世界観警察

架空の世界を護るために

殿下の髪を入手し損ねた話

 おはようございます、茅野です。

精神を安定させるのに最も有効なのは、言語化をすることだと信じている者です。

 

 今回は全く書く予定のなかった単発記事です。大変感情が揺さぶられたので、言語化をしておきたいのです。

こちらは、深夜3時から早朝6時に掛けて、完全なる深夜テンションで一気に書き上げられたものです。お目汚しを大変失礼致します。先にお詫びしておこうと思います。済みません。

それでも、お付き合いを賜えたら幸いで御座います。

 

 

 本日の深夜、上手く寝付けなかったので、電気を消した後、布団の中でスマホでリサーチをしていました(※よい子は決して真似をしませぬように!)。

勿論、最大の趣味であるロシア帝国皇太子ニコライ・アレクサンドロヴィチ殿下のことです。

↑ 我らが殿下のご紹介。実在の人物とは思われない「完成の極致」です。

↑ 殿下関連記事一覧。いつの間にかいっぱい書いていました。

 

 殿下の情報は少ないので、基本的にはいつもロシア語でリサーチをしています。稀に、今や覇権言語となった英語でリサーチをすることも。

彼はフランスで亡くなっていることもあり、こちらでも結構情報が出て来ることがあるので、今回はフランス語でリサーチをしていました

 

 フランス語でリサーチをするのは久しぶりだったので、今年に入ってから更新された記事などがあったり、やはり定期的に色々な言語でリサーチをしなければならないな、と感じていた矢先でした。そのページに辿り着いたのは……。

 

 

 

殿下の髪がオークションに掛けられている。

 

 

 

…………。

……………………!?

目を疑いました。ガバッと飛び起きた。

そして、勿論既に入浴は済んでいたのに、変な汗が滝のように流れ落ち、パジャマを濡らしてゆくのを感じました。

 

 髪とは、あの髪です。頭髪です。それは勿論、殿下にだって生えています。そんなことはわかっています。かなり強いウェーブのある、美しい茶髪です。

 

 頭髪が残っている。そのことにも然程の驚きはありません。19世紀のヨーロッパでは、愛する人の髪をロケットに入れて持ち運ぶ文化があり、かなりの毛量の髪が纏まって残っていることは珍しくありません。19世紀に関心がある方なら、ご贔屓にされている方の髪の房を見たことがある方だっていらっしゃるでしょう。

 

 問題は最後です。入手可能

 

待って!!!!! そんなの聞いてない!!!!!!

 

 しかも、なんとそれは、2022年12月のことだった!! 目眩しそう。した。ほんとうはもう既に爆睡していて、夢見てんのかと思った。パニック。そんなことある??

わたくしは普段から殿下のリサーチをしている限界オタクなので、知らない情報は最新情報であることが多いのです。

 

 しかしここで、残念なお知らせ。そのオークションの開催は、……。

 

 

 

 

 

2022年12月1日のことだったのである…………。

 

 

Ах! Счастье было так возможно, Так близко! Так близко!

(ああ! 幸福は手を伸ばせば届いたのに、こんなにも近くに! こんなにも近くに!)

 

 泣いた。『オネーギン』に登場するこの言葉を心の底から叫んだのは、この作品を7年近くずっと愛好しているのに、割とマジで初めてのことである。

普段、ブログで記事を書くときは敬語で書くのに、そんな体裁作っていられないくらいに動揺した。している。後々この記事見返して後悔するんだろうな、と思いながら指が止まらない。今、涙の代わりに言葉を零そう。

 

 

 …………。

驚愕、動揺、興奮、悔しさなど、色々な感情に翻弄されながら、わたしはリサーチを続行しました。

 

 曰く、今回のオークションでは、デンマーク王室から多数の品が出品

ティアラやブレスレットなど、歴代のデンマーク王家のジュエリーが大量に出品されたそうです。

しかし、その中で注目を集めたのが、殿下の髪(オークションの紹介記事にほんとうにそう書いてあったもん)。

証拠。フランス語ですけど、 Nixa とか Nicolas Alexandrovitch って書いてあるのが見えるかと思います。最初の文を訳すと、「一つのメダイヨン(殿下の髪のこと)が我々の注目を集めた」、です。

 

 

……何故!?! 需要があるの!? 彼の髪に!? 

いえ、殿下の素晴らしさはよく存じ上げておりますよ、なんなら現代日本で一番知ってると豪語したって構わないし、正直たぶん実際そう。生前は、近付いてきた人を老若男女誰彼構わず全員恋に落とした、恐ろしい人であったことだって勿論存じ上げております。普段その解説を書いているくらいだ。

 しかし、現代で彼の髪が欲しいなんて変態同担が、わたしの他にもいるとはな! しかも、注目を集めるほど……!?

わからない……わたしは……わたしは何もわからない……現代にもそんなに同担いるの? え、怖……。ちょっと同担だよって人連絡下さいよ……。日本語か英語かフランス語かロシア語なら頑張って対応しますので……。すみませんねデンマーク語は全く知らない雑魚で……。殿下の話したい……、しよ…………??

 

 

 確かに、皇族の遺品がオークションに出されることは結構あるのです。

殿下関連ですと、わたくしは、彼のダグマール王女への手紙がオークションに出されているのを見たことがあります。どうしよう、ほんとに手が滑って落札しそう。誰かわたしを止めてくれ!!

 

いやしかし、髪て。そんな、髪ですよ、髪。身体の一部じゃん。

 

 

 ……わたくしは、ご覧の通り、オタクでありますし、どちらかというとキモオタであります。中学生くらいの頃から一丁前にオタクしてますから、オタク歴も10年くらいあります。

しかし、基本的には所謂「キャラクター萌え」とか、「アイドル推し」のような活動はしてきませんでした。

最初はゲームの、次いで文学の、次第に歴史政治に関心を持ち始め、最近は19世紀に関しての、考察を書くことを最大の楽しみとするオタクです。

従って、「グッズ課金」という行為を殆どしたことがないのです。

 

 しかし、殿下は別です、わたしは彼に狂わされています。2022年12月現在(嗚呼、今この数字を持ち出したくない!)、殿下関連の記事を40以上書いていることからそれはもう明白です。一記事2万字超えているものもあります。1万字超えは最早普通、デフォルト、慣れた。

 

 わたしは、彼の実在を信じたいのですこの地球上に存在していたという証が欲しいのです。亡くなって157年経っていても、彼が生きていたのは、わたし達が住まっているこの世界であったという確証が欲しいのです。

 

 殿下は、余りにも非凡な人であったために、いつも解説などを書いている身ながら、「ほんとうにこんな人が実在していたのか?」と、懐疑的になる瞬間があります。

 だからこそ、それが厳密な意味で証拠になるわけではない、と頭ではわかっていても、直筆のお手紙であるとか、このような身体の一部を見ると、なんと言うか、安心するのです。

 

 わたしがこのような優秀な人々に憧れ、愛すのは、(殿下の場合は最初の「考える」の記事にも書いているように、特殊なシミュレーションをしていた関係で特別の理由もあるのだけれど)彼らが属していた世界に自分も属すことができることを、誇りに感じるからです。

わたしにとっては、彼らの実在そのものが、自己肯定感を高める一助になるのです。

 

 

 いやでもまあ、そんなものが手元にあっても、恐れ多くてどうにもできないですよね、という気持ちは勿論あります。

どうするんでしょうね、DNA 検査するとか?(?)。そういえば、殿下の時代には未だ血液型という概念が発見されておらず、殿下の血液型って判明していないので、ここからわかったりしないかな。ああ、めちゃくちゃ浪漫がある…………。

ていうか、髪のケア剤教えて欲しい。シャンプー類の時代考証なんかもしたいなあ。殿下ってお写真見たことがある方は同じこと感じると思うんですけど、髪の毛ウッネウネじゃないですか、あれどうやって整髪しているのかめちゃくちゃ気になりません? 絶対やらないだろうけど、それはそれとして髪の毛伸ばしたらあの髪どうなるのかめっちゃ気になる~。ていうか美少年~青年だから髪伸ばすの絶対似合うと思う。(ここまで一息)。

 

 

 …………オークションの際、落札予想値は10000デンマーククローネ、即ち約20万円程度でした。髪の毛の相場とか知らないんで(知るわけないので)、高いのか安いのかはわかりません。どう思います?

 

 

 しかし、実際に落札された値段は、22000デンマーククローネ、即ち約43万円です。

 

 

倍やんけ!!! マジで注目の品じゃん!

え、ていうか待って、わたしそれくらいなら全然出すけど。出します。なんなら貯金全額下ろしてくるから待って……。生々しい数字出して恐縮ですけど、マジで「殿下の髪」とかいう一世一代のクソヤバオークションするなら70万くらいまでなら即決で出せる。オタクは課金をしたい生き物なんだよ。推しに散財する以外にいつ金使うんだよ。今だろ絶対。

ちなみに、同時に出品されていたデンマーク王家の方々は、約9万円でした。ここからも殿下の人気が伺えてしまい、わたしは……わたしは…………。

 

 ほんとうに手が届きそうな値段だったのが、殊更悔しくて悔しくて……。もう本当に Ах! Счастье было так возможно, Так близко! Так близко! だよ(二回目)。

300万円くらいだったら流石に諦めもついたものを……。43万てこれまた微妙な……。

5000兆円欲しい!! 5000兆円あれば買い戻せる気がする。するでしょ、流石に。でもわたしなら手放さないから、相手が同担だったら無理かもしれない。

せめて博物館の手に渡っていれば救われるのですが……。

 

 

 いや、本気で、オークション開催前に気付いていたら、間違いなく競りに参加していたと思います。 GET したよ、ってご報告ができなくてすみませんね。

神は、わたくしのお財布を案じて下さったようです。「茅野よ、金を大事にせよ」と仰せです。

しかし我らが神よ、髪ですよ。あなただって髪に力を分け与えたの、お忘れなんですか。わたしはサムソンの髪よりも殿下の髪が欲しいの、わかる?

 

 

 さて、では、最後に、そのオークションに掛けられた品の実物のお写真をお目に掛けようかと……。心の準備は宜しいですか?(サムネで見ちゃってる方はすみません)。

 

 髪は、ロケット(フランス語でメダイヨン)に入っています。宇宙に行く乗り物じゃなくて、ペンダントトップみたいなやつですね。

18K ゴールド製、大きさは 3.5 cm だそうです。恐らくはフランス製とのこと。

 

 

 そして、こちらを開きますと……。

↑ ヤバ!!!!!(語彙力の死)。

 茶は茶でも、結構濃いめの茶髪ですね。我々が見られるのは、肖像画と白黒写真だけなので、それこそ実際の髪の色とか今までわからなかったわけじゃないですか。光に透かすとどんな色になるのか教えて、新しい持ち主の方!

↑ 追記(12/23):別アングルのお写真を入手しました! やはり光に当てると色明るめですね……。

 大きさ 3.5 cm を拡大しているから、という側面はあると思いますが、結構髪一本一本が太め? 芯が強い髪質だったのでしょうか。まあ、髪を染めたりパーマを掛けたり、みたいなことはしていないはずですし……。Literally 地毛。

 しっかし、結構な量入ってません? ガッツリ一房あるでしょ。何本あるの? 

 

 そして左側。拙い字で ≪ Nixa 24 April 1865 ≫ と彫られています。1865年4月24日は、殿下が亡くなった日(グレゴリオ暦です。

つまり、この髪は、殿下の死後に採取されたものであることがわかります。

…………遺髪!! 一瞬「『羅生門』か?」とか思ってスミマセン。この髪を抜いてな、この髪を抜いてな以下略

 

 恐ろしいことに、この左側の字を彫ったのは、彼の婚約者であるダグマール王女である可能性が高いとのことです。え、涙腺に致命の一撃入れるの辞めて頂いても? ただでさえわたくしは今深夜テンションだし情緒がぐちゃぐちゃなんですよ。ヤケ酒ヴォトカしますよコラ。

 

 であれば、この髪を採取したのも姫である可能性が高いですよね。なんということだ。

確かに、姫は殿下の最期を看取っています。なんでも、結構細かい史料まで読んでいくと、「息を引き取る瞬間に唇を重ねた」とか書いてあったりします。逆『白雪姫』……色々な意味で……。ロマン主義悲恋小説が裸足で泣いて逃げ出しますよこんなの。

これで現実らしいですよ……嘘みたいでしょ……わたしが遺物が欲しくなる気持ちもご理解頂けるってものでしょ……。

 

 このメダイヨンは、勿論姫が持っていたものでしょうが、後に彼女の母ルイーズ王妃が所持するようになったようです。

なんでも、ルイーズ王妃も義理の息子になるはずであった殿下のことが大層お気に召していて、彼の死を悼み、大切にこのメダイヨンを保管して下さっていた、とのことです。

万人を恋に落とす殿下なので、そうであろうとは思いつつも、ルイーズ王妃が彼をどう思っていたのかはよく存じ上げなかったので、情報助かります。

殿下とダグマール王女は、双方魅力的な人物であった為に、実力で恋愛結婚にしてしまいましたが(そんなことある?)、元々はやはり政略結婚でした。

殿下自身がそれを望んだという説が有力なのですが、それもあって、殿下が亡くなった翌年の1866年、ダグマール王女は殿下の弟のアレクサンドル大公と結婚します。

このようなことから、ルイーズ王妃は政略結婚を重視しているのかと思っていました。ちゃんと(?)殿下のこと愛して下さっていたんですね。嬉しい……。デンマーク語が読めれば、彼女のこともよくわかるのかなあ……。

 

 ルイーズ王妃亡き後も、デンマーク王家で保管されていましたが、流石に没後157年と一世紀半以上経っていることもあって、民間にオークションで出品された、ということのようです。

ただの極東の一介の雑魚オタクである自分にもチャンスがあったのに、と思うと鬼のように悔しいなこれ。くそぉ……。

 

 今度からは、今回の反省を生かし、もっと頻繁に、色々な言語で、リサーチをしてゆきたいと思います。

思えば、「ウーヴァレン」の時も、ロシア語でしかリサーチをしていなかったことが裏目に出たのでした。

↑ 殿下の船の帆船模型!? こちらも衝撃的な事件でした。

 正直なところ、「ウーヴァレン」の時は日本語で検索を掛けなかったからこそ、制作者の方とやりとりをする機会を得たという側面があるので、然程のデメリットは感じていませんでした。

しかし、今回のようなケースでは、取り返しが付きません。没後157年にして現行ジャンル。殿下……心底恐ろしい方……!!

 

P. S. 

翌日、宣言通りデンマーク語に入門しました。

もう二度と語学ができない程度のことでは負けない。

 

最後に

 通読ありがとうございました……。6500字ですよ、こんなので。お付き合い頂いた方に幸福が訪れますように。心底そう思います。

 

 こんな記事を書くことになるとは夢にも思いませんでした。お陰様で完全に貫徹を……。汗が蒸発して、めちゃくちゃ寒いです。辛……。

 

 ついでなので、今進めている殿下関連の連載の宣伝をしておきます。

↑ 第一回はこちらから読めます。

 現在、次回の第七回を準備中ですが、負けず嫌いで完璧主義者で、あまり人を頼らず、人前では華麗に「完成の極致」を演じ続けるあの殿下が、とうとう公爵に対し「苦しい」だとか「辛い」だとか、弱音を吐くようになります。わたくしとしても書いていて驚いたというか、謎に感動してしまいました。切ないですけどね。

こちらも近々上げられればよいなと思っておりますので、暫しお待ち下さいませ。

 

 深夜テンションのキモオタのお付き合いをさせてしまって申し訳ありませんでした。今回はここでお開きとし、次の記事では精神を立て直そうと思います。ありがとうございました!!

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