世界観警察

架空の世界を護るために

時代考証的側面から観るボリショイ・バレエ『オネーギン』

 こんにちは、茅野です。

いよいよシュトゥットガルト・バレエ団の『オネーギン』が迫ってきましたね! ワクワクとそわそわが止まりません!

さて、今回は別の劇場ですが、気になったことがあったので少しだけ書きたいと思います。実は長らく下書きに入れていたので時期的に今更感がありますが()、それはさておき……。

 

 

上演日

劇場情報を追っていて、一つ感動したことがありました。

ボリショイ・バレエの2018年の上演スケジュールを見てみましょう。

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半年に一回ペースかぁ~、というものの他に、一点気がついたことがありました。

 

 『オネーギン』がお好きな皆様は「名の日」についてはご存じですよね。ロシア正教に於ける、聖人の記念日を祝うもので、当時は自身の誕生日よりも盛大に祝うことが多かったそうな。

作中にも登場するタチヤーナの名の日、「聖タチヤーナの日」は旧暦の1月25日です。

 ではオネーギンは、というと、聖エヴゲーニーの日、とされるのは何日かあるのであまり考えていなかったのですが、このまえ『父と子』を読んだときにこのような表記に出くわし、ハッとしました。

「ぼくを祝ってくれ」とバザーロフがいきなり大きな声で言った。「今日は六月二十二日、ぼくの名の日だ。ぼくの天使がどんな風に世話をやいてくれるか、見てみよう。」

                  (ツルゲーネフ著・金子幸彦訳『父と子』) 

 このバザーロフ、フルネームは「エヴゲーニー・ヴァシーリッチ・バザーロフ」。

つまり、バザーロフは「聖エヴゲーニーの日」として、6月22日を採用しているのですね。

我らがオネーギンもこれに倣うかどうかはわかりませんが、上記上演スケジュールを今一度ご覧下さい。……1月25日と6月22日を含んでいるじゃありませんか! これはもしや……とか思ったりしたわけです。ちょっと胸熱じゃないですか!?

偶然かもしれませんが、もし故意なのだとしたら……(?)流石本国ロシア、最強です。是非日程を合わせて観たいとところ……。

 

第三幕のオネーギンについて

 さて、他の『オネーギン』に関する記事でもジョン・クランコの時代考証が甘いことは指摘しているのですが、その中でも最も顕著なものに第三幕のオネーギンさんが挙げられます。

中にはインタビューで「オネーギンは26歳なのに、灰色の口髭と白髪のメイクをする。ロシアの観客の前で演ずるのが怖い」と発言しているダンサーを擁すように、その乖離を認識していることが窺えます。流石義務教育で『オネーギン』を学んだ人々は言うことが違います。

↑ オネーギンの年齢については色々揉めています。詳しくはここから。

 

 そして実際、口髭メイクをやめていますから、その意見が通ったということなのでしょう。きっと某クランコ財団と凄いやりあったんだろうなぁ……(遠い目)

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↑ 第三幕のオネーギン。ルスラン・スクヴォルツォフ氏。

 先日の講義でもあったように、クランコ財団は本当に厳しいことで有名なので、交渉もきっと難航したはずです。ボリショイでは、「オネーギン事件(※)」なんて呼ばれることもある、配役に関する交渉決裂も有名ですからね……。(※人気プリマのスヴェトラーナ・ザハロワ姫が降板した問題。理由として、クランコ財団との不和や、彼女が統一ロシア党に属していたことなどからなる政治的要因、独ソ戦まで遡る(!?)独露関係が起因している説など、色々な説が囁かれていますが()、真偽のほどは定かではありません。)

↑ 講義の感想記事。

 

 演技面でも当劇場は非常にハイクオリティです。色々細かいと思います。

 ずっと言ってるんですけど、オネーギンはナルシシズム<隠遁主義じゃないとオネーギンにならないんですよね。この不等号がひっくり返ってしまうと、なんというか、「ロシアの魂を持った」というより、「パリジャンの」という形容があってしまいそう。

タチヤーナは第一幕では愛のために危険を冒すような熱い魂を持った少女で、第三幕ではそれに優雅さと品位のヴェールを被せた大人の女性である必要があります。

レンスキーは、ただの好青年であるだけではなく、熱烈で、且つ少し垢抜けない表情が必要です。

オリガの第二幕での軽薄さは原作やオペラを超えます。いかに意地悪そうではなく、可愛らしげに演ずるかが肝です。

 

終わりに

 まあ、それだけなんですけれども!

備忘録も兼ねて細々としたことも書いていこうかな、という方針ということでひとつ。

それにシュトゥットのオネーギンが!迫っておりますし!!非常に楽しみですね!!

通読ありがとうございました。

それでは、オネーギンファンが増えることを願って。