気味。うーむ……、田舎の村からペテルブルクなので、どうせカッコよくするなら3幕の方が良かったような?
美味しいところを攫っていくことでお馴染みのグレーミンです。グレーミンがコケることって殆どないような。遭遇したことがありません。
超~~~スローテンポ。これで息続くの凄いな……。単純に声もいいですね。本公演唯一のロシア勢なのもあり、勿論歌詞もバッチリ。
最後の « И жизнь, и молодость, и счастье! » で、молодость と и счастье の間にポーズを入れすぎて、この隙間で拍手が起きてしまいました。あ、本当にみんな『オネーギン』観るの初めてなんだなあ……と思って、逆に感動というか。
オネーギンのアリオーゾの後はエコセーズカットの初演版。良い! 良い! 全部そっちでやってくれ!!
第2場
2場です。セットはほぼ同じ。ターニャは赤いドレスで、オネーギンさんは1場では正装でしたが、2場で脱ぎます。
「ラズベリー色のベレー帽」と指定されているわけですから、少なくとも3幕1場のターニャのお衣装は赤がいいですよね。譲れません。
↑ パンフレットの表紙にもなっていた3幕2場。
何故かわかりませんが、3幕2場になると急にターニャのロシア語が崩れます。
1・2幕では全然違和感なかったのに、急に全然ロシア語っぽくなくなってしまう。どうした急に……? 力尽きた?(2回目)。
ここも流れが変わる一言、 « Ах! Счастье было так возможно, » を後ろ向き(!)で歌うのですが、それでも声が前方、わたしの座っていた1階最後列まで飛んでいて流石でした。
そういう意味合いに於いて、攻防はオネーギンさん優勢かなあと思います。多少セーブがあったのか、オネーギンさんは終幕の方が調子上がってましたし。
最後の « Позор!.. Тоска!.. О жалкий, жребий мой! » の惨めさは、演技も相俟ってとっても良かったです。
客席も大盛り上がり。
カーテンコールでは、拍手喝采、指笛が鳴りまくり、やはり高校の文化祭並の大盛り上がり。これは若者が数百名集まってしかできない空気だな……と改めて思い、その空気がオペラハウスの中で形成されていることに感動さえしました。
二日後にまた同じ『オネーギン』を観る予定だったので、今回は、劇場そのものや、珍しい数百名の若者の観客たち、デンマーク語訳の字幕、初見の演出などを重点に観ていました。どれも初めての経験で、とても楽しかったです!!
確かに、『オネーギン』は主要登場人物が皆10~20代で、若者たちの物語。現代のデンマークの若者たちにも刺さるところがあったようで、新鮮なリアクションはとても興味深く、また、このような意味で、「U30 限定公演」の演目に『オネーギン』を選んだのは大成功だったのではないか、と思いました。
若者ウケが良い魅惑のオペラ、『エヴゲーニー・オネーギン』をどうぞ宜しくお願い致します!!
深夜のコペンハーゲン散歩
『オネーギン』自体そこまで短くないオペラなのに、開幕が 19:30 だったのもあり、終演は 23:00 頃。問題は、どうやって帰るかです。
バスが出ていることは知っていましたが、もうバスは信用できないので、対象外。そうなると、残る選択肢は……、水上バスです!
オペラハウスは運河沿いに建っており、目の前に水上バス乗り場があります。今回はそちらに乗ってみることにしました。
↑ 水上バスから撮ったオペラハウス。超モダン!
外気温は6℃程で、水上なのでかなり寒いのですが、『オネーギン』鑑賞で火照った頬に夜風が気持ちよく、乗っていて楽しかったですね。
着いた先は、コペンハーゲン市内でも屈指の観光地、ニューハウン。まさかの、初日の夜に探索することになりました。
夜のニューハウンはライトアップされていて、とても綺麗です。
↑ これぞ童話の町並み。
そこから中央駅付近のホテルまで、約50分間、深夜のコペンハーゲンを一人で徘徊することに。コペンハーゲンはかなり治安が良い街ですが、絶対に真似しないでください。
ニューハウンはまだまだ人通りも多く、お店で晩酌をしている人もいたので良いのですが、段々ひとけがなくなり、流石にちょっとビビりつつ早足で歩きました。
吞み屋さん前や公園では、性器丸出しで立ちションしている男性たちに遭遇し(この夜の徘徊だけで3組くらい)、「いや、わたし目の前歩いてるけど? 逆に訊くけど、いいのか??」と困惑しつつ。多分酔っ払っていてわたしに気が付いていないまである。
後に悟りましたが、残念ながらこちら、かなり日常風景。えぇ……、トイレ行ってよ……(切実)。
この帰路で、コンゲンス・ニュートーや、ストロイエなど、コペンハーゲン中心街の人気スポットを殆ど歩いてしまい、後日の観光に大いに役立ちました。初日からかっ飛ばしてしまった。世界深夜街歩き。
初めて訪れた街で、人っ子一人いない路地を歩くのは少し勇気が要りましたが、喉元過ぎればなんとやらで、今振り返ると楽しかったな~とか思ってしまいますね。これぞ生存者バイアス。
なんとか無事ホテルに辿り着き、夕方の軽食の残りを食べ、シャワーを浴びて、移動とトラブルと『オネーギン』の興奮と深夜散歩で疲れていたので(濃すぎる一日である)、すっと眠りに落ちました。
初日はこれにてお終いです!
最後に
通読ありがとうございました。1万2000字ほどです。
最近あまり文字を書く時間が取れず、遅くなってしまいました。書かねば……。
当旅日記シリーズは、次回は第2回、2日目です!
しかし、その前にレビューや単発などを出すかもしれません。執筆をサボっていたので、書くべき記事が溜まって……、なんとか追いつきたいところ。
それでは、今回はここでお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです!
↑ 続きを書きました! こちらからどうぞ。