世界観警察

架空の世界を護るために

新国立劇場『領事』 - レビュー

 こんにちは、茅野です。

昨日から少し涼しくなって幸いです。このままだと、「太陽が眩しすぎて人を殺し」かねないので……カミュです)

 

 さて、少し経ってしまいましたが、新国立劇場でメノッティ作曲のオペラ『領事』を鑑賞して参りました。7月18日の回です。

 

 新国立劇場には、高校生の頃から通っておりますが、実は中劇場へ伺うのは初めて。初めて中に入りました。

大劇場(オペラパレス)に慣れているせいか、やはりどうしても手狭に感じますが、オーケストラピットも完備で、良いホールだなと感じました。

 

 今回は、『領事』公演について、備忘の為にも、ごく簡単に纏めておこうと思います。

 それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します。

 

 

キャスト

マグダ・ソレル:大竹 悠生

秘書:大城 みなみ

ジョン・ソレル:佐藤 克彦

母親:前島 眞奈美

コフナー氏:松中 哲平

異国の女:冨永 春菜

魔術師(ニカ・マガドフ):水野 優

アンナ・ゴメス:野口 真瑚

ヴェラ・ボロネル :杉山 沙織

アッサン:長冨 将士

秘密警察官:松浦 宗梧

コードの声:河田 まりか

二人の私服刑事:松本 美音、竹村 浩翔

指揮:星出 豊

ピアノ:岩渕 慶子、星 和代

演出:久恒 秀典

 

雑感

 前日に、電車の中で「そういえば!」と思って席を取り、突発的に伺いました。従って、事前知識は殆どない状態での鑑賞と相成りました。

 

 今回、惹かれたのは、新国のオペラ研修所のレベルが異様に高いことは存じ上げていたことに加え、ストーリーに心惹かれたからです。

 反政府活動家のジョン・ソレルは、ヨーロッパのとある都市の一隅に妻マグダと母、幼子とともにひっそりと暮らしている。

前夜の反政府集会に秘密警察が踏み込み、手負いとなったジョンは早朝にアパートに逃げ帰り、マグダと母にかくまわれる。 追手の秘密警察にマグダと母はしらを切り通し、彼らを追い返した後に屋根裏から出てきたジョンは、今夜中に国境を越えて逃げる決意を二人に伝える。

心配するマグダには、ある国の領事と面会して家族の保護を求めるようにと指示をする。 また、もし町の子供に部屋の窓ガラスを割られたら、それを合図に活動家仲間でガラス職人のアッサンを修理に呼ぶようにと言い残し、家を去る。

数時間後、マグダが領事館に行ってみると、待合室には様々な事情を抱えた人々がビザの申請に訪れているが、誰一人ビザを受け取れない様子。

マグダの番となり、彼女は秘書に事情を話して領事に会わせてほしいと頼むが、けんもほろろにあしらわれる。待合室にはむなしい空気が漂う。 その後マグダは足しげく領事館に通うが、何度行っても埒が明かないまま1か月が過ぎた。(後略)

 この時点で最高じゃないですか……。

 

 オペラで、革命家と政府の戦いの話といえば、『トスカ』或いは、その原作の戯曲『ラ・トスカ』。オペラでは殆ど端役扱いですが、サルドゥによる戯曲では、アンジェロッティについてもかなり掘り下げられており、政治が主軸にある物語であることを痛感します。

『トスカ』は音楽は勿論、ストーリーも大好きなので、類似点があると嬉しいですね。

 

  政治に纏わる物語に関心があるのは、個人的に国際政治を研究していたからですが、一時期は冷戦期のハンガリー外交について学んでいました。

所謂「ハンガリー動乱」では、首相ナジ・イムレがユーゴスラヴィア大使館に逃れるものの、大使館を出てすぐにソ連軍に拘束され、その後処刑されてしまいます。

↑ 詳しくはこの辺りに。

 『領事』では具体的にどの国をモデルにしているのかは言及されませんが、個人的にはこの辺りのことを想起しておりました。

 

 普段はあまり聴かない現代物ですが、音楽はかなり耳馴染みがよくて安心しました。旋律的も耳に残るものが多いです。

また、英語も平易で、ディクションもしっかりしているので、非常に聞き取りやすいです。

 

 案の定と申しますか、出演者のレベルは異様に高く、流石の新国立劇場オペラ研修所御大です。特に、主要人物であるマグダ・ソレル、秘書は圧巻。

母も素晴らしかった。老女系の役の方に安定感があると舞台全体が引き締まるんですよね。『オネーギン』の乳母フィリピエヴナとか……。

勿論、特に主役陣が目立ちましたが、皆よかった……、普通に大劇場の公演の端役なんかより全然よいのではないかと思います。勿論、箱が違えば響きも変わるのでしょうが……。

 人材という意味でいえば、日本のオペラ界は明るいなあと思うのですが、コロナ禍で上演自体が難しかったり、日本人キャストがなかなか活躍しづらい現上演体制は懸念ですよね。

 

 演出も簡素ながらに必要充分でよかったです。歌手陣に演技力があるので、中劇場特有の簡素さでも全然無問題。

前日に、付け焼き刃ながら、動画を軽く垂れ流して予習していたのですが、リブレットに指定があるのか、セットはともかく、動きは殆ど同じでしたね。

↑ 復習にまた垂れ流しております。こちらの映像も良い。

公演の演奏はピアノでしたが、こうやって聴き比べると、ほんとうに忠実なんだなあとか当たり前なことを思ったり。

 

 しっかし、領事の正体怖かったなぁ……。暗く重たい演目で、終始緊張感に包まれております。それでも、途中で諧謔的な部分が挿入されたりと、飽きさせません。

 最期に関しても、撃ったり、刺したりする方が派手で舞台映えはするんでしょうけど、ガスというのが斬新で、演出上も特に必要な小道具もありませんし、幻覚症状の描写などもあり、興味深いなと思って観ておりました。こんなに一石二鳥なのに、他に観たことがない不思議。舞台上ではあんなにも人が死ぬのに……。

 

 現実世界には国境線(Horizon)が存在するが、生死の境はない、という結末もめちゃくちゃ怖いですね。色々解釈の仕方はあるかと思いますが……。

 総じて、正しく20世紀オペラ! という内容で、非常に楽しめました。暗いことには間違いないですが……。

メノッティの作品にはご縁がなかったので、今後は注視してみたいと思います。

 

最後に

 通読ありがとうございました。2500字ほどです。

 

 研修所の過去の公演では、小劇場での『イオランタ』を拝見しました。チャイコフスキーのオペラに関心があるもので……。同作品は先シーズン大劇場でも上演されましたが、研修所の公演も素晴らしかったことを覚えています。また伺いたいですね。

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。また別記事でお目に掛かれれば幸いです。