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シュトゥットガルト・バレエ団芸術監督講演と『白鳥の湖』2018/11/11

 こんばんは、茅野です。

先日、「シュトゥットガルト・バレエ団2018公演についての記事はこれにてお終いです」と書いたばっかりなんですが、早速アクロバティックに禁反言を決めてしまいました。

11月11日朝にドキュメンタリー映画シュトゥットガルト・バレエ団の奇跡』の上映会+現芸術監督であるタマシュ・ディートリヒ氏の講演にお伺いしてきました。

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その午後、空席があったので突発的に学生券を取り『白鳥の湖』を観てきました。

以下、簡単にはなりがますが、それぞれの感想です。

 

 

シュトゥットガルト・バレエ団の奇跡

 オネーギンに親しんで早3年半ですが、バレエだけでなくオペラや原作についての研究に走ったため、演奏史についてはあまり調べていなかったのですが、大いに勉強になりました。

 後ろの方の席だったので、字幕があまり見えず歯痒い思いをしましたが……。

冒頭からマルシア・ハイデ氏の長いインタビューがあり、現代の人気ダンサーにもスポットが当てられ、非常に内容の詰まった映像でした。

 今回の来日公演オネーギン初日でオネーギンを踊ったフリーデマン・フォーゲル氏は「五歳の頃からオネーギンを見て育った」と答えていて、筋金入りだ……恐れ入る……と思いました。それであの正統派オネーギンができるわけですね。

↑ 初日感想についてはこちらから。

 

 彼らの話を聞くうち、ほんとうにジョン・クランコ氏というのは天才なのだなぁと改めて思いました。私生活なんかについてははじめて伺ったので興味深かったです。

舞台裏の映像などあまり観る機会がないので貴重映像盛りだくさんで非常に楽しめました。ニューヨーク初演やモスクワ初演の体験談なんかはほんとうに臨場感があって、ドキュメンタリー映画ながらも手に汗握る展開となりました。

 また、舞踏譜の読み方についても解説していて、勉強になりました。わたしはあまり楽譜の類いを読むのが得意ではないので、実際に読むとなったら苦労しそうですが……。

 上映会場は勿論暗かったので、もしまた観る機会があればメモを取りたいですね。

 

芸術監督講演会

 続いての芸術監督講演会ですが、こちらでも興味深いお話を伺うことができました。

欲を言えば、もっとお話伺いたかったですし、質疑応答とかあればな~!とか思いましたが、出過ぎたことなので黙ります。

 タマシュ・デートリヒ氏は、曰く、1975年にニューヨークでシュトゥットガルトの公演を観てニューヨークでのキャリアを捨ててシュトゥットガルトへ向かったそうで、『オネーギン』に人生を狂わされた同志としては非常に共感致しました。

 

 又、最近実は『Mayerling(邦題:うたかたの恋)』にハマってるんですが、現在シュトゥットガルトではユルゲン・ローズ氏の演出でのものを作成中とのことで、もうワクワクが止まりません!

こんなにタイミングがよいことがあるんですね。

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↑ イメージポスター。ちょっと背徳的がすぎませんかね……。

調べましたところ、初演は2020年5月予定とのことです。たのしみ!

 

 そしてこれからはクランコ作品は勿論、未発表のクランコ作品や、クランコ以外の作品(コンテンポラリーや、『椿姫』を挙げていました)にも精力的に取り組みたいとのことで、今後とも追っていきたいですね。

貴重なお話を伺うことが出来て満足しています。

 

白鳥の湖

 行く予定はなかったのですが、感想を追っていたら、「完全悲劇の『白鳥の湖』」というのがどうしても気になってしまい、突発的に学生席を取りました。

席は4階R。凄く観やすくて驚きでした! この席3000円で入れるんですね。すごい。

 

 クランコ版白鳥の湖は初見です。

わたくしはご存じの通り(?)マイナーな作品にどっぷり浸る傾向があるので、古典作品をしっかり研究したわけではないことをご留意ください。

直近で観たものだと、Royal Opera House のライブ・ビューイングのもの。新演出で、非常に美しかったです。ROH はオペラにせよバレエにせよ、演劇性を尊ぶ演出を採用する傾向にありますよね。そういう方針なのでしょうか。実にイギリス的。

マリアネラ・ヌニェス氏のオデット / オディールと、ワディム・ムンタギロフ氏のジークフリート王子はもう文句の付けようがないほど素晴らしかったです。

↑当初行く予定はなかったのですがこんなの見せられたら行かざるを得ない。

 

 『白鳥の湖』といえば、最後は王子が赦されるハッピーエンドのものが主流。初演では現世を諦め二人で入水する結末だったようですが、クランコは彼岸での幸福すらも許さず、徹底的なバッドエンドを追求します。

 

 使われている楽曲も白鳥の湖組曲にない曲を織り交ぜ、曲順も大分入れ替えていた印象です。

そのせいか、少し冗長に感じることもありました。オネーギンを見慣れすぎたせいかもしれません。オネーギンの影響といえば、古典作品にはレヴェランスがあるのを忘れて拍手のタイミングを間違えるなど。

 

 第一幕、王子と友人達。たしかに Pas de Six は珍しいですね!当時のことを考えると尚更かもしれません。

ROH 新演出を観た後だったからかもしれませんが)セットは簡素でした。

一幕から感じていたことは、ほんとうに物語の中心に王子が据えられていて、白鳥たちは二の次というまでの印象を得ました。珍しく、王妃との不仲らしい演出がみられたところからも、それこそ『Mayerling』に近いかもしれません。

 

 第二幕、白鳥の湖。この作品に対する感想として少しおかしいかもしれませんが、非常に写実的、現実的なかんじで、不思議と神秘的には感じませんでした。演出によるものでしょうか。それにしても、ロットバルトの衣装が印象的です。騎士兜は、真逆ですが、『ローエングリン』を想起させます。

 

 第三幕。わたしは白鳥の湖は第三幕が一番好きです。チャイコフスキーの民族舞踊曲がたいへんに好きだからです。しかし、今回は凄く風変わり。珍しい「ロシアの踊り」を挿入し、代わりに「ハンガリーの踊り」がリストラされています。さらばハンガリー帝国……。白鳥の湖の原作及びモデルが明らかにされていない以上、年代を明らかにすることは適いませんが、この頃のロシアってなんなんでしょうね。モスクワ大公国?それともリューリク朝? そんなことを考えてしまう時代考証班なのでした。

 各国の踊りもかなり改変されていましたね。スペインの踊りは定番のもののほうが好きだなぁと思いつつ、ナポリの踊りはかなり難易度が高くなっていた印象です。

 黒鳥が王子を誘惑する場では、まさかのオデット登場せず。そのことから、白鳥=黒鳥説を連想しましたが、実際の所はどうなのでしょう。白鳥の湖というのは前述の通り、原作及びモデルが明らかにされていませんから、考証も出来ず歯痒いですね。折角斬新な演出なのに、主要人物の所作から感情が読み取れず、解釈に苦戦しました。

黒鳥と王子のコーダでは、黒鳥のアンナ・オサチェンコ氏が転倒してしまいヒヤッとしました。白鳥の湖も、結構けが人を出す演目なので、安全第一でお願いしたいですね。

 

 第四幕。冒頭のコール・ドから非常に美しいフォーメーションです。

白鳥やジゼルはやはり上階席で一度は観ておきたいですよね。学生席、恐るべし。

最後は噂通り王子の溺死という凄惨な結末。布を使った波の演出は『青銅の騎士』を連想し、帰宅後見比べてしまいました。上階席で観たいと言った直後ですが、ここばかりは一度、一階席で観たいと思ってしまいました。嵐が来て、雷が落ち、東屋は崩れ、湖は氾濫する。白鳥の湖組曲ラストは主題が長調になるにも関わらず。

凄いものを観てしまいました。最後あまりにも凄惨なので、王子の溺死体を前に拍手してよいものなのかと、一瞬固まってしまいましたがそれは他の観客も同じようで、一瞬空白があったように思います。

 

 斬新な解釈で非常に興味深かったです!

「リピーターになるか」と言われればなんとも言えませんが、是非一度は観て欲しい演出だと言えると思います。間違いなく。

第四幕は一度一階席で観たいですね、是非。

 

おわりに

 通読ありがとうございました。

今度こそ本当にシュトゥットガルト・バレエ団2018公演の記事はお終いです。

又の来日を首を長くして待っています。

それでは。

 

P.S.

劇場にて、当然のようにオネーギンのBlu-rayを購入しました。映像化ほんとうにおめでとうございます!とっても嬉しい……。