世界観警察

架空の世界を護るために

ABZUとはなにか - 『ABZÛ』考察1

 こんばんは、茅野です!夏ですね!

夏と言えばなんですか? ですね!私は先日研究会の仲間と一泊二日で海行きました!(ブログらしい報告)

わたくしの日常はどうでもよくてですね!海と言えばなんですか!?

『ABZU』ですよね~!!

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と、いうわけで! ABZU考察のお時間ですよ!!!!!

 

 ……と、言いますのも、『ABZU』を始めてプレイしたのは丁度1年前くらい。実に1年間も記事の執筆をサボっていたんですね(※ABZU発売日は2016/8/2。1周年おめでとうございます! 発売直後に買った古参です)

 資料集めや検証はちゃんとやっていたんですが、こうやって文章化するのを完全に怠っておりました。ブログを開設したのが12月でしたから……『ABZU』やる気分じゃないよね(言い訳)。

Q. 夏、最もリプレイ性の高いゲーム。それは一体?

A. 『ABZU』です(断言)。 夏は『ABZU』で涼みましょう。

 

 しかしこのABZU、考察界を揺るがす超高難易度の考察ゲーなのをご存じでしょうか。プレイされた皆様も、正直意味不明だったと思います。斯く言う当方も、初見プレイ時はお恥ずかしながら何一つわからず、ただ音楽とストーリーに酔っておりました。

 

 しかし! わたくしはもう画面の前で泣き崩れるだけのゲーマーではありません! 一考察書きとして、高難易度と、日本での低知名度故に混迷する『ABZU』考察界を牽引していきたいと熱望しております。

というわけで、考察に熱を入れていきますのでお付き合い宜しくお願い致します。

 

 今回は、メインストーリーの考察シリーズになりますが、他に登場する全ての水棲生物を纏め、分布を確認する「ZEN MASTER」シリーズという別の『ABZU』考察も連載しております(完結済み)。併せてご確認頂けると、より理解が深まるものと自負しておりますので、どうぞ宜しくお願い致します!

 

 当考察シリーズは、当然ですが、ネタバレの山です。新規プレイヤー獲得の為、非ネタバレで愛する『ABZU』への愛を叫びたい気持ちは山々ですが、今回はそのような記事では御座いませんのでご承知下さいませ。

 

 『ABZU』は前述の通り非常に難解な考察要素を含むゲームですので、記事を複数回に分けます。第一回目は、「ABZUとはなにか」という、シンプル且つ早急に解き明かすべき議題を、元ネタと考えられるメソポタミア神話を用いて解説していきます。

 

 それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

 

 

ABZUとはなにか

 タイトルからして謎に満ちあふれているこのゲーム。読み方すら不明という不親切さ。「ABZU」とは、なんでしょうか?

 ABZUは、シュメール神話、及びアッカド神話に伝わる「生命を維持する原初の深淵の淡水」のことです。

これだけだと意味不明ですが、ABZUをプレイした皆様ならピン!ときているはず……!

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↑ パッケージ版の表紙にもなっている一枚。主人公が触れているのは……。

 

 ではこのABZU、なんと発音するのでしょうか?

『ABZU』は thatgamecompany から独立した Giant Squid さんというアメリカのカンパニーの作品ですが、お察しのように英語ではありません。

 ABZUには、2通りの読み方があります。

まず、アッカド風に読む読み方。アッカドでは、APSUと書き、アプスーと発音しました。一方、シュメールでは、ABZUと書き、アブズと発音したのです。

方言的な差なので、APSU?はて?と思う必要はありません。同じものを指しています。お好きな方で呼べば宜しいかと思いますが、ABZUと表記した際にはアブズと呼ぶのがよいのではないか、と思います。ややこしいので、当ブログでは今後、タイトルに合わせ、ABZU/アブズの読み方を採用しようと思います。

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↑ 古代メソポタミアの地図。青い部分がアッカド、緑の部分がシュメールです。現在の位置にして、イラク東南部とされます。

 

 読み方からして2通りあって面倒くさいABZU。そして、「ABZU」と言った際、指すものも2つあるのです。この段階でややこしい!

 ABZUは「生命を維持する原初の深淵の淡水」である、と先ほどお伝えしました。シュメールではそうなんですが、アッカドでは少々意味合いが変わってきます。

なんと、ABZUという名前の神様がおわすんです!

 

神としてのABZU

 神話はその多くがそうですが、アッカド神話でもその例に漏れず多神教であります。

そして、「○○を司る」のように、その○○の擬人化みたいなところがあります。日本オタク文化だけじゃなかった擬人化文化。

アプスー神もそうです。アプスー神は、この「生命を維持する原初の深淵の淡水、及び"淡水"を司る男神」であらせられます。

 

 アプスー神が登場するのは、アッカド神話の天地創造物語「E-nu-ma E-liš (エヌマ・エリシュ)」です。

今回、『エヌマ・エリシュ』について解説するにあたり、翻訳したり、色々調べたりしました。いや~楽しかった~。これが考察の醍醐味ですよね。

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Excelを用いて翻訳にチャレンジ。

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↑ 筑摩世界文學大系シリーズの「古代オリエント集」。とても参考になりました。『ABZU』考察では、主に当書籍をリサーチソースにしています。購入したいのですが、一冊7000円はしんどい…。5000兆円欲しい!

 

 では、その『エヌマ・エリシュ』について解説していこうと思います。お前の解説じゃ足りねーよ! という方は上記の古代オリエント集を熟読してください。

 『エヌマ・エリシュ』は、7つの粘土版からなるアッカドに於ける天地創造物語です。キリスト教でいうところの『創世記』ですね。

アプスーが登場するのは第1粘土版のみなので、第1粘土版について、詳しく解説したいと思います。

冒頭部を拙訳にてそのまま掲載しますので、お楽しみ下さい。

天国に名が無かった頃

地界にもまだ名の無かった頃

原初の神アプスーが全てを生じさせ

また混沌の神ティアマトもまた、それら全ての母であった

淡水(アプスー)と海水(ティアマト)は混ざり合い

地に形はなく、泥濘も見られなかった

神々は未だ生まれ出ておらず

故に名前を持つ者もなく、運命も定められていなかった

後に神々は天国の中心で創造された

                      (『エヌマ・エリシュ』拙訳)

   この後は神話あるある、神々の名前がズラーーっと並んでとてもややこしくなっていきます。

シュメール神話では、アブズが「神秘的な原初の淡水」だったのに対し、アッカド神話での神アプスーは、唯の「淡水」も司ることが読み取れます。

 原初の神、淡水、神々の父であるアプスー。同じく原初の神であり、海水を司り、神々の母であるティアマト。

そして……。

生み出された神々は、神の住まいで馬鹿騒ぎをし、アプスーを怒らせ、ティアマトを滅入らせた

アプスーは、彼らを鎮めることが出来なかった

(中略)

アプスーは声高にこう言った

「彼らは不愉快だ。昼も落ち着けず、夜も眠れない

彼らのやること妨害したい

この地に静寂が訪れるといい」

ティアマトは腹を立て、夫(アプスー)に向かって反論した

「自らが名付けた者を滅ぼすなんて

もう少し寛大になるべきです」

霧の神ムンムはこれに反対し、アプスーにこう持ちかけた

 「父よ、彼らの蛮行を直ちにやめさせるべきです

母だってああ言ってはいるが、本当は困っています」

(中略)

優れた知識の神エアは、彼らの謀りに気が付いた

彼は神々を守る強固な結界を張り、強力な呪文で淡水(アプスー)を鎮めた

エアの呪文により、アプスーは眠ってしまった

その間にエアは、彼の冠を外し、自ら纏った

エアはアプスーを縛り、そして殺した

(中略)

彼は『原初の淡水(アプスー)』の上に自らの住まいを建てた

その神殿こそを『é-abzu (エアブズ)』と名付け、聖所と定めたのだ

                      (『エヌマ・エリシュ』拙訳)

 そうです。アプスーは彼の子孫たるエア神に殺害されてしまうのです。

エア神とは何者か、というと、アッカド神話に於いては「水の神」とされています。理由としては明確で、上記エヌマ・エリシュで淡水を司る神: アプスーを征服した為です。

一方シュメール神話に於いては知識、繁殖などを司っています。又、シュメールでは「エア」ではなく、「エンキ」と呼ばれます。エンキ神(=エア神)は、かの『ギルガメシュ叙事詩』に登場する、エンキドゥの名の由来と言われています

 ABZU考察の際、『エヌマ・エリシュ』で押さえておくべき神はこの三神であると言えるでしょう。

 

原初の淡水アブズと神殿エアブズ

 アッカド神話『エヌマ・エリシュ』に於けるアプスー神についてご理解頂いたところで、ゲーム本編と絡めて考えていきましょう。

 

 『ABZU』では、「水の中にいるはずなのに、別の水がある」という不可思議な状態がおきています。ここが『ABZU』プレイヤーを大いに悩ませるポイントだと思うのですが、ここまで読んできた皆さんはもう大丈夫でしょう。

 主人公が泳いでいる場所が海。そして、彼が触れ、操り、泳ぐ「水」―――これが、「原初の深淵の淡水 ABZU」なのです。

 

 神話研究において、「神の殺害」は特に大きな意味を持ちます。

エヌマ・エリシュ終盤では、神々の母ティアマトも殺害されてしまうのですが、遺体を散らすなど特徴的な説明が入ります。(7つの海の示唆?

よって、「人の手によって海をある程度制御することが出来るようになった」と読むことができるでしょう。

 では、我らがアプスー神はどうでしょう。

殺害され、その後一切触れられることのなかった原初の神。

「淡水を司る」という属性は、エア神に引き継がれています。しかし、「生命を維持する神秘の淡水」の扱いはどうなってしまったのでしょう。

 現代を生きる我々は、そんなもの見たことも聞いたこともありませんよね。

これが答えだ、と言うことが出来るでしょう

 「失われてしまった」。=殺された。

我々は、ABZUというゲームで、失われたシュメール、アッカドの神話世界を旅することが出来るのです。

 エア神がアプスーの上に建てたという、神殿エアブズ。

その姿が、これなのでしょう。 美しいですね……。

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「深淵」

 先ほどから「ABZU」を形容する時に出てくる、「深淵」のことば。

これはどういうことなのでしょう。

アブズ、アプスーという語感から、何か連想出来る英単語はありませんか?

そうです。 「ABYSS 深淵」は、このABZUが語源だ、とされているのです。

f:id:sylphes:20170808060017j:plain↑「深淵」と言われれば確かにその通り。

 今でも海の奥底には聖なる水が眠っているのかもしれません。なんと胸熱な。

 

最後に

 シュメールに於けるアブズ、そしてアッカドに於けるアプスー神について解説致しましたが、如何でしたでしょうか。

「水の中にいるはずなのになんで他に水があるの?」という、ABZUの大きな謎が解消されたとしたら幸いです。

これ以外にも謎が謎を呼び謎すぎて訳の分からん『ABZU』。次回となる第2回目は、「僚機、三角体、そして主人公は何者なのか…?」という、大きな謎に立ち向かってゆく予定です。お楽しみに。

↑ 続きの記事が仕上がりました。こちらからどうぞ。