こんにちは、相変わらずトリコ関連図書で読書漬けの茅野です。
こちらは『人喰いの大鷲トリコ』考察の2回目になります。とはいえ、今回はトリコだけではなく、上田文人氏の3作品を扱います。
当たり前ですがネタバレ祭りなので、未プレイの方は閲覧注意です。また、今回はICO、ワンダと巨像の考察、ネタバレも豊富ですのでそちらに関しても注意してください。
今回の議題は「ICO、ワンダと巨像、人喰いの大鷲トリコの繋がりと、光、影、角に見る寓意性」の2つです。
上田文人氏の作品は、どことなく世界観が似ており、繋がっているという発想をする方が多いようです。
メタな話、彼は全く意図していないそうなのですが、やっぱり繋がっていると考えた方が浪漫がありますし、繋がっていると考えることで筋立ってくる部分もあります。
今回の記事では、三作品の共通点を明らかにし、また繋がっていると仮定した場合の時系列などを考察していきたいと思います。
1. これまでの通説
先に時系列について考えていきましょう。繋がっていなかったとしても、舞台となる世界の新古くらいは明らかになるはずです。
『ICO』と『ワンダと巨像』では、『ワンダと巨像』の方が古い時代なのではないか、というのが通説でした。
根拠は、ツノの生える子供のはじまりがワンダではないかという説が有力だからです。
つまりイコはワンダの末裔なのではないかということですね。
確かに、ツノは力の象徴。ツノのある子供は力が強い、というのは『ICO』において言及されています。
一方ワンダと巨像では、赤ちゃんワンダに残ったツノはドルミンの名残、とされています。(『ワンダと巨像』公式ガイドブックより)
あの巨大なドルミンの力が少し残っているならそりゃあ強いですよね。このことから、ワンダがツノのある子供の元祖なのではないか、という考え方が一般的なのです。
では、トリコはどうでしょう?
ツノが生えているのは少年ではなくトリコのほうですし、前二作品と比べると繋がりも薄く感じます。
強いて言えば、鏡を拾う場所がワンダで出てくる泉と酷似していることくらいでしょうか。
↑ワンダと巨像の泉 凄い体勢ですが気にしないで下さい
↑人喰いの大鷲トリコの泉
よく見ると、サイズにも大分違いがありそうですね。(ワンダの泉の方が大きい)。
2. 武器から比較する
一番身近なもの―――武器から考えていきましょう。
ICO
イコのメインウェポンは角材です。木を切り出したものですから、めちゃくちゃプリミティブですね。
他の武器はロングソード、棘付き棍棒、光の剣、女王の剣になります。
光の剣、女王の剣に関しては、科学技術というよりも魔術的な側面が強く、ロングソード、棘付き棍棒(メイス)は、共に青銅器時代=紀元前3500年頃には一般的になっていた武器です。
ワンダと巨像
ワンダと巨像では、沢山の武器を扱うことが出来ます。流石は三作品のなかでアクション要素が一番強いゲームと言えましょう。
メインウェポンは古えの剣と弓矢。
剣については先ほど記した通りです。弓矢というのもプリミティブに思えますが、実は伝来していなかった場所が存在します。
めっちゃ雑ですが、赤く塗られているところが弓矢の伝来しなかった地域です。
アフリカとポリネシア、ミクロネシア、メラネシア、そしてオーストラリアですね。
上記地域はワンダ、トリコのモデルから除外してしまってもよいでしょう。(トリコに関しては後記。)
尤も、モンゴロイドのイコやトリコの少年と比べ、ワンダはコーカソイドに近い顔立ちをしているため、北西の方かもしれませんね。
逆に、最も近代的なのは、やはり若しの布でしょうか。
しかしパラシュートも、初出は850年代らしいですから、近代的とは呼べないかもしれませんね。
弓矢といえば、エモン一行にクロスボウを使う者がいますね。
クロスボウの前身となる、弩が発明されたのは紀元前2世紀のことで、中国が発祥です。ちなみに日本では弥生時代に誕生しています。
西洋において、クロスボウが一般的に普及されるようになったのは、10世紀以降のことです。13世紀にもなると戦争で活躍するようになってきます。
ワンダの舞台を西洋だと考える場合には頭の隅に入れておいた方がよい知識ですね。
人喰いの大鷲トリコ
主人公たる少年は鏡の他に丸腰ですので、ヨロイや村民の用いている武器から考えましょう。
大鷲に対する基本的な攻撃手段は投げ槍ですね。
投げ槍は、弓矢が発明される以前に使われていたものです。その歴史は剣よりも長いとされています。
ですから、ワンダよりも時代が前なのかと一瞬考えたのですが、実は弓矢は地味~に一瞬出てくるんですよね。
フラッシュバック2で、村民がトリコを弓矢で狙っているのが一瞬映ります。
矢は小さいですから、純粋に大鷲に対しての対抗武器として投げ槍の方が有用だったのでしょうね。
それにメタな話、トリコの巨体に刺さった小さい矢を探すのは骨折りです。(もしも敵の武器が弓矢だったら、トロフィー:速やかな対応を取るのは大変だったかも……。)
というわけで、先ほどの雑な弓矢分布地図がトリコにも当てはまるというわけですね。
ちなみに弓矢自体は約1万年前から存在が確認されているとされます!文明が生まれた頃より共にあった武器なのですね。
上記から、武器種のみで時代を考える場合、少なくとも
ICO: 紀元前3500年以降
ワンダ: 850年以降 (西洋だと考える場合は10世紀以降)
トリコ: 紀元前10千年以降
だということが言えそうです。
通説に則り、ワンダが一番古いのだとすると、大分絞れてきますね。めちゃくちゃアバウトじゃねえか
まあ、少なくとも全く分からないよりマシ……と、信じたい。
3. 建築技術から比較する
上田文人氏というのはとんでもない天才であらせられて、資料を見ることなく自分の頭に閃いたものをそのまま形にした……なんて恐ろしいことを平気で仰います。
トリコの塔だって、参考としたのは空から30分見たスカイツリーだとか……。
それでもある程度は私も調べてみたのですが、「これだ!」とピタリとくる建築技法はなく……。
建築家の方なら何か分かることもあるのでしょうが、全くの門外漢である私ではよく分からなかったことを報告させて頂きます。
1つ言えるのは、特定のものだけではなく、色々組み合わせて創られたのでしょう、ということです。
門外漢でもわかることといえば、トリコの舞台となる遺跡の建築技術の高さです。
まず、高い塔を建てるということは大変だ、ということは想像に難くないですよね。
それがあんなに沢山あるともなれば、膨大な時間と労力が使われたはずです。また、現代の技術でもあの大鷲の巣を作ることが出来るのか、私にはわかりません。(地震が来たらドミノ倒しのように倒壊しそう。)
従来塔には、軍事的意味と宗教的意味の2つの意味があるとされます。
高い所から敵の襲撃を確認したりする物見櫓的な用途と、天に近付くことで神々との接触を図ろうという宗教的意図ですね。
ただし、これは「遺跡」であり、現在その意味が機能しているのかどうかはわかりません。
「大鷲の巣」と呼ばれる通り、今あの場には大鷲たち、巣の主、ヨロイと、後は小動物しかいないのですから。
三作品で比較した時、ICOの霧の城の構造が一番モダンではないかと思います。
トリコの建築技法は確かに優れていますが、ICOの終盤、ヨルダと別れたあたりのメカニカルな部分は、産業革命時代を連想させますよね。
ICO公式ガイドブックでも、「段ボールや蛍光灯があるのは、ちょっとストレンジな世界観にしたかった」と制作陣が仰っていますし、それが答えなのではないでしょうか。
ちなみに段ボール、蛍光灯共に、発明されたのは19世紀イギリスのようです。 やはり産業革命後くらいですね。ICOの時代はもしかしたらそれくらいなのかもしれません。
上記から、建造物で比較した場合、
古 ワンダ トリコ ICO 新
という順番ではないか、というのが当方の見解です。
初期段階では、ワンダはSFにする予定だったそうですから、それが一番古いと考察されるようになるとは不思議なものですね。
4. ストーリーから比較する
人喰いの大鷲トリコでは、ツノがあるのは少年ではなく、トリコの方です。故に、少年はイケニエはなく、選ばれし者と呼ばれます。
では、トリコ世界にツノのある子供はいないのでしょうか。
いない、とするならば、例えば時系列はICO→トリコだとして、イコが最後のツノのある少年だった、捉えることも可能です。
いる、とするならば、たまたまトリコの世界では人間に生えたツノは描写されなかったのだろう、と考えることも出来ます。
しかし、ヨロイにはツノが生えていますから、少なくともトリコの世界でもツノの生えた人間はいたのではないか、と思います。大鷲のツノを模倣した可能性も否めませんが……。
全くもって根拠不足ですので、ここから断定することは不可能です。
5. 光と影、そして角
ファンタジー小説の章題のようなテーマですね。
ここでは、三作品に共通するものについて考察していきます。
タイトル通り、三作品に共通するアイコニックなものが光と影とツノです。
作品によって少しずつ姿を変えますが、ラスボスは影であり、対抗するのが光です。
分かりやすくするため、こんな図を作成してみました。
いかずちの画像が違うぞ!という突っ込みはナシでお願いします。うまくスクショが取れなかったんだよ
表記は、便宜的に先ほど述べた順番に致しました。仮定の上に成り立つ仮定ですので、順番に関してはあまり気にする必要はないです。
先に、影について掘り下げます。
『ワンダと巨像』のラスボス:ドルミンとは一体何者なのでしょうか?
公式で明言されているのは、「人知を越えた存在」。その一言だけです。
要は悪魔とか神とか、そういう類のものなのでしょう。
ドルミンの封印されている場所が如何にも神殿然としているので、もしドルミンに種族名を与えるならば、私は神が正しいのではないかと思います。
ワンダのいる村では、ドルミンの存在は禁忌とされいるようですから、言うなれば邪神といったところでしょうか。
ドルミンが影の始まりとすると、影は元々は神の力だということになりますね。
では、巣の主はどうでしょうか。
これもまた影の一部でしょう。ドルミンから派生したものかどうかは不明です。(ソースが何もないため、考察のしようがないからです。これ以後は妄想になってしまいます。)
しかし、名前も示すとおり、大鷲の巣を支配していることは疑いようもないですね。
女王にも、全く同じことが言えますね。
つまり、影は人知を超えた神のような存在で、その世界を支配するものなのではないかということです。
次に、光に関してはどうでしょうか。
ICOやトリコでは、ギミックにも使われていますね。
これにはレベルデザイン的な大人の事情もあるでしょうが、ラスボスたる影の近くに対抗する光があるというのも特徴の1つですね。(ドルミン→泉、巣の主→大鷲、女王→女王の剣)
心情を推察するならば、対抗手段は目の届くところに置いておきたい…とかでしょうか。結果的に置けてないけどね!
実は、光に関しては影よりも存在が曖昧です。
情報は「影を打ち倒すもの」くらいのもので、実態は謎に包まれています。
影があって始めて存在できるものなのかもしれません。或いはまたその逆も。光あるところに影がある。
登場人物のなかで光を扱うことが出来るのはヨルダとエモンです。
ヨルダは最後影になってしまうので、影と光は表裏一体であるという寓意性を促進させています。
エモンは公式ガイドブックによると、シャーマンらしいです。ですから、ギミックも相まって、光に関しては魔術的なものだと言うことが出来るでしょう。
尤も、エモンはただの村民で、力があったのは古えの剣だけだとも考えられますが、まあ呪文唱えてたし何某かの力はあるでしょう。あると威厳が出ますよエモン様。
最後にツノについて考えましょう。
ワンダに生えたツノはドルミンの名残です。
そして、イコに生えたツノはイケニエの印で、一般人よりも力が強くなります。
このことから、ドルミン→ワンダはイコの祖先であろうことは最初に述べましたね。
また、それらと繋がりがあるのかどうかは分かりませんが、大鷲トリコにもツノが生えていて、このツノを媒体にトリコの"影"である巣の主が彼らを操っています。
この構図は、『ICO』と同じであることにお気づきでしょうか?
女王(影)は、イケニエ(ツノ)を捕らえ、棺で影(=手下)を生成し、従えるのです。
トリコでは、巣の主(影)がトリコ(ツノ)を従えています。
つまり、上田文人氏の作品において、ツノは操られる者という寓意性を孕んでいるのです。
ちなみにICOにおける敵である「影」は、ハードのスペックという大人の事情によって真っ黒な影になったそうです。ですから、元々上田氏はどんな敵を出すことにしたかったのか、という妄想が捗りますね。もしかしたら、普通にイコのような角のある少年少女たちだったのやも……。
また、前回の記事に詳しいですが、ツノは聖性を表すこともあり、「ツノのある者を従える」というのは禁忌なのかもしれないですね。だから影は悪として扱われるのではないか、という推論です。
↑前回の記事。
ICOのラストで、イコはツノが両方とも折れてしまいます。これは一般人となったことを意味し、イケニエという悲しい立場からの解放を示しています。
人喰いの大鷲トリコでは逆に、最初からトリコのツノが折れてしまっています。これにより、白い塔からの洗脳電波を受信しなくなっています。つまり、白い塔の呪縛からの解放を示しているのですね。
前述のツノ=操られる者説をもっともよく表している描写ではないでしょうか。
一方ワンダと巨像では、ラストでワンダにツノが生えます。ともすれば、これは共存を指し示すように思われるのですが、如何でしょうか。
また、これらからトンデモ説を考え出すことも出来ます。
ICOの影は、女王戦前の描写から、イケニエとなった子供達が影になったのではないか、という説がとても有力ですね。
それは即ち、ツノが影になる、ということです。
それに則れば、大鷲達も死ぬと巣の主になる……なんて根拠の薄いトンデモ説も唱えることが可能です!
これはこれで面白いかもしれませんね。
6. 最後に
長くなりましたが、最後までお付き合いありがとうございました。
まだ論じていない謎に関しましては、別記事で纏めたいと思っております。宜しければそちらでもまたお会いできれば嬉しいです。
それでは、あなたとトリコの旅に幸の多からんことを。