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ZEN MASTER 6 - 『ABZÛ』考察

 こんばんは、茅野です。

 いよいよ今回が最終回『ABZU』に登場する海洋生物の生息域から、モデルとなった海域を推定する「ZEN MASTER」シリーズ、第六回です! 今回は、Last Chapter こと Chapter 7、及びこれまでの纏めをお送りします。

 

↑ 「ZEN MASTER」シリーズ第一弾はこちらから。

 それでは早速、参りましょう! お付き合いの程宜しくお願い致します。

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ホホジロザメ

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 英名Great white shark。我らがヒロイン(?)です! これまで彼(彼女)を追いかけるように旅をしていましたが、Chapter 7 にて漸く共に泳ぐことができます。胸熱。

 

 何故『ABZU』ではホホジロザメがメイン・キャラクターに据えられているのでしょうか。「自然との関わり」「人との関わり」の二つの視点から考えてみましょう。

 まず、自然との関わりですが、別の考察シリーズでも指摘したように、ホホジロザメは著しく腐敗が遅く、海を汚染する危険の高いクジラの死骸などを食すことがあります。このことから、食物連鎖の頂点のみならず、海の環境保全に尽力している種、と捉えることができます。又、ホホジロザメは回遊性の種で、世界中幅広い地域に移動できる、という点も、『ABZU』という広い海を巡る物語に打って付けだったのかもしれません。ちなみに、ホホジロザメは淡水域に生息できないので、淡水域を擁す Chapter 6 の間は死んでいる、というチャプター構成も優れています(チャプター構成については別記事で紆余曲折を翻訳しています)。

 次に、人との関わりですが、ホホジロザメは映画『JAWS』に代表されるように、「人を襲う種」というような認知が広まっています。それは必ずしも正しくはないのですが(人を襲う事故があったことは事実だが、人を見れば必ず襲う種というわけではない)、世間的に「ノコギリ状の歯が恐ろしく、簡単に手足を噛み千切る凶暴なサメ」というイメージがあることもまた事実でしょう。更に、ホホジロザメは飼育が難しい種であり、『ABZU』発売当時までで、水族館での長期飼育に成功した例はありません(日本も含め、飼育に挑戦した水族館はあるが、数日で死んでしまう)。従って、ホホジロザメには、人との共存が著しく難しい種、というイメージがあると考えることができます。

 これらのことが、自然界、アブズを擁す海の世界を代表する種として、ホホジロザメが選ばれた理由になるのではないかとおもいます。

 

ホッキョクグマ

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 英名Polar bear。名の通り、北極に生息する熊です。「シロクマ」として知られていますが、毛は白いわけではなく透明で、氷の大地を反射して白く見えているだけなのだそう。

 

アデリーペンギン

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 英名Adélie penguin。こちらの画像で一躍有名になったペンギンです。目の周りが白いのが特徴。

 

イッカク

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 英名Narwhal。オスにのみある一本の「角」が特徴。ちなみにこれは厳密には角ではなく歯の一種で、角というより牙なんだそうな。

 

分布図

  Chapter 7 には「禅」を組む像がないため、捕まって泳いで検証していくしかありません。新規に登場した海洋生物は以上で、他にもシロナガスクジラなどが登場しています。

 『ABZU』前半は温暖な熱帯の海を舞台にしていましたが、Chapter 7 後半の海は寒冷な海を舞台としています。但し、名の通り北極に棲まうホッキョクグマに対し、南極にしか生息しないアデリーペンギンが同じ大陸を闊歩するなど、現実では起こり得ない光景が展開されています。

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まとめ

 それでは、「ZEN MASTER」シリーズの総括に入ります。

まずは緑美しき暗礁、 Chapter 1, 1st Area から。

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概ね北米近海を基とした、多様性溢れる温暖な海が舞台となっていると考えられます。

 次いで神殿エリア。

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分布が大きく離れましたが、 1st Area に近い中米を基としつつ、次チャプターへ向けた布石か、インド・太平洋に生息する魚が増加していました。

 

 続いてChapter 2, 1st Area。

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Forbidden Pool から解放するコガシラネズミイルカの分布が非常に狭いことから完全な特定の叶わないこのエリア。概ねインド・太平洋の、浅く穏やかで温かい海に生息する種が多いです。

 神殿エリアは如何でしょうか。

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オルカとブルータンの生息域の重なりから、フロリダ近海をモデルにしているのではないか、と考えることができます。尚、フロリダ湾は人間による砂糖の栽培の影響で、水の流れが大きく変わり、海藻の死滅などを筆頭に数々の環境問題が引き起こされた地域でもあります。正にアブズの力が必要とされた区域なのです。

 三角体エリアを見て参りましょう。

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マカジキとウバザメの分布の重なりから、南アフリカ近海に絞り込むことができます。

又、北米から南アフリカへの旅と仮定するならば、 Chapter 2 で乗る海流のモデルは湾流とブラジル海流であると推定できます。

 

 Chapter 3, 1st Areaを見ていきます。

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かなり分布が割れたこのエリア。従って具体的なモデルまでは特定不可能ですが、温暖で、水深60m程度の海が舞台と考えられます。

 次いで神殿エリア。

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オセアニア近海と目される神殿エリア。ハワイ周辺の可能性もあります。

 三角体は如何でしょうか。

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大きく割れた三角体エリア。深海に繋がる・遺跡内という特徴からも、他エリアとは一線を画しており、浅い海を好む種から深海に棲む種、生息域もバラバラと、解釈が難しいエリアとなっています。

 

 続きましてChapter 4, 1st Area です。

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各分布図を重ね合わせると、沖縄近海で交差するこのエリア。深海、水深540m相当の海と考えられます。

 

 2nd, 神殿エリアは分布図を重ね合わせても重なり合う場所が広すぎ、特定には至りません。又、 Chapter 5 は生物が存在しない為、検証のしようがありません。

 

 Chapter 6 は主に絶滅種からなるエリアですが、回廊エリアの分布図を見てみましょう。

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『ABZU』初の淡水域となるこのエリアでは、初めて地上の方にマーカーを塗ります。但し、南米とアフリカに生息するピラルクー、北米でしか化石が見つかっていないアーケロンと、分布が離れ、特定には至りません

 最後に Chapter 7 です。

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正にこの記事で前述したように、寒冷な海であることはわかるものの、北極と南極双方の生き物が棲んでいます。

 

 全ての検証が終了しました。お疲れ様です!

ここまでお付き合い下さった方はこうも思うでしょう。「分布が重なり合わず、特定が不可能なら、調べる意味は無いのでは?」と。いえいえ、「重なっているかどうか」ということ自体がわからなかったわけですから、検証は必要であったのです。結論がこちらになります。

 では、ここから何が読み解けるのか。同じエリアに生息する生物は、分布上離れる種はあれど、ある程度は温暖な海、浅い海・深海、寒冷な海など、水族館さながら自身の生息域に即したエリアにいます。従って、生物学的にあからさまな間違いである、と断定することはできないでしょう。生態系が現在の地球とは必ずしも重なり合わないという事実は、実在の特定の地域を模倣したわけではないという事実を教えてくれます。それは、フィクションと断ずることもできましょうし、過去や未來の地球なのだとか、異世界なのだとかと解釈することも可能でしょう。

 

 最後に、『ABZÛ』の主題、メッセージ性を想起して下さい。訴えかけていることは明白で、海の環境保全自然との持続可能な共存です。ゲームをプレイし、ファンの考察を読むに留まらず、プレイヤー一人一人がこの問題について意識を向け、考え、身近な所からそれに向け取り組んでいく、そのことが大切なのだと思います。Matt Nava 氏は、ゲームという媒介を通じてこのような啓蒙を行う天才です。我々もそのシグナルを精確に受け取り、前へ進む努力をしなければなりません。

 

最後に

  通読ありがとうございました。3500字強。個人的にも寂しいですが、これにて「ZEN MASTER」シリーズは終了です。

 『ABZÛ』考察は、メインストーリー編とこの「ZEN MASTER」シリーズを終えた今、ほぼ謎も解けてきたのではないかと思います。『ABZÛ』はほんとうに素敵なゲームで、記事を書くのも楽しく、今のところ考察記事を書く見通しが立っていないのが寂しい限りです。まだ何かわからない点があるぞ! という方は、コメント欄やTwitterのDM、メールなどでお気軽にお知らせ頂けますと記事が増えます。宜しくお願いします。

 それでは、お開きとさせて頂きます。夏真っ盛り、今後も楽しい海の旅をお楽しみ下さいませ。