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架空の世界を護るために

ドラマ版『悪霊』(2014) - レビュー

 こんばんは、茅野です。

めっちゃ今更なんですが、ドラマ版の『悪霊』を買いました。

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↑ポスターがまずカッコいい。

 

 YouTubeにあるのでそちらで結構前に観たんですが、「1. 手元に置いておきたい」「2.楽しんだからにはちゃんとお金を払いたい」「3. 日本語字幕が欲しい」などの理由からDVDを漸く買いました。発売当初から日本語字幕付きDVDが出たことを知っていたのですが、財布と時間に余裕がなかったのと、「収録時間:3時間」とあり、「あれ?60分×4では?」とあり不安に思ったので購入しておりませんでした。

先日『アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語』を観てこれの存在を思い出し、安売りしていたのもあって購入。ちゃんと4時間収録されているししっかり日本語字幕付き。最高です。

 

 原作は既読ですが二年くらい前に読んだので精確に記憶しているわけではない状態です。訳は迷ったのですが別巻『スタヴローギンの告白』が余りにもマニアックで手に入れたかったので光文社古典新訳文庫さんの亀山郁夫先生訳です。観てたら読み直したくなりました。

 

 映画及びドラマのレビューは普段書かないものですから、簡単に少しだけ書いていこうかなと思います。それではお付き合い宜しくお願い致します。

 

キャスト

ニコライ・スタヴローギン: マクシム・マトヴェーエフ

ピョートル・ヴェルホヴェンスキー: アントン・シャギン

ワルワーラ・ペトローヴナ: ナジェージダ・マルキナ

マリヤ・レビャートキナ: マリヤ・シャライェバ

ゴレムイキン: セルゲイ・マコヴェツキー

リザヴェータ・トゥーシナ: イヴァンナ・ペトローヴァ

イヴァン・シャートフ: エヴゲーニー・トゥカチュク

 

総評

 良いんだな、これが。(直球)

本国ロシアの手による近代文学作品のドラマ化って異様にクオリティ高いんですよね。何故なんですかね、粗探しする方が大変なんですよね。

本国の近代文学ドラマ化というと、他に『現代の英雄』『死せる魂』『カラマーゾフの兄弟』らへんを観たのですが、どれも素晴らしいんですよね。この『悪霊』も。

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↑特に『現代の英雄』が大好きです。

 

 まず、舞台が綺麗なんですよね、めちゃくちゃ。

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↑めちゃくちゃ絵になる……。

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↑雰囲気がもう凄い。

 

 筆者は舞台の作り込みに非常に弱いのでもうこの時点で好きなんですよね(はやい)。

時代考証も文句なくて! 馬車の形状から、ピストルとリボルバー両方が使用されていることとか、掛けられたアレクサンドル2世の肖像、1869年大改革時代の不安定な機運……。素晴らしいです。

細かいところまで拘った映像化ってそれを観るだけで勉強になるからいいですよね。

 

登場人物

 ドラマ版『悪霊』の何がいいって、アントン・シャギン氏扮するピョートル・ヴェルホヴェンスキーです(断言)。

これは褒め言葉なのですが、人を小馬鹿にしたような表情が猛~~烈にウザい。

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↑ウザかわピョートルシリーズ(?)。画像だとあんまり伝わらないかもしれませんが、声も相まって映像の破壊力はすんごい。

 

いや、めちゃくちゃイメージ通りですね、ピョートル・ヴェルホヴェンスキー。狂っているんだけど、ぱっと見噛ませ役っぽいような感じが最高じゃないですか(べた褒め)。

凄い良いキャラしてるんだけど、友達にはなりたくないですね。

 ピョートルは史実のセルゲイ・ネチャーエフをベースに敷いており、ネチャーエフこそ『悪霊』っていうかんじの人なんですが、そのただならぬ感じが出ていて凄くいいですね。

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↑セルゲイ・ネチャーエフ。あくまでモデルです。

 

 ネチャーエフが何でも一人でこなす人だったのに対し、ピョートルのほうは前述の通りぱっと見噛ませ役感があります。その差を与えているのが主人公ニコライ・スタヴローギンの存在です。

ピョートルとスタヴローギンは奇妙な依存関係にあります。といっても、ほぼピョートルの方がスタヴローギンに寄っかかっている感じですが。

物語の「黒幕」はピョートルなんだけれども、更にその裏にいるのがスタヴローギンといった感じ。ピョートルのみならず、五人組や他の登場人物たちに”示唆”を与え、自ら闇に進ませるのはスタヴローギンのほうだからです。これが煽動家であり、悪霊の姿。しかしそれを当人が望んでいないというのが、『悪霊』の悲劇でもありますね。

そんなスタヴローギンにピョートルが熱烈に告白するシーンがありますが、勿論ドラマ版でも健在です()。

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↑これが愛の告白でなくてなんなんだね。

 

 対するマキシム・マトヴェーエフ氏扮するニコライ・スタヴローギンもいいですよね。

氏は先日の『アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語』でヴロンスキー役も務められていて、近代文学ドラマ化作品馴染みの顔です。

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↑ピョートル「きみは美男子だ!(迫真)」

 

 ピョートルもスタヴローギンも個性的で非常に難しい役だと思うのですが、二人がハマっているので全体的に安定感があります。

ドラマ版のニコライ・スタヴローギンは、原作にない蝶の標本作りの趣味を持っているのですが、これがめちゃくちゃイメージ通り。原作には描写がないだけで、実際にやってそうじゃないですか?

会話の中に蝶の羽化と人間を比較するものがあったり、幕切れの描写だったりと、非常に示唆的です。ドストエフスキーの哲学や宗教との関連も容易に想像できます。とてもよい。

 

 そしてヒロインsがめちゃくちゃ可愛いですね。

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↑リーザ(エリザヴェータ・トゥーシナ)

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↑ダーシャ(ダーリヤ・シャートワ)

これだけで観る価値があるというものです。

 

 足の悪いマリヤ・レビャートキナも、 ”頭がおかしい” 感じがあまりに好演すぎました。

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↑もうそういう風にしか見えない。

 

 五人組も感情の機微が現れていていいんですよね……。

あんまり関係ありませんが、ちょっと笑ったのはここ。

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↑たしかに似てる~~!!!wwww

 

構成

 大きな特徴は、原作に登場しない刑事ゴレムイキンが出て来ることによって刑事・犯罪ドラマとして成立しているという点です。これがまたいいですよね、魅せる。

 

 原作では大きな関門となる、冒頭100ページ近く続くピョートルの父ステパン・ヴェルホヴェンスキーとスタヴローギンの母ワルワーラ夫人のシーンは全面カット。シャートフの遺体発見から物語は展開します。英断です。

 

 そして、『スタヴローギンの告白』などの回想シーンを挟む点も挙げられるでしょう。これがないとスタヴローギンの心理について、やっぱりモヤモヤが残りますからね。いや、あったとしても残るんですが()。

 

 『現代の英雄』もそうですが、時系列順に揃えたり、本国の近代文学ドラマ化は順序の入れ替えが秀逸なことが多いですね。

 

 「悪霊」は原作からして難解です。特にキリーロフの宗教哲学や、ピョートルの思惑、スタヴローギンの心理を理解するには相当の読み込みが必要です。

わたしは原作既読だったのである程度は問題ありませんでしたが、原作未読だとやはり少し難しいのではないか、とも感じました。登場人物もやたら多いですしね。但し、これ以上にどういうやりようがあるだろう、というと、これがかなり正解だとおもうわけです。しょうがない、ドストエフスキーだから。

 

終わりに

 軽く、とか言いながら3000字書いている事実。通読ありがとうございました!

ドラマ版『悪霊』、お勧めです。わたしは大好きです。とても観やすい。尤も、『悪霊』は暗く重たいお話ですけれども……。

 ロシア文学ドストエフスキーがお好きだったり、取り敢えず綺麗な映像や暗いながらもハラハラするスペクタクルが観たい方には是非観て頂きたいですね。

それでは、よい観劇ライフをお過ごし下さい。