世界観警察

架空の世界を護るために

終末 - 『Everybody's Gone to the Rapture』レビュー

 こんばんは、茅野です。

最強のウォーキング・シミュレータ・デヴェロッパー、The Chinese Room の新作(というには古いですが……)『Everybody's Gone to the Rapture 幸福な消失』を漸く一周クリア致しましたので、思うことを書いていこうと思います。

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前作と比べて

 わたしは同チームの処女作『Dear Esther』のファンで、ずっとやってみたかったんですよね。『Dear Esther』も素敵なゲームですので是非とも。

 こんな『世界観警察』なんかをやっていますと、「開発された言語で遊びたい」なんていう面倒くさい感情が湧いてくるものでして、PS4では日本で発売されていないことも相まって、『Dear Esther』は北米版でプレイしました。

 「まあ、英語くらいいけるだろ」と、甘く見ていたのですが、『Dear Esther』の英語、めちゃくちゃ難しいです。

古い語がふんだんに使われていることに加えて、寓意的な意味合いの多い単語が並び、小説チックでグラマーも複雑なのですからもう適わない。考察どころの騒ぎではなく、翻訳に挑むも雲を掴むかのよう。あってるのかもわかりません。

……という経緯があり、この『Everybody's Gone to the Rapture』は、北米版を買うか、日本版を買うか心底迷ったのでした。北米版を買って、内容を理解出来る自信がなかったのです。

そして恐る恐る日本版を買ったのですが、音声 / 字幕共に英語 / 日本語から選択可能で、乾いた笑みがこぼれました。危ない危ない。

 それに、本作は基本的に日常会話くらいしか出てこないので、難しくもないです。寧ろ、英語の勉強によいのではないでしょうか。(汚い言葉も結構出てきますが!)

 

 また、前作と比べるとボリュームがかなりあります。一本道ではないですしね。登場人物も多く、前作同様人と全く触れあえないのに、こちらの方が暖かみを感じます。ストーリーはどっちもどっちですが……。

制作陣が同じこともあって、グラフィック、音楽、ストーリーとも、同じ系統です。どれも前作共々最高です。シンプルながら美しい、イギリスの自然。

 

 そしてなにより……猛烈に酔います!

わたしは結構画面酔いするタイプで、一人称視点のゲームはほぼ全くダメなのですが、前作『Dear Esther』では全く画面酔いはしませんでした。

本作も『Dear Esther』とやっていることは何も変わらないのですが、本やラジオを探して狭い部屋でカメラをがちゃがちゃ動かしたりすると、頭痛と吐き気が……。そろそろ鼻血が出て光と一体化するかもしれません。

割とくまなく探索していたのですが、20分くらい経つと休憩を挟んでいました。おかげさまでかなり時間かかりました。

 しかしですね!このゲーム、酔って気分が悪くなっても、全然先に進めなくても、「もうちょっとしたら少し進めるか……」と思わせる何かがあります!

「酔ったからもういいや……」と投げてしまうのは大変勿体ないです。

せめて一周だけでも……!!(トロフィー取得率を見るに、諦めてしまう人が多いようですが……)。

 

グラフィック

  前述の通り、『Dear Esther』の流れを汲む美麗なグラフィック。更に進化したとも言えるでしょう!

今回の舞台はイギリスの田舎町:ヨートン

一度是非行ってみたい!と思わせる、閑静だけども美しい場所です。

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↑ Welcome to YAUGHTON(単純な発音のくせにスペルがややこしいぞ!)。

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↑ 緑と水のコントラストが美しい。

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↑ 各チャプターの最後には光の道が……。

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↑ 幻想的なライトアップの VALIS タワー。

 

 ご存じの通り、当方は考察を趣味とする一プレイヤーですが、『世界観警察』ともいうだけあって、特に架空の世界について考えることが好きです。作品にハマる時はキャラクターよりも「酔える世界観」です。

そんな人間をピンポイントで殺してくるのがこの『Everybody's gone to the Rapture』です。プレイヤーは Rapture に gone するのではなく、Ecstasy に go します(?)。

 

 『ICO』のように、エリア同士の繋がりがしっかりしています。地図も機能していて分かりやすいですし、検証していませんが、恐らく破綻もないのでしょう。

道のうねり具合とか、裏道の位置関係……絶妙です。

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わたしも地図を片手に、自分の足で探索したい……。

 本当に実在しているとしか思えないくらい、作り込まれています。光の存在が一気にファンタジーにしていますが、街自体は何の変哲もない、1984年のイギリスの田舎町。そこを、町全てを、歩くことが出来るのです。くまなく、好きなように。

最高だ……。

 

勿論!特徴的な "液体のような光" 、星の瞬く夜空、雨など、街以外の描写も素敵ですよ。相変わらずクオリティが高いです。

わたしはチャプターをまたいだ後などに見られる、影がぐわぁーっと動く描写がとにかく好きです。音楽も相まって最高にクール。

 

音楽

  こちらも前作に引き続き、最高の出来です。わたくしはは前作よりも断然こちらの方が断然好きです。

購入前にもう音楽に惚れていたので、先にサントラを注文してしまったくらいです。

 

 プレイしていて気付いたのですが、歌詞がそれぞれチャプターの人物に対応しています。

 ジェレミー神父のチャプターでは宗教曲風のものが多く、歌詞も同系統です。("How long wilt thou forget me O Lord, forever?”/「主よ、あなたは永遠に私をお忘れになるのですか?」など)。

 ウェンディーのチャプターでは、鳥に関して歌っています。

("Beneath those birds and the swaying wheat"/「鳥たちと揺れる小麦のそばで」)。

 ケイトは一番分かりやすく、"I'm not afraid." というセリフの後から、追従するかのように同じ歌詞が追いかけてきます。("The end has come and I am not afraid."/「そして終末が訪れる。けれど私は恐くない」)。

 サウンドトラック付属の歌詞カードを見て思ったのですが、これらは考察にも役立ちそうですね。

 

 ソロボーカル曲も、合唱曲も、インストルメンタルも、どれもゲームとの相性が抜群で、それでいてとても広がりのある響きをみせてくれます。

わたしの語彙力では良さを伝え切れそうにないので、是非ともサウンドトラックをご購入ください!(ダイレクトマーケティング)。

 

 好きすぎて、ピアノアレンジなどを書いて遊んだりもしてしまいました……宜しければ……。

YouTube に動画も上げております。こちらから飛べます。

 

ストーリー 

 めっちゃ難解です。

誰ですか、雰囲気ゲーとか言ったのは? 雰囲気だけでこのストーリーが理解出来たのなら、わたくしにご教授ください。

 

 簡単に言えば、何の変哲もないイギリスの田舎町:ヨートンから住民が次々と姿を消していく。どうやら最近可視出来る、不可解な "光" によってそれは成されるらしい。その様を住民たちの会話やら、ケイトの残した録音などから探っていく、というもの。

 それだけで、「ここがハワードの家なんだな」とか、「ウェンディーはスティーブンの母親なんだな」とか、そういう町の実態が明らかになっていく。

 それがとても巧妙なんです。

ただの日常会話に、情報を埋め込む。だからメタでご都合主義な発言は一切なくて、全てがリアル。だけれども我々プレイヤーは、断片的ではあっても情報を掴むことができる。

小説なんかでは稀に見られる手法ですが、それをゲームでやろうというのが画期的なんです。

そして、これらの会話や町の掲示板などから、我々は謎解きをしなければなりません。

とんでもない考察ゲーです。

時間を掛けて、資料を集めながら論を展開していく予定ですので、気長にお待ち下さい。このゲームの謎を解くこと、今からワクワクしています。

 

キャラクター

 マシな人間はウェイド医師とジェレミー神父とレイチェルしかいないのか?

このゲーム、住人たちの会話ログを追っていくのですが、とにかく登場人物が人間らしい。

後半は特に、『ひぐらしく頃に』のL5か?というような状態が続きます。(電話ボックスもありますし)。

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↑ やらかしたスティーブン氏。

 フランクのチャプターの後半あたりから、「あぁ~~神父様戻ってきて~~」とか思っておりました。

このゲーム、推しとか作るゲームじゃないと思うんですが、神父様推せそうだったもの。良心が足りなすぎて。

 

 パニック状態になったら仕方ないこと、とも思うのですが、とにかくやっていることが支離滅裂だし、それにかこつけてなのかどうかは分かりませんが、子供は放置するわ不倫はするわ厭味と愚痴のオンパレードだわ……。ひどい!

ただ、それが本当に、どうしようもなく人間臭い。そこにもまた、リアリティがあるのです。

 

 プレイ当初、主人公格のアップルトン夫妻がまず好きになれなくて、チャプター2の主人公ウェンディも好きになれなくて、「このゲームの登場人物たちはもうどうしようもないな……」と思っておりました。

 特にスティーブンは、アメリカで天才物理学者:ケイトと結婚し、彼女を連れヨートンに帰郷しますが、彼女との実力差に悩み、方向性の違いに喧嘩して、昔の恋人であるリジーと浮気に走ります。

その癖、家を選ぶ回想(?)では、「彼女(ケイト)、ここを気にいるかな」なんて可愛い発言していたり、彼女への愛は完全に冷めたわけではない様子であり。

他の住民に一切相談せず、独断で "光" の対処をしようとして、多数のトラブルを引き起こし、しかもその"対処"、結果的にケイトが正しい(……のかどうかはわかりませんが、少なくとも唯一 "光" との交信に成功したようです)と分かるため、不適切であったという。

果ては「僕は恐ろしい判断ミスを犯したのかもしれない」です。どうしようもない馬鹿野郎です。

 しかし、まあ彼は彼なりに精一杯頑張ったのだろうし、どうしようもない馬鹿野郎ではあるけども、「ああ、こういう人いる……」という泥臭い人間らしさに溢れています。

そんなわけで、チャプターがスティーヴンに変わったときに猛烈な萎えを感じていたプレイヤーが、最後消失するシーンではボロ泣きしたりしているわけなのですね。そうですわたくしです。

 最後の一直線の地下トンネルは卑怯すぎではないでしょうか。演出うますぎる。

 

 キャラクターの性格がイヤというほど見えてくる日常会話もそうですが、声優陣の熱演がこれを盛り立てています。

わたしはまだ英語音声でしかプレイしていないので、他の言語でのことはわかりませんが、イギリスの話なので、やはり英語音声を推奨します

ちゃんと皆イギリス英語で喋っていて、よそ者のケイトはアメリカ英語です。そういう細かいところも拘っていて、架空の世界をグッと近くに感じますので是非とも。

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↑ 軽く検索をかけたのですが、結構有名な方が多いみたいですよ。

 

最後に

 『Everybody's Gone to the Rapture』は、私のような架空の世界を愛する人間にはたまらない作品です。二重の意味で、酔うことが出来ます(白目)。

途中で積んでしまっている人は、是非最後まで。重ねますが、「酔ったから」という理由で辞めてしまうのは非常に勿体ないです。一時の不調と、最高のエクスペリエンスを天秤にかけるのです。ただし、体調にはお気をつけて。

 

 考察ですが、かなり厄介そうなので、時間をかけて取り組みたいと思います。本ゲームに関する疑問を是非寄せて下さい。ポンコツなりになんとか返答致します。

↑ 考察記事書き進めております。全5回。

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。あなたの旅に光の導のあらんことを。