世界観警察

架空の世界を護るために

異形の生誕 - 『DARK SOULS』考察

 こんにちは、茅野です。

復帰勢(4年ぶり)、手が滑ってガッツリ考察を書くシリーズ第3弾。同じフロム・ソフトウェアの作品で『ARMORED CORE VERDICT DAY』(ACVD)って作品があるんですけど、そこに出て来る「財団」っていうフロム作品で一番可愛いキャラ(当社比)は「帰還を歓迎するよ」って言ってくれるんですね。財団が何度でも帰還を歓迎してくれるので、何度でも安心してフロム界隈に帰ってこられる。復帰勢に世界一優しい財団をすこれ。ACVD持ってない方はダクソばっかりやってないでAC買って下さい。時代遅れではないです、AC6出ます(血涙)。宜しくお願いします。

 

ダクソ関連の記事はここから↓

 

 今回は「異形の生誕」と題しまして、デーモンや魔法生物について掘り下げます。7年も前に終わった議論かとおもっていましたが、再履したら結構根深かった。それでは、宜しくお願いします。

 

 

すべてのデーモンの母

 さて、早速ですが、DARK SOULS』世界に於けるデーモンとは何者か。テキストを確認しましょう。

イザリスの魔女とその娘たちを飲み込んだ
混沌の炎の業
周囲に幾つもの混沌の炎の柱を吹き上げる

「最初の火」を作ろうとした魔女の野心は
異形の生命の苗床、混沌の炎を生み出した

                   (混沌の嵐『DARK SOULS』)

呪術の故郷イザリスの、混沌の炎の業
周囲に幾つもの混沌の炎を吹き上げる

混沌の炎は岩を溶かし
着弾跡には一時的溶岩溜りが生まれる

全てを飲み込んだ混沌の炎は、やがて苗床となり
異形の者たち、デーモンを生んだという

                  (混沌の嵐『DARK SOULS III』)

デーモンの母たる、混沌の苗床のソウル

火の時代の最初に見出された王のソウルの1つ

魔女はソウルから「最初の火」を作ろうとし

歪んだ混沌の炎の獣を生み出した

すべてのデーモンの苗床となったその力は

王の器を占めるに足るものだ

                  (王のソウル『DARK SOULS』)

……と、このように、すべてのデーモンはイザリスの魔女が生み出した混沌の炎の苗床から生まれ出たということがわかります。しかし、ほんとうに「すべての」デーモンの母なのでしょうか。ここで我々は矛盾に気が付くのです。

 

 一番わかりやすいのが楔のデーモンの例です。

くさびの原盤から生まれた顔のない石の魔物
くさびのデーモンの武器

原盤の魔力の残滓なのか
元より魔法の力を帯びた武器の1つであり
大きく前に跳び、上から突き下ろす攻撃が特徴的

                 (くさびの刺又『DARK SOULS』)

顔のない石の魔物
楔のデーモンから奪える特別な楔石
特別なソウルから生まれた武器を+5まで強化する

名もなき鍛冶の神が死して後
幾つかの原盤から魔物が生まれた
それらはいまだ楔の力を帯び
ロードランの地をさまよっている

                 (デーモンの楔『DARK SOULS』)

このように、楔のデーモンは「くさびの原盤から生まれた」と明記されており、イザリスの混沌の炎の生まれではありません。又、楔のデーモンに纏わるテキストには一度も「混沌」の文字は現れません

一応、では原盤とは何なのか、ということをお浚いしておきましょうか。

武器を強化する楔石の原盤
伝承では神が持つとされていたもの
武器を最高レベルに強化する

原盤は神々の鍛冶素材であり
これにより鍛えられた武器は
数少ない伝説の武器に並び称されるであろう

                  (楔石の原盤『DARK SOULS』)

 皆様大変お世話になっているとおもうので今更でしょうが、楔石の原盤は神々の鍛冶素材であります。尚、この「神々」が我々がよく知る王家、即ちグウィン一家を指すのかは不明ですが、アノール・ロンドの巨人鍛冶も扱うことから(というかどの鍛冶屋もプレイヤーも使えるわけですが)、全ての神が使えた、或いは使っていた、と考えてよいでしょう。

 尚、何故かここで「楔」「くさび」と表記揺れしていることは特筆に値します

 

混沌のデーモン

 では、混沌の炎から生まれたと考えられるデーモンたちはどのように描写されているのか。確認していきましょう。

岩の大樹を加工したデーモンの武器
北の不死院のレッサーデーモンが使用していた

                (デーモンの大槌『DARK SOULS』)

分厚い鋳鉄の刀身と鍔を持つデーモンの武器
山羊頭のレッサーデーモンが一対で使用していた

                (デーモンの大鉈『DARK SOULS』)

混沌のデーモンと化したイザリスの魔女の娘
クラーグのソウルから生まれた刀

クラーグの混沌の性質だけを受け継ぎ
刀身には特徴的な班流紋が浮かんでいる
敵と同時に持ち主も蝕む魔剣

                   (混沌の刃『DARK SOULS』)

それは望まれず生まれた異形の命に似て
故に混沌と称するという

                  (混沌の刃『DARK SOULS III』)

同族の骨を削り出したデーモンの武器
痩せた蝙蝠羽のレッサーデーモンが使用していた

混沌のデーモンでありながら
アノール・ロンドに住まう彼らの武器は
他のデーモンと違い、雷の力を帯びている

                 (デーモンの槍『DARK SOULS』)

イザリスの溶岩石を削り出したデーモンの杖
炎属性の攻撃力を持った武器としても使える

デーモンの炎司祭は、最初のデーモンであり
イザリスの魔女が混沌に飲まれる前の
呪術でない、炎の魔術の最後の使い手だった

                 (デーモンの杖『DARK SOULS』)

炎の燻りすら失くした、はぐれデーモン

かつてロスリックの門番であったという

           (はぐれデーモンのソウル『DARK SOULS III』)

デーモンの王子が最後に灯した炎
混沌としたその欠片を、投げつける呪術

混沌の欠片は着弾地点で激しくたぎり
一瞬の収縮の後、大きく爆発する

デーモンにとって、それは命の欠片だった

                 (たぎる混沌『DARK SOULS III』)

と、このように、混沌との関わりを強調されています。又、『III』の混沌の刃の説明から、異形(ここではデーモンを指す)は望まれずして生まれたことがわかります。混沌よりも寧ろ岩、即ち古竜、ハベル、灰の時代などとの関わりを暗示する不死院のデーモンは中々異色の存在です。一応、仮説としては、 1. 大槌は不死院を経営する人物、組織から送られたもの、 2. 不死院のデーモンも元は混沌の炎、即ちイザリスの出身である、という前提のもと、廃都イザリス~病み村~大樹の虚ろは繋がっていることから、地理的に近いため入手が可能だった、という二つを考えています。

 又、楔のデーモンはイザリス産ではない、と言いつつ、はぐれデーモンは楔石の原盤をドロップすることから、楔、及び楔のデーモンとの関わりが読み取れます

 これらについては後々更に深めますので、頭の片隅に置いておいて頂きたいです。

 

無印時代の議論

 さて、ここからは歴史的な考察、議論の軌跡を振り返ってみましょう。わたしが無印考察現役時代の頃の話なので、……7年前とかの話……ですね……怖……。当然そんなのうろ覚えですので、自力で筋立て、補強していますが、当時考察やっていた人は何となく見覚えがある考察かもしれません。

 無印時代、デーモン関連の議論で一番物議を醸していたのが蝙蝠羽のデーモンです。前述のように、混沌のデーモンでありながらアノール・ロンドに住まい、グウィン王家に仕える曲者である蝙蝠羽のデーモンをどう解釈するか、というのが主な論点でした。一点一点解きほぐしながら見ていきましょう。

 

理性の存在

 まず、『DARK SOULS』世界のデーモンには理性があるのかどうか、という問題です。これは、ほぼ間違いなくある、と言って良いでしょう。何故なら、まず不死院のデーモンは不死院を運営する存在に使役され、不死者を監視する任に就いていることから、少なくとも自分の仕事を理解する程度の知能があることが伺えます。次に、デーモンの炎司祭。彼らは炎の魔術を用います。無印の呪術は理力や信仰を必要としませんが、彼らが扱うのは魔術、即ち理力を必要とすることを考えても、理性はあると考えてよいでしょう。尤も、亡者化した魔術師なども登場しますから、「少なくとも、過去にはあった」とするほうが精確かもしれません。最後に、蝙蝠羽のデーモンです。彼らは選ばれし不死を運んだり、王城を守ったりするなど、高い忠誠心と理性の存在が見て取れます。つまり、何が言いたいのかというと、デーモンは亡者のように理性を失って闇雲に襲いかかったりする存在ではなく、しっかりとした意志を持った存在なのだということです。

 

黒騎士との対立

 さて、次に黒騎士との関係を考えます。黒騎士武器には次のようなテキストがあります。

ロードランをさまよう黒の騎士たちの大剣
混沌のデーモンと対峙するための武器

大きな動きから体重をのせた攻撃は
かつての彼らの敵の強大さからくるものだ

                 (黒騎士の大剣『DARK SOULS』)

大剣を例としましたが、黒騎士武器全てに同様の説明が入ります。

蝙蝠羽のデーモンは神族の王家に仕え、アノール・ロンドに住まいますが、黒騎士武器特攻が入ります。一方、混沌との関わりについて疑問が残る楔のデーモンは、デーモンであるにも関わらず黒騎士特攻が入りません。このことから、蝙蝠羽のデーモンは「混沌のデーモン」としてカウントされている、ということがわかります。

 黒騎士はグウィン王に仕える存在です。銀騎士を見れば明らかなように、火継ぎに旅立つ前には黒騎士(元銀騎士)はアノール・ロンドに住んでいたと考えられます。もっと言えば、現アノール・ロンドの銀騎士と蝙蝠羽のデーモンは対立していません。ここから、蝙蝠羽のデーモンの出自が混沌であれ、それこそ古竜を裏切りグウィン王側についた白竜シースのように、なにか特別な協定を結んでいて、黒騎士と敵対することはなかった、と考えられます。

 

母たる黒焦げた橙の指輪

 楔のデーモンがイザリスの混沌の炎産ではないことは先程確認した通りです。他に混沌の炎産ではないデーモンはいないのか。います。それが百足のデーモンです。「黒焦げた橙の指輪」のテキストを見てみましょう。

魔女の魔力が込められた橙の指輪
溶岩からのダメージを軽減する

生まれながらに溶岩に苛まれる「爛れ」のために
姉である魔女たちが贈った特別な指輪だが
愚かな彼は、それをすぐに落としてしまい
恐ろしい百足のデーモンが生まれたのだ

               (黒焦げた橙の指輪『DARK SOULS』)

 このように、百足のデーモンは混沌の炎からではなく、姉である魔女、即ちイザリスの娘たちの指輪から生まれています。ここでの「魔女の魔力」とは、炎司祭なども扱う古の炎の魔術であり、混沌の炎ではないと考えられます。尤も、黒焦げた橙の指輪は部位破壊でも手に入るので、最早 "核" となる存在ではなかったのかもしれませんが。

 

魔法と神秘の生物

 『DARK SOULS』では、デーモン以外の異形の存在も確認できます。わかりやすいのはガーゴイル月光蝶です。

不死教会の鐘楼で目覚ましの鐘を守っていた
魔法生物ガーゴイルの兜

ガーゴイルの皮膚は元より硬く
この青銅の兜は装飾でしかなかった
高い防御力は期待できないだろう

                (ガーゴイルの兜『DARK SOULS』)

黒い森の庭を舞う神秘の生物
月光蝶のソウルから生まれた武器

シースの被造物であるという蝶の角は
純粋な魔法の力を帯びている

                  (月光蝶の角『DARK SOULS』)

このように、ガーゴイル月光蝶は人為的に造られた生物であることがわかります。月光蝶の作成元はシースであることは確定事項です。ガーゴイルについては明記がありませんが、「魔法生物」であるらしいそれは、「純粋な魔法の力を帯びた」生物を造り、魔術の探究に明け暮れた白竜が最も怪しいと言わざるを得ません。

「デーモン」ではなく「魔法生物」「神秘の生物」などの異形は、混沌の炎以外の存在が生誕に関与しています。そして特にそれはシースとの繋がりを連想させます。

 

昼の幻影

 しかし、当時の "結論" は以下のようなものでした。

―――デーモンのテキスト矛盾に考察勢は頭を抱えた。しかし、一つの希望を見出した。それは夜のアノール・ロンドで訪れた。

 そう、夜のアノール・ロンドに蝙蝠羽のデーモンは出現しないのである。この答えは簡単に導くことが出来る。つまり、蝙蝠羽のデーモンなんてものははじめから存在しておらず、暗月の神グウィンドリン様が造り出した幻影にすぎなかったのだ。

なぁんだ、おれたちは深く考えすぎたのさ。全部幻影だったんだよ、グウィンドリン様万歳、それでいいじゃないか。めでたしめでたし。…………そうおもわれていた――――『DARK SOULS III』発売までは。

 

蝙蝠羽のデーモン、再び

 しかし、蝙蝠羽のデーモンはグウィンドリン様亡き(?)『DARK SOULS III』の世界にも現れた! しかも、その行動から、グウィン王家~ロスリック王家に使役されっぱなしらしい!

 尤も、アストラのオスカー没イベ→アンリイベントの系譜や、ユーリア(デモンズ)→クラーナ(無印)→カルラ(3)の系譜、パッチ、ジークのように、一種のファンサービスとして捉えることも出来ます。が、それでは納得出来ないのが考察勢である。

こうして、蝙蝠羽のデーモン考察は振り出しに戻ったのである。 To be continued...

 

定義付け

  さて、残した謎は解かねばなりません。それでは謎解きのお時間。やっていきましょうか。

苗床

 まず解きたいのがテキスト矛盾。即ち、「すべてのデーモンの苗床」(混沌の嵐)と、「くさびの原盤から生まれた」(くさびの刺又)の矛盾です。如何にして解くか。

困ったら語義を疑え、ってプラトンが言ってた。出でよ、大辞泉先生。

なえ-どこ 【苗床】

野菜・草花・樹木などの苗を育てるためにつくった場所。土をよく耕し、種子が発芽しやすい条件を整えた所

「デーモンの母」(王のソウル)などという表記から惑わされてはいけない。苗床とは、「種子を生む所」ではなく、「苗を育てる場所」。言うなれば、苗床とは、「妊婦の子宮」というより、「保育器」であるということです。このことは、「混沌の苗床」の英語訳が "The Bed of Chaos" であることからも伺えます。

 ここから何が読み解けるのか。つまり、DARK SOULS』世界のデーモンとは、何か物体や生物が、混沌の炎の影響を受けて変質したもの、と考えることが出来ます。混沌の炎は、一からデーモンを生み出したのではなく、何か元からあったものに影響を与えた(=育てた)だけ。そう考えると、今まで矛盾と考えられていたものを解くことが出来ます。詳しくみていきましょう。

 混沌の魔女クラーグは、下半身が蜘蛛で上半身が女性という姿です。彼女のソウルから錬成される混沌の刃のテキストには、「混沌のデーモンと化したイザリスの魔女の娘」とあります。つまり、魔女(人間)も混沌のデーモン化する、ということがわかります。

 山羊頭のデーモンは、頭こそ山羊ですが、人間らしい体付きをしています。足は人間の裸足そのものですし、下半身はズボンのような布を纏っています。このことから、元々は人間であり、混沌の炎の影響でデーモン化した結果が山羊頭、と言えるのではないでしょうか。

 百足のデーモンは黒焦げた橙の指輪から生まれた存在です。つまり、元は指輪です。爛れ続ける者は、廃都イザリスに指輪を落とした。そこで、指輪に混沌の炎の力が影響し、デーモンと化した、それが百足のデーモンなのではないでしょうか。

 楔のデーモンは楔石の原盤から生まれた存在です。つまり、元は楔石の原盤です。廃都イザリスにも楔のデーモンがいるように、イザリスにも原盤があったのでしょう。原盤から生まれた "顔のない石の魔物" の成長に、混沌の炎が関わった。そして楔のデーモンとなり、世界に散らばっていった、と考えられないでしょうか。

このように、あくまで矛盾しないように解釈しようとすると、「苗床」という一語から、語られない背景を読み解くことができます。楔のデーモンが他のデーモンと一線を画すのは 1. 先に既に "石の魔物" なる存在が生まれていて、混沌の炎はあくまでその成長に関わったからにすぎないから、2. 「神の鍛冶素材」としての性質が強すぎ、混沌の炎が影響を及ぼせたのはごく一部のみだったから、などが考えられるのではないかとおもいます。

 であるならば、我らが難問、蝙蝠羽のデーモンについてはどうでしょうか。おさらいしましょう。

1. 蝙蝠羽のデーモンは自らの意志でグウィン王家に仕えている

2. グウィン王と黒騎士は混沌のデーモン狩りを行っている

3. デーモンは、物体か生命が混沌の炎の影響を受けて異形化したものと考えられる

4. デーモンは望まれずして生まれた

でしたね。ここから仮説を練ってみましょう。そうですね、これはほぼ妄想ですが、たとえば、グウィン王家に仕える黒騎士が、混沌のデーモン狩りをする中で "混沌に墜ちた" としたら?  "深淵に墜ちた" アルトリウスの例が、もし混沌方面でも行われているとしたら? 混沌属性は人間性によって力を増します。神族たる黒騎士は、闇と同じように混沌にも耐性がなかったとは考えられまいか? 故に「雷の力を帯びた混沌のデーモン」になったとしたら? ……沸き立つフロム脳。ここまで仮説を重ねてしまうと考察とは呼べず、妄想の域だと個人的にはおもっていますが、二次創作でそういう話があったら滅茶苦茶面白そう。デーモンスレイヤー黒騎士と墜ちて尚忠誠を誓う異形の友情。アツい。読みたい。

 

レッサーデーモン

 「混沌のデーモン」の節に大量に混沌のデーモンに纏わるテキストを引用しましたが、そこで気になるのは「"レッサー"デーモン」という表記。レッサーって、なんなんだ?

「レッサー」とは、カタカナで書くと分かりづらいですが、英語に直すと "lesser" です。「より小さい」とか「劣った」とか「小型の種の」みたいな意味になります。つまり、 less-er ですよ、二重比較級というやつ。

 敢えて訳すなら、「下位のデーモン」とか、そんな感じでしょうか。じゃあ上位がいるのか。思うに、「レッサー」の表記がない、クラーグ、楔あたりが上位なのではないでしょうか。強さ的にも妥当。犬のデーモンは上位ですね、間違いない。(ちなみに犬のデーモンの正式名称は「野犬」なので、こいつはデーモンではないです。)

 

デモンズソウル』に於けるデーモン

 デーモンといえば、前作『Demon's Souls』の話を避けては通れません。もうタイトルからしてドンピシャですからね。尤も、『Demon's Souls』と『DARK SOULS』の世界は繋がっていると考えるのは実に楽しいものの、根拠に欠ける上に少なくとも制作陣の意図するところではないので、同じソウルシリーズとして参照するに留めます。

 『Demon's Souls』でのデーモンを簡潔に表すと、「ソウルを集める存在」「ソウルの器」です。全てのボスがデーモンであり、主人公も言うなればデーモンです。

 『DARK SOULS』では、「ソウルを集める」という点は共通するものの、全てのボスがデーモンという訳ではありませんし、主人公もデーモンではありません。言明されていないだけ、とも考えられますが、逆にそれらがデーモンである、という根拠に欠けますし、それこそ上記の「すべてのデーモンの苗床」という表記に接触するため、デーモンではないと考えるのが無難でしょう。

 

デーモンの定義

 であれば、DARK SOULS』に於けるデーモンとは何なのか。そもそもデーモンとは何なんでしょうか。まずは語義だ。プラトンを信じろ。先人の知恵を借りましょう。

オカルト研究者やファンタジー創作者、及びその考察勢必携の書として非常に有名な悪魔学界のベストセラー、フレッド・ゲティングズの『悪魔の辞典』によると、こうあります。

デーモン Demon

 極端に単純化した定義をすれば、デーモンは人間にとって有害であるか、人間の未來の進化を破滅させようとする、非物質的な霊であるとみなしてよいかもしれない。この言葉の起源は歴史全体を隠しており、本源的にはサンスクリット語の語根 div (輝く)に発し、ギリシア語のダイモーン Daimōn を経ているのである。(中略)

「輝く」慈愛深い存在に結びついた言葉が、現在デーモンと呼ばれる、地獄の闇の存在をあらわす言葉にすりかわった経緯は、デーモン学の歴史をざっと振り返ってみなくてはならない。

 ほとんどすべてのデーモン(或いは少なくともデーモンの名前)は、今や消滅してしまった文明の神々(もしくは神々の名前)であった。(中略)

しかしながら聖書の文書は更に具体的であり、『詩篇』第九五篇五節には、「すべて異教徒の神はデーモン(ダイモニア)なり」とある。(後略)

 辞典なので分厚い上下二段構成の本なのですが、流石題を飾るだけあってデーモンの解説は非常に長く、3.5ページくらいあるので()、ここら辺で辞めておきます。『悪魔の辞典』、ダクソに限らず、ハイファンタジーの考察書きにはオススメの一冊ですね。天使の考察とかにも有用だとおもいます(謎のダイレクトマーケティング)。

 現実世界のデーモン(実在しない可能性が高い……)の定義は、上記のようになっています。現実世界には神族や巨人族は存在しない(可能性が高い)ので、我ら人間にフォーカスした、人間目線からの定義付けになります。

 『DARK SOULS』世界ではどうでしょう。「非物質的な霊」というところは、デーモン系エネミーが必ず死体を残さず、消失するところからみても共通すると見て良いかもしれません。

「人間にとって有害であるか、人間の未來の進化を破滅させようとする」というところは、ここを「人間」から「神族」に変えるとしっくりきます。「神族にとって有害であるか、神族の未來の進化を破滅させようとする」。そう考えると、グウィン王と黒騎士がデーモンを狩っていた事実と呼応します。

そして、現実世界ではデーモンの正体は「今や消滅してしまった文明の神々」です。これは、啓典の神(ユダヤ教キリスト教イスラーム唯一神のこと)が自らを正統たる起点として異教を断罪した為に、悪霊という濡れ衣を被った哀れな土着の神々を指します。実際、『旧約聖書』で激しく糾弾されるデーモン、バアルは元々はメソポタミア地域で信仰を集めていた神です。このような経緯から、主神ロイドやグウィンが啓典の神のような振る舞いをしない限りは、この点での定義は『DARK SOULS』世界には引き継がれないことになります。『DARK SOULS』世界のデーモンが信仰を集めていたとは考え辛いため、ここは切り離して考えるのが無難でしょう。しかしながら、ここで、我々は『DARK SOULS』世界の「名もなき鍛冶の神」の存在を思い出すのです。なるほど、正しく "デーモン" ではないですか。楔のデーモンが混沌のデーモンとは一線を画すのにも納得します。

 纏めましょう。DARK SOULS』のデーモンとは、混沌の炎によって異形化した物体或いは生物であり、それは彼らにとっても、世界にとっても望まれたことではなかった。よって、世界の秩序を作ろうとした神にとって、有害な存在である

 

くさびと楔

 ところで、かなり前の方で「くさび」と「楔」の表記揺れについて触れたことを覚えておいででしょうか。ここの謎も、解きます。ついでなので。

この世界には、実際に「くさび石」という鉱石があります。組成にチタンを含むため、「チタナイト」とも呼ばれます。或いは「スフェーン」とも。

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↑こんな感じ。綺麗。

 『DARK SOULS』世界の「くさび」(平仮名表記)は、このチタナイトを指していると考えて間違いないです。それを補強するものとして、1. 「くさび石(チタナイト)」は、「楔」という字を使わず、平仮名で「くさび石」と表す2. 英語版『DARK SOULSでは「くさび」「楔」系のアイテムが全て "Titanite" と訳されている、などが挙げられます。

 一方、「楔石」(漢字表記)という別物も実在します。それがこちら。

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石造り、煉瓦造りのアーチの頂点の石を「楔石」と言います。これを別名で「要石」「キーストーン」とも……。「要石」とは! 『Demon's Souls』でお馴染みですね。

 つまり、「楔石」「くさび石」は、このふたつの「くさびいし」を掛けている、と考えられるわけです。ビジュアル的には「チタナイト」、存在意義的には「要石」といった具合でしょうか。平仮名で「くさび」という表記があるのは「くさびの刺又」で、「くさびの原盤から生まれたくさびのデーモンの武器」とあります。他のテキストではただの「原盤」と書かれることが多いことから、くさびのデーモンが生まれた原盤というのは「くさび(チタナイト)の原盤」であることが強調されているのではないか、と考えます。

 「楔」という字、言葉には、「二つのものを固く繋ぎ合わせる」という意味があります。「繋ぎ止める」というと、デモンズ、ダクソっぽくなるでしょうか。 ちなみに、英語版では『Demon's Souls』の楔の神殿は "The Nexus" です。こちらは「絆」「結びつき」などと訳され、「楔」の直訳として機能しています。一方で、前述のように楔石系のアイテムは全て "titanite" ですから、外国語ではこの「くさび」と「楔」を掛ける、という言葉遊びは機能していません。海外の考察勢の楔に纏わる議論を読む際は注意しましょう。

 繋ぎ止める "楔" が剥がれ墜ちて欠片となり、デーモンとなり世界へ散らばる……。なんとも示唆的ではないですか。

 

最後に

 1万字超えたしそろそろお終いにします。お疲れ様です。息抜きのはずが5時間くらい掛けてしまった。通読ありがとうございました。

 久しぶりにデーモン周りを再履したら、昔提唱していた説よりも面白いものが閃いて、すっかり楽しくなってしまった。考察というのは、オンラインが廃れても、人口が減っても頭さえあれば遊べるんで、いいですね。ダクソはまだまだ人いるみたいですけど……。いいことだ(『ARMORED CORE』を見やりながら)。

ご意見、反論その他はコメント欄へ。それでは、お開きにします。