こんにちは、茅野です。
今回はラトランド・ボートンのオペラ『不滅の時間』の歌詞を訳して遊びます。原作含め、邦訳がないみたいなので、主に自分用。
辞書にもなかなか出てこないような古英語や崩した文法に結構苦戦。一晩クオリティなので多分かなりガバいです。すいません。
でも取り敢えず置いときます。どうぞ。
配役
ダルーア、影の王(バス)
精霊の声(コントラルト、ソプラノ)
エーディン、常若の国の王女(ソプラノ)
マヌス、農夫(バス・バリトン)
メイヴ、マヌスの妻(コントラルト)
老吟遊詩人(バス・バリトン)
ミディール、常若の国の王子(テノール)
ドルイドたち、吟遊詩人たち、戦士達、巫女たち、妖精たち
第1幕
第1場
―――暗く神秘的な森。背後にかすかに光る湖。
ダルーア: (暫く影を潜めて)
月に輝く薄暗い海岸と悲しい海の荒れ地の傍
アザミの密生する砂利浜に海のせせらぎ
かつて踏み荒らされた森も、今や蘇った……灰色の空の下
灰色の波が帆の中で溜め息を吐いている
項垂れた帆には灰色の引き潮が
そして灰色の風は永遠に泣き叫び
黒くなった木の陰気な葉を吹き落とす
わたしは渡り歩いた 闇から闇へと
複数の森の声:
闇から闇へと渡り歩いたと言ったとて
黒くなった木の陰気な葉を追いかけて
陰気な風が吹き、森を踏みしめ
かつて人だった灰色のカラスが
灰色の荒れ地だった
海岸沿いの苔むした岩礁から
多くの人を集めたとしても
貴君は1ルードも進んでいやしないのだ(訳注: 長さの単位。約5メートル~7.3メートル。地方による。)
ダルーア:
世界の終わりに、わたしは来た
複数の声:
貴君は来た、しかし最初の一歩に過ぎぬ
世界の終わりにはあと数え切れないほどのリーグがあるのだ(訳注: 距離の単位。約4.8km)
貴君は惑わされているのだ
深淵へと繋がる坂道の端に立つものだから
ダルーア:
汝らはわたしが誰であるのか知らぬのだろう、陰気なる古の声よ
もしわたしが長い道を 狭い円の中を歩き続け それが
一時間でも 何日だとても 長いとは考えぬ
わたしは不死の一族の最初でも最後でもない
世界の長い道のりは短く
短い道のりは想像を絶する時間を要すものだ
複数の声:
最初も最後も 終わりもないのだ
ダルーア:
わたしは夢と幻に導かれてここへ来た
しかしそれは何故なのか、何の為なのかはわからぬ
それは戦車の車輪の音が響き
揺れ動く世界が星の道を怒鳴りつけているところ
わたしの知る畏怖なる声は、わたしと一つになった
上向きの穀物が風と一つになるように
複数の声:
貴君の上には 彷徨う星の光
おお、彷徨う星の息子よ、我らは今、貴君を知ろう
ダルーア:
魔物たちは森に棲む 大きな黒い鳥のように
汝、我を知る者に幸あれ!
声: (突然近くで)
影の息子に幸あれ!
複数の声:
強健のきょうだい、不死の神々に幸あれ
忘れられた丘の窪地で眠りについた神々や
家を持たぬ 悲しみに暮れ 困惑した神々は
彷徨う灰色の霧の如く風に乗り
嫉妬する男たちの冷たく、好奇心の強い眼差しの
鈍い不親切な光の中をゆっくり通り過ぎてゆく
ダルーア:
わたしは年老いた、そやつらよりも更に古い神だ
わたしは影の息子、最古の神である
情熱的で恐ろしい夢を見たのは誰だ
我らは火と光、水と風を呼ぶ
空気、闇、死、変化と腐敗、誕生を
そして、無限のそれら全てを
声:
全ての薄明かりの神々のきょうだい、血族よ
生、忘却、長きに渡る死 淡い希望の悲しい影
忘れ去られた夢、人間の狂気
神々から追放され、愚か者と呼ばれ、しかし
汝の運命的な接触は心を破壊し
あるいは心に沈黙の霜を降らせるゆえ
不死の目にも恐れられている ダルーア 万歳!
複数の声:
ダルーア 万歳! ……ダルーア 万歳! 万歳! ……万歳! ……万歳!
(嘲笑の声が木の上から聞こえてくる)
ダルーア:
笑うな、汝、不可視の世界の追放者たちよ、笑ってはならぬ
ルーとオェングスも笑ってはならぬ(訳注: ルーはケルト神話の太陽神、光の神。オェングルはケルト神話の愛と若さ、美を司る神)
如何なる神々も滅びゆく星々の上に安住してはおらぬ
彼らは笑わぬ 如何なる天国に於いても誰も笑わぬ
わたしはが朝の影のように神聖な光の中に呼び寄せられたとき
彼らの誇り高い不滅の目は 薄暗く曇っている
我、ダルーアは、未知の力の葉 一葉
複数の声:
我らもまた同じ、未だ見ぬ力の葉 一葉
ダルーア:
影あるものの声がする!
森の中を彷徨う者の声が聞こえる
エーディン: (迷子になったように、困惑の表情を浮かべて)
美しい月明かりに木々
けれどわたくしの故郷ほどではない
なぜわたくしは故郷を離れたのかしら あの美しい国から
死の影が漂うだけのようにしか見えない場所へ?
ああ、愛の顔よ 夢と憧れの顔よ
わたくしがここにいるのは哀しみのせい
わたくしは常若の国に戻ります
青白い月の下 笑い声をあげながら
宴を続けるシーの槍を再び見るのよ(訳注: 妖精のこと)
(エーディンは振り返ってゆっくりと歩き出す。森の中から奇妙な叫び声が上がり、彼女は立ち止まる。驚いて振り返り、)
シーを知らない者は誰も涙を零さない
ダルーア: (微かにばかにしたように宮廷風のお辞儀をしながら)
万歳、王の娘よ、夢の中の星よ
若者の国を勝ち取った命と魂はどれなのだ
エーディン:
わたくし、あなたを存じ上げないわ
ダルーア:
わたしは夢と幻に導かれここまで来たのだ
エーディン:
夢と幻に導かれて わたくしも来たのです
けれど、どこから来たのか、どんな常軌を逸した方法で
薄暗い森を抜けて、この灰色の孤独な湖へ来たのか
何の目的で来たのかはわからないのです
ダルーア: (影の手で彼女に軽く触れながら)
お主は、その平和な海岸と恐ろしいほど静まった広大な湾
そして道なき暗闇の間で
昼も夜も穏やかに織り成す
繊細な微笑みの土地を忘れてしまったのか
エーディン:
全て忘れてしまいましたわ
何も思い出せませんの いいえ、これではなく……
今でも口ずさむこの歌は 何て甘美な響きなのでしょう
どのような切望の痛みがあったのでしょう
わたくしはこれ以上のことは知りませんの
わたくしは波の上の白きエーディン
そこは不滅のシーが夏の空気に漂う花の蜜のの香ように
人生を満たす場所
太陽の炎、夜明けの雨、夕露なの
ダルーア:
我らは羊だ
未知の羊飼いに導かれた羊だ
我らの夢により、神々のように
人間の小さな苦悩から遠く離れている
エーディン:
なればこそ どうしてこのような出逢いがあったのかしら
月光の下、このように鬱蒼とした森で
ダルーア:
今ぞ知るさ
人の王よ
不滅の時間に夢中になっていた彼は歓びよりも偉大な歓びを求めた
古い緑の大地が与えることができるならば、その美しさを
彼は夢を知っていた
苦い夢は蜜よりも甘いものだったがゆえ
彼は影の中にある開かれた道を探し求めた
彼は自分の愛と 最も美しい乙女を結びつけるために
シーを探し求め、見つけ、そして呼びかけたのだ
彼は人間の歓びを超えた歓びを知り
そして、誰にも見つけられない彼女の虹の門、究極の美しさに
静かに立ち尽くし 嘆き悲しむのだ
エーディン:
こんなこと 起こりうるのかしら
ダルーア:
否 彼は終わりを知らぬのだ
その門への道は一つしかない その鍵は愛ではない
あらゆる欲望に燃えてはいるが 愛は平和だ
(作品の最後にエオヒドが行う象徴的なジェスチャーをする)
エーディン:
その詩の中の、王様というのはどなたなの?
ダルーア:
夢に導かれ 夢と幻に導かれて 我らはここにいる
彼の足音が近づいている お主が愛と崇拝の夢の星を勝ち取ったとき
そして人間の粘土を取り、妖精の王の愛の甘い囁きを忘れてしまったとき
今のように、ミディールの名前を聞いたとて動じなくなり
運命の道しるべは、盲目の探索者の運命を
愚かな風で吹き飛ばすだろう
エーディン:
けれど、彼は愛していないのでしょう
ダルーア:
そうだ、しかし彼は愛するだろう わたしは触れよう
人が「闇のもの」「愚かな妖精」呼び恐れるアマダン・ドゥーとして触れよう(訳注: 妖精の一。「狂気と忘却の運び手」とされる悪霊)
奴は自ら望んで狂気に陥り それこそを知恵と思うだろう
わたしは彼の思考となり 夢のなかの夢、
彼の思考の白い蛾が寄り、身を焦がす炎となろう
(角笛の音が聞こえる)
さあ、行くのだ
(手の影で彼女に軽く触れ 彼女の耳元で囁く)
わたしは語るべきことをすべて語り、お主に混乱と夢とを与えた
だが夢とは、甘い粘土の果実なのだ
エーディン:
わたくしは常若の国に戻ります
青白い月の下 笑い声をあげながら
宴を続けるシーの槍を再び見るのよ
(角笛の音が近づいてくる。ダルーアは影の中で待ち構えている。大王エオヒドの登場)
エオヒド:
旦那様、ああ、よかった
こんなところでお目にかかれようとは
ダルーア:
歓迎しましょう、王よ
エオヒド:
このような薄暗い、人里離れた、忘れ去られた森の中
夢と幻に導かれて来た場所で
王を知っているのはどちら様でしょう
ダルーア:
おお、王よ、夢に導かれし者は惑わされますぞ
エオヒド:
あなたはドルイドでもなければ 騎士でもない
何者なのですか
ダルーア:
わたしはダルーアと呼ばれていましてね
エオヒド:
そのような名前を聞いたことはありませんが
夢の中で、影のような羽を振り
"わたしはダルーアだ "と微笑んで言った人を知っています
そのダルーアさんでしょうか
ダルーア: (エオヒドに背を向けて)
わたしがこの孤独な森に来たのは
夢の泉を飲むためだ
影の美の泉の水を
エオヒド:
遂に!
美の泉 全ての夢の噴水!
これでわたしは長く願い続けた望みを叶えたのだ!
武装した男に踏みにじられ
槍を突き立てられているかのような日々だった
わたしは疲れ果ててしまった
(ダルーアは彼の後ろへ周り、大きな影のように彼の上に手を振りかざす)
星を、風を、そして奇妙な夢を護ることに
ダルーア: (エオヒドに軽く触れて)
見たまえ 王よ
エオヒド:
泉だ 泳ぐ見事な魚の影が見える
揺れる波には緋色の木の実が漂い
その薄暗い深みには 最も穏やかで偉大な
悲しげな目をした貴族が見える
ダルーア:
何をすべきか尋ねてみよ
エオヒド:
汝、隠れた神よ、知恵の言葉を!
(ダルーア、退場)
声:
戻れ 流離いの王よ エオヒド・アイレムよ
エオヒド:
そういうわけには参らない
後進の道はない もしわたしが本当に王であるなら
わたしは 王らしく 影を切り裂き
道を切り開こう
声:
戻るのだ!
エオヒド:
否 太陽と月に誓いて
足の向きを変えることはない
声:
戻れ 戻るのだ!
エオヒド:
わたしのような者に それはできない
(躊躇いがちに、ダルーアに)
にも関わらず…… わたしは昔の夢に振り回され、波に翻弄されている
それでもわたしは行こう 人々がわたしを王と呼んでくれた丘の上に
静かな月光の照らす場所に戻ろう
(木々の間からダルーアの笑い声が響く)
ダルーア:
ついてこい 来るのだ
夢と影の王よ!
エオヒド:
ついていこう
あなたの呼び声が聞こえる ダルーア、ダルーア!
丘の上で 池の縁で タゲリの啼く場所で
あなたの声を聞いたのだ ダルーア、ダルーア!
何と呼んだのだ ダルーア、ダルーア!
雨が降るとき
霧が這うとき
そしてダイシャクシギが啼くときに
ダルーア……ダルーア……ダルーア!
最後に
お終いです。続きます。
通読ありがとうございました。
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