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新国立劇場『オルフェオとエウリディーチェ』 - レビュー

 おはようございます、茅野です。

わたくしはオペラもバレエも愛好しておりますが、最近はオペラを観たい気分でおります。

 

 レビュー記事を脱稿するのがすっかり遅れてしまって恐縮なのですが、新国立劇場でオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』を鑑賞致しました。5月19日の回です。

 実は、わたくしが中学生の頃に人生で初めて観たオペラこそこの『オルフェオとエウリディーチェ。そして、正直、長らく苦手な作品でした。

昔からオルフェウス神話が好きだったので、初めてオペラを観るにあたり、この作品を選んだのですが、まさかのハッピーエンド改変に唖然

「いや、そこ?」とお思いかもしれませんが、初めて観ることもあって、当時はオペラ自体の良さもわかっておらず、暫く敬遠しておりました。そう思うと、プロコフィエフの『ロミオとジュリエット』が初期案通りハッピーエンドになっていなくてよかったな、と心底思います。

 

 オルフェウス神話は、それを下地にして数多の名作が生み出されています。昨年、エウリュディケ(エウリディーチェ)に焦点を当てたこのような記事も書いていました。

↑ まだまだオルフェウス神話ベースの作品は増えてもよい。

 グルックの『オルフェオ』は、中でも古典的名作。今後も上演の機会があると嬉しいですね。

 

 さて、それでは、簡単にはなりますが、お付き合いの程宜しくお願い致します。

 

 

キャスト

オルフェオ:ローレンス・ザッゾ

エウリディーチェ:ヴァルダ・ウィルソン

アモーレ:三宅理恵

ダンス:佐東利穂子、アレクサンドル・リアブコ、高橋慈生、佐藤静佳

指揮:鈴木優人

演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

演出:勅使川原三郎

 

雑感

 最初に思ったことは、「第一幕ってこんなに美しかったっけ?」ということです。

オルフェオ』の中では第三幕が特に好きだったので、冒頭からこんなに楽しめるとは。

 

 もう、歌詞全部「エウリディーチェ」だけでよくないですか? ってくらい綺麗ですね。世界で一番美しい名前かもしれません。

 METライブビューイングの『エウリディーチェ』も拝見して、大変気に入ったので早くBlu-rayが欲しくて致し方ないのですが、こちらは英語歌唱ゆえに「エウリディーチェ」ではなく「ユーリディシー」だったので……。

↑ 最近の新作オペラでは段違いの良さ。

 

 「エウリディーチェ!」と哀哭するオルフェウスのローレンス・ザッゾ氏が素晴らしく、正直一人芝居状態でしたね。タイトルロールが素晴らしい、それ以上のことはありません。

カウンターテナーであの力強さと表情付けができるってとんでもないです。

 

 一方で、アモーレの三宅理恵さんは、いつもはとても素晴らしいのに、今回ばかりは少し調子が悪かったのかな? と感じてしまいました。全然声が飛んでこない……。オルフェウスとの掛け合いで物足りなさを感じるとは……。

しかし、薄桃のお衣装や、女神というよりも妖精らしい立ち振る舞いは非常に愛らしかったです。

 

 『オルフェオ』は、バロックオペラというだけあって、そもそも大劇場での上演に向いていない演目ではあると思います。わたくしは一階席だったので、そこまでは気になりませんでしたが、「これは上階席まで音が届いているのであろうか……」と感じることもしばしば。

後に桟敷席でご覧になったフォロワー氏にお伺いを立てたところ、きちんと響いていたとのこと。もしかしたら、音の拡がり的に下層席の方が届きづらかったなんていうこともあるのでしょうか。

 

 三幕になって漸く姿を現すエウリディーチェは、とにかく美しく。青いドレスがよく映え、またお似合いで。しかし、あの傾斜の著しい舞台をあの出で立ちで動くの凄いなとも思いつつ。

今回は演出も含め出番が少ないので、歌唱的にはもう少し自己主張があってもよかったかもしれません。勿論全く悪くないのですが……。しかし、落ち着いていて纏まっている方が、舞台としての整合性はあったということなのかもしれません。

 

 指揮はこの日は「親子対決」でもあった(同日に近い劇場で上演があった)、鈴木優人先生で、やはり古楽専門ということもあり、素晴らしい安定感があります。

それでも、やはり大劇場での上演ということを考えると……と思う側面も。

 

 舞台装置は大きな百合の花と、白い円を中心にした簡素なもの。美しいは美しいですが、三幕を通してあまり代わり映えしないので、退屈といえば退屈やも。

 

 演出は、とても賛否両論であるように見受けられます。

プログラムノートを読めば、抽象的なことをやりたいのだということがわかりますが、それを知らない状態で観ると、絶対に「これは何を表したいのだろう」と考えてしまうと思うのですよね。そちらに気を取られて、音楽を楽しみきれない側面があり、非常に勿体ないと感じました。

 バレエは美しいですが、何故それを『オルフェオ』というオペラで挿入する必要があるのかが、いまいち見えてこない。継ぎ接ぎをしているようで、舞台としての統一感を欠くように感じました。

 

 『オルフェオ』自体を久々に聴きましたし、生で拝見するのは初めてで、非常に楽しめましたし、良い観劇であったと感じています。個人的には、演出などには疑問符がありましたが、最も重要な歌唱が概ね良かったので、総評としては良かったと思います。

 

最後に

 通読ありがとうございました。ごく簡潔に2500字。

 

 先日、音楽劇研究所でバロックオペラの発表を伺い、バロック・オペラはあまり舞台上で人が死ぬ演出をしないよね、という話になりました。確かに、『オルフェオ』も初手が葬式であって、それ以前は描写されませんからね。興味深い指摘でした。

普段は19世紀ばかり追っているので、バロックオペラの見識も深めてゆきたいところです。

 

 それではお開きと致します。また別記事でもお目に掛かれれば幸いです。